【完結】で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?

Debby

文字の大きさ
17 / 27

17 あなたは安心してグレイ王太子殿下に嫁ぎなさい

しおりを挟む
 スカーレットの周りにはこれまで、学友、側近と呼べる令嬢がいた。
 しかし今はこの国に来たばかりでそれぞれの人となり──近付いてくる者たちの腹の内を探っている段階だ。
 友人と呼べる令嬢はいなかった。
 しかし、スカーレットは商人としてのクラレットを信用している。そして自分の気持ちを理性で押し込め、貴族としての覚悟を見せてくれたキャナリィも。
 表情に感情を出さないようにと教育されているにもかかわらず、ばれてしまったスカーレットの本当の気持ち初恋

 ──でもそれでも無理なのよ。ウィスタリア侯爵令嬢には最後までわたくしの計画に付き合ってもらわなくてはならないわ。

 キャナリィの質問に答えねばならない。「嫌がらせ」と言うわけではないのだと。
 それにここでスカーレットの計画が知られても既に後戻りは出来ない段階に来ているのだから構わないだろう。

「もう遅いの。わたくしの気持ちがどこにあるかなどどうでもいいことなのよ──」

 スカーレットはシンとした室内に響いた自身の声に少し驚いた。

「わたくしはこれまで通り、わたくしの目的を達成するために動くのみですわ──」

「目的?」

「それは勿論、グレイ王太子殿下が最愛とこの先の人生を歩むことができるようにすることですわ」

 キャナリィには何が勿論なのかは分からなかった。
 しかもそれでいくと、グレイの想い人が自分であるとスカーレットは思っているということになる。一体何故?

「それが何故このようなことに繋がるのですか?」

 クラレットは相変わらずの無表情で冷静にスカーレットに質問した。
 全く分からないと言った感じだ。

「グレイ様は王太子であるにも関わらず婚約者がおられないでしょう。色々お噂は耳に入ってきますが、わたくし思いましたの。──グレイ様にはきっとお慕いする令嬢がいるのだと」

 スカーレットはキャナリィに視線を向けると改めて言った。

「殿下はきっとウィスタリア侯爵令嬢のことが昔からお好きなのよ。
 歓迎パーティーでフロスティ公爵令息に寄り添うあなたをずっと見つめていたのだから間違いは無いわ」

 スカーレットは家族に「国のことは考えなくて自由にしていい」と言われた。
 そこで「グレイに未だ婚約者がいないのはきっと好きな令嬢がいるに違いない」という予測から、幼いころ好きだったグレイに幸せになってもらおうとその令嬢との恋路を応援するためにやってきたのだ。

 グレイは既に立太子している。これ以上婚約者を作らずに引き伸ばすことは難しいだろう。グレイの想い人とは別の令嬢があてがわれるかもしれない。
 そうなる前に急がなければならないと、中途半端な時期からの留学になってしまった。
 お相手の令嬢を見つけるにあたり、面識のあったシアンに協力を仰ごうと探していたが、そこで問題が起きた。
 当該の令嬢がそのシアンの婚約者だったのだ。

 そこでスカーレットは自身がシアンを望んでいるのではないかと周囲に思わせることで誤誘導し、シアンとキャナリィの婚約が解消となるよう画策した。
 そして今夜噂通りグレイがキャナリィのエスコートをすることで、もう一つの噂である二人の婚約も「事実」として学園の外に広がるように操作しようとしたのだ。
 各貴族家の当主がその「事実」を前提に動くことにより流れが変わり、フロスティ公爵家はスカーレットがシアンと婚約をすることによる旨味が増す。
 グレイは婚約者不在となったキャナリィ想い人と自然な形で婚約することが出来るのだ。
 当然ウィスタリア侯爵家も家門から未来の王妃を出すという旨味があるため否やは無いはずだ。

 あの歓迎パーティーでスカーレットはグレイの視線の先にいるキャナリィを見て「見つけた」と思った。

「わたくしがフロスティ公爵令息に嫁ぎます。公爵領はわたくしに任せてあなたは安心してグレイ王太子殿下に嫁ぎなさい」

 気配を消して冷えた紅茶を入れ替える侍女は、知っていたのか全く動じる様子はない。
 しかしスカーレットならば、やろうと思えば他の令嬢を薦めることも出来たはずだ。

「それなのですが、どうして王女殿下自ら公爵家に嫁ぐ必要が?」

 スカーレットはグレイの恋を応援すると決めた時から、グレイの想い人が既に婚約している可能性を考えていた。
 そうなるとその婚約を解消させる必要がある。
 貴族の婚約は当主が決める。
 ならば当主が婚約を解消しようと思う要因は何か──現在の相手より家のためになるであろう者との婚約だ。
 スカーレットは王族。これ以上の縁談があるだろうか。
 そして婚約を解消された側の当主も、娘が王太子妃になれるとあらば二つ返事で婚約解消に応じるに違いない。そう思ったのだ。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

『胸の大きさで婚約破棄する王太子を捨てたら、国の方が先に詰みました』

鷹 綾
恋愛
「女性の胸には愛と希望が詰まっている。大きい方がいいに決まっている」 ――そう公言し、婚約者であるマルティナを堂々と切り捨てた王太子オスカー。 理由はただ一つ。「理想の女性像に合わない」から。 あまりにも愚かで、あまりにも軽薄。 マルティナは怒りも泣きもせず、静かに身を引くことを選ぶ。 「国内の人間を、これ以上巻き込むべきではありません」 それは諫言であり、同時に――予告だった。 彼女が去った王都では、次第に“判断できる人間”が消えていく。 調整役を失い、声の大きな者に振り回され、国政は静かに、しかし確実に崩壊へ向かっていった。 一方、王都を離れたマルティナは、名も肩書きも出さず、 「誰かに依存しない仕組み」を築き始める。 戻らない。 復縁しない。 選ばれなかった人生を、自分で選び直すために。 これは、 愚かな王太子が壊した国と、 “何も壊さずに離れた令嬢”の物語。 静かで冷静な、痛快ざまぁ×知性派ヒロイン譚。

(完結)相談女とお幸せに!(なれるものならの話ですけども。)

ちゃむふー
恋愛
「私は真実の愛に目覚めたんだ!ミレイユ。君は強いから1人で大丈夫だろう?リリアンはミレイユと違って私がいないとダメなんだ。婚約破棄してもらう!!」 完全に自分に酔いしれながらヒーロー気分なこの方は、ヨーデリア侯爵令息のガスパル。私の婚約者だ。 私はミレイユ・ハーブス。伯爵令嬢だ。 この国では、15才から18才まで貴族の令息令嬢は貴族の学園に通う。 あろう事かもうすぐ卒業のこの時期にこんな事を言ってきた。 できればもう少し早く言って欲しかったけれど…。 婚約破棄?大歓迎ですわ。 その真実の愛とやらを貫いてくださいね? でも、ガスパル様。 そのリリアンとやらは、俗に言う相談女らしいですわよ? 果たして本当に幸せになれるのかしら…?? 伯爵令嬢ミレイユ、伯爵令嬢エミール2人の主人公設定です。 学園物を書いた事があまり無いので、 設定が甘い事があるかもしれません…。 ご都合主義とやらでお願いします!!

【完結】婚約破棄?勘当?私を嘲笑う人達は私が不幸になる事を望んでいましたが、残念ながら不幸になるのは貴方達ですよ♪

山葵
恋愛
「シンシア、君との婚約は破棄させてもらう。君の代わりにマリアーナと婚約する。これはジラルダ侯爵も了承している。姉妹での婚約者の交代、慰謝料は無しだ。」 「マリアーナとランバルド殿下が婚約するのだ。お前は不要、勘当とする。」 「国王陛下は承諾されているのですか?本当に良いのですか?」 「別に姉から妹に婚約者が変わっただけでジラルダ侯爵家との縁が切れたわけではない。父上も承諾するさっ。」 「お前がジラルダ侯爵家に居る事が、婿入りされるランバルド殿下を不快にするのだ。」 そう言うとお父様、いえジラルダ侯爵は、除籍届けと婚約解消届け、そしてマリアーナとランバルド殿下の婚約届けにサインした。 私を嘲笑って喜んでいる4人の声が可笑しくて笑いを堪えた。 さぁて貴方達はいつまで笑っていられるのかしらね♪

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

婚約破棄されました。

まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。 本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。 ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。 習作なので短めの話となります。 恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。 ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。 Copyright©︎2020-まるねこ

婚約破棄は夜会でお願いします

編端みどり
恋愛
婚約者に尽くしていたら、他の女とキスしていたわ。この国は、ファーストキスも結婚式っていうお固い国なのに。だから、わたくしはお願いしましたの。 夜会でお相手とキスするなら、婚約を破棄してあげると。 お馬鹿な婚約者は、喜んでいました。けれど、夜会でキスするってどんな意味かご存知ないのですか? お馬鹿な婚約者を捨てて、憧れの女騎士を目指すシルヴィアに、騎士団長が迫ってくる。 待って! 結婚するまでキスは出来ませんわ!

婚約者に嫌われた伯爵令嬢は努力を怠らなかった

有川カナデ
恋愛
オリヴィア・ブレイジャー伯爵令嬢は、未来の公爵夫人を夢見て日々努力を重ねていた。その努力の方向が若干捻れていた頃、最愛の婚約者の口から拒絶の言葉を聞く。 何もかもが無駄だったと嘆く彼女の前に現れた、平民のルーカス。彼の助言のもと、彼女は変わる決意をする。 諸々ご都合主義、気軽に読んでください。数話で完結予定です。

処理中です...