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17 あなたは安心してグレイ王太子殿下に嫁ぎなさい
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スカーレットの周りにはこれまで、学友、側近と呼べる令嬢がいた。
しかし今はこの国に来たばかりでそれぞれの人となり──近付いてくる者たちの腹の内を探っている段階だ。
友人と呼べる令嬢はいなかった。
しかし、スカーレットは商人としてのクラレットを信用している。そして自分の気持ちを理性で押し込め、貴族としての覚悟を見せてくれたキャナリィも。
表情に感情を出さないようにと教育されているにもかかわらず、ばれてしまったスカーレットの本当の気持ち。
──でもそれでも無理なのよ。ウィスタリア侯爵令嬢には最後までわたくしの計画に付き合ってもらわなくてはならないわ。
キャナリィの質問に答えねばならない。「嫌がらせ」と言うわけではないのだと。
それにここでスカーレットの計画が知られても既に後戻りは出来ない段階に来ているのだから構わないだろう。
「もう遅いの。わたくしの気持ちがどこにあるかなどどうでもいいことなのよ──」
スカーレットはシンとした室内に響いた自身の声に少し驚いた。
「わたくしはこれまで通り、わたくしの目的を達成するために動くのみですわ──」
「目的?」
「それは勿論、グレイ王太子殿下が最愛とこの先の人生を歩むことができるようにすることですわ」
キャナリィには何が勿論なのかは分からなかった。
しかもそれでいくと、グレイの想い人が自分であるとスカーレットは思っているということになる。一体何故?
「それが何故このようなことに繋がるのですか?」
クラレットは相変わらずの無表情で冷静にスカーレットに質問した。
全く分からないと言った感じだ。
「グレイ様は王太子であるにも関わらず婚約者がおられないでしょう。色々お噂は耳に入ってきますが、わたくし思いましたの。──グレイ様にはきっとお慕いする令嬢がいるのだと」
スカーレットはキャナリィに視線を向けると改めて言った。
「殿下はきっとウィスタリア侯爵令嬢のことが昔からお好きなのよ。
歓迎パーティーでフロスティ公爵令息に寄り添うあなたをずっと見つめていたのだから間違いは無いわ」
スカーレットは家族に「国のことは考えなくていい」と言われた。
そこで「グレイに未だ婚約者がいないのはきっと好きな令嬢がいるに違いない」という予測から、幼いころ好きだったグレイに幸せになってもらおうとその令嬢との恋路を応援するためにやってきたのだ。
グレイは既に立太子している。これ以上婚約者を作らずに引き伸ばすことは難しいだろう。グレイの想い人とは別の令嬢があてがわれるかもしれない。
そうなる前に急がなければならないと、中途半端な時期からの留学になってしまった。
お相手の令嬢を見つけるにあたり、面識のあったシアンに協力を仰ごうと探していたが、そこで問題が起きた。
当該の令嬢がそのシアンの婚約者だったのだ。
そこでスカーレットは自身がシアンを望んでいるのではないかと周囲に思わせることで誤誘導し、シアンとキャナリィの婚約が解消となるよう画策した。
そして今夜噂通りグレイがキャナリィのエスコートをすることで、もう一つの噂である二人の婚約も「事実」として学園の外に広がるように操作しようとしたのだ。
各貴族家の当主がその「事実」を前提に動くことにより流れが変わり、フロスティ公爵家はスカーレットがシアンと婚約をすることによる旨味が増す。
グレイは婚約者不在となったキャナリィと自然な形で婚約することが出来るのだ。
当然ウィスタリア侯爵家も家門から未来の王妃を出すという旨味があるため否やは無いはずだ。
あの歓迎パーティーでスカーレットはグレイの視線の先にいるキャナリィを見て「見つけた」と思った。
「わたくしがフロスティ公爵令息に嫁ぎます。公爵領はわたくしに任せてあなたは安心してグレイ王太子殿下に嫁ぎなさい」
気配を消して冷えた紅茶を入れ替える侍女は、知っていたのか全く動じる様子はない。
しかしスカーレットならば、やろうと思えば他の令嬢を薦めることも出来たはずだ。
「それなのですが、どうして王女殿下自ら公爵家に嫁ぐ必要が?」
スカーレットはグレイの恋を応援すると決めた時から、グレイの想い人が既に婚約している可能性を考えていた。
そうなるとその婚約を解消させる必要がある。
貴族の婚約は当主が決める。
ならば当主が婚約を解消しようと思う要因は何か──現在の相手より家のためになるであろう者との婚約だ。
スカーレットは王族。これ以上の縁談があるだろうか。
そして婚約を解消された側の当主も、娘が王太子妃になれるとあらば二つ返事で婚約解消に応じるに違いない。そう思ったのだ。
しかし今はこの国に来たばかりでそれぞれの人となり──近付いてくる者たちの腹の内を探っている段階だ。
友人と呼べる令嬢はいなかった。
しかし、スカーレットは商人としてのクラレットを信用している。そして自分の気持ちを理性で押し込め、貴族としての覚悟を見せてくれたキャナリィも。
表情に感情を出さないようにと教育されているにもかかわらず、ばれてしまったスカーレットの本当の気持ち。
──でもそれでも無理なのよ。ウィスタリア侯爵令嬢には最後までわたくしの計画に付き合ってもらわなくてはならないわ。
キャナリィの質問に答えねばならない。「嫌がらせ」と言うわけではないのだと。
それにここでスカーレットの計画が知られても既に後戻りは出来ない段階に来ているのだから構わないだろう。
「もう遅いの。わたくしの気持ちがどこにあるかなどどうでもいいことなのよ──」
スカーレットはシンとした室内に響いた自身の声に少し驚いた。
「わたくしはこれまで通り、わたくしの目的を達成するために動くのみですわ──」
「目的?」
「それは勿論、グレイ王太子殿下が最愛とこの先の人生を歩むことができるようにすることですわ」
キャナリィには何が勿論なのかは分からなかった。
しかもそれでいくと、グレイの想い人が自分であるとスカーレットは思っているということになる。一体何故?
「それが何故このようなことに繋がるのですか?」
クラレットは相変わらずの無表情で冷静にスカーレットに質問した。
全く分からないと言った感じだ。
「グレイ様は王太子であるにも関わらず婚約者がおられないでしょう。色々お噂は耳に入ってきますが、わたくし思いましたの。──グレイ様にはきっとお慕いする令嬢がいるのだと」
スカーレットはキャナリィに視線を向けると改めて言った。
「殿下はきっとウィスタリア侯爵令嬢のことが昔からお好きなのよ。
歓迎パーティーでフロスティ公爵令息に寄り添うあなたをずっと見つめていたのだから間違いは無いわ」
スカーレットは家族に「国のことは考えなくていい」と言われた。
そこで「グレイに未だ婚約者がいないのはきっと好きな令嬢がいるに違いない」という予測から、幼いころ好きだったグレイに幸せになってもらおうとその令嬢との恋路を応援するためにやってきたのだ。
グレイは既に立太子している。これ以上婚約者を作らずに引き伸ばすことは難しいだろう。グレイの想い人とは別の令嬢があてがわれるかもしれない。
そうなる前に急がなければならないと、中途半端な時期からの留学になってしまった。
お相手の令嬢を見つけるにあたり、面識のあったシアンに協力を仰ごうと探していたが、そこで問題が起きた。
当該の令嬢がそのシアンの婚約者だったのだ。
そこでスカーレットは自身がシアンを望んでいるのではないかと周囲に思わせることで誤誘導し、シアンとキャナリィの婚約が解消となるよう画策した。
そして今夜噂通りグレイがキャナリィのエスコートをすることで、もう一つの噂である二人の婚約も「事実」として学園の外に広がるように操作しようとしたのだ。
各貴族家の当主がその「事実」を前提に動くことにより流れが変わり、フロスティ公爵家はスカーレットがシアンと婚約をすることによる旨味が増す。
グレイは婚約者不在となったキャナリィと自然な形で婚約することが出来るのだ。
当然ウィスタリア侯爵家も家門から未来の王妃を出すという旨味があるため否やは無いはずだ。
あの歓迎パーティーでスカーレットはグレイの視線の先にいるキャナリィを見て「見つけた」と思った。
「わたくしがフロスティ公爵令息に嫁ぎます。公爵領はわたくしに任せてあなたは安心してグレイ王太子殿下に嫁ぎなさい」
気配を消して冷えた紅茶を入れ替える侍女は、知っていたのか全く動じる様子はない。
しかしスカーレットならば、やろうと思えば他の令嬢を薦めることも出来たはずだ。
「それなのですが、どうして王女殿下自ら公爵家に嫁ぐ必要が?」
スカーレットはグレイの恋を応援すると決めた時から、グレイの想い人が既に婚約している可能性を考えていた。
そうなるとその婚約を解消させる必要がある。
貴族の婚約は当主が決める。
ならば当主が婚約を解消しようと思う要因は何か──現在の相手より家のためになるであろう者との婚約だ。
スカーレットは王族。これ以上の縁談があるだろうか。
そして婚約を解消された側の当主も、娘が王太子妃になれるとあらば二つ返事で婚約解消に応じるに違いない。そう思ったのだ。
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