【完結】異世界で出会った戦友が、ゼロ距離まで迫ってくる! ~異世界の堅物皇子は、不具合転移者を手放せない~

墨尽(ぼくじん)

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側にいるために

第119話 賢者な時間

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◇◇

(えーっと……あれは夢……じゃねぇよなぁ……)

 寝台の上で何度目かの寝返りを打ち、光太朗は叫び出したいのを必死で堪えた。
 隣の寝台には爺がいびきをかいて寝ているが、リーリュイの姿はない。

 やけにすっきりとした下半身を見下ろし、光太朗は長く細く息を吐く。


 気を失っていた光太朗は、夕鐘が鳴り響く音で目を覚ました。
 寝ている間に解毒剤を飲まされていたようで、熱は下がっている。鼻は相変わらず詰まっていて声も掠れているが、体調は大幅に良くなっていた。

 光太朗は寝台から手を伸ばし、紙ナプキンを手に取る。思いっきり鼻をかんでみるが、鼻は全く機能しない。

(リュウの匂いも分かんねぇ……。っていうか、色々、分かんない……)

 遅れてきた賢者タイムは、色んな問題を光太朗に投げつけてくる。やっと巡るようになった思考は、今の自分が置かれている事態に警鐘を鳴らしていた。

 武器庫であった出来事は、きっと大問題に発展しているだろう。そして自分が陥ってしまった状況に、冷汗がじわりと浮いてくる。
 あまり記憶が無いが、酷い醜態を晒した気がしてならないのだ。マオに握られたクリップの事も気にかかる。

 そして意識を失う前に起こった医務室での一件は、震えがくるほど恥ずかしい。後が怖い。

(まじで夢であってくれ。国の尊い皇子様に、むすこの処理をさせたなんて……夢であっても畏れ多いだろ……)

 大きなため息を吐いて、光太朗は寝台の上で悶える。冷汗で枕がびしょびしょになりそうだ。
 アロデナ草の催淫作用は、フェンデにも少なからずある。それは光太朗も身をもって知っていた。解毒薬を作り出すまで、とても苦労したのだ。
 ウィリアムの手も一度は借りたが、今となっては忘れたい記憶ナンバーワンに君臨している。


(今日は風邪引いてたせいもあって、熱で朦朧としてたからな……。正直、夢か現実か判別できない所がたくさんある。武器庫の件は、あまり覚えていないが……何となくわかる。俺が過去を厚塗りしてきたせいだ。思い出した事は、リュウに言うべきなのか……? それとマオは……何でアロデナ入りの蝋燭を俺に渡したんだ? っていうかクリップ返してくれんのか? そうだ、イーオさんは無事か?  中和薬は効いたんだよな? あ~もう何もかもが、分かんねぇぇ)

 色んな疑問が襲ってきて、光太朗はまたじわりと汗を掻いた。自分の置かれている状況が把握できていないと、背中がぞわぞわと落ち着かない。

 盛大にため息を吐いていると、医務室の扉がノックされた。そこから現れたのはキースで、手には盆が乗せられている。

 キースは光太朗が起きているのを見て、意外とばかりに片眉を吊り上げた。

「んだ、起きてたのかぁ?」
「キース……」
「……コウお前、声がっさがさだなぁ……」

 キースは寝台の横まで行くと、手の上にある盆へ目を遣る。光太朗が身を起こすと、キースは備え付けのスツールへ座った。

「スープ食えるか? 無理しなくていい」
「食えます。その前に、色々と聞きたいことが……」
「駄目だ。まずは食え」
「……いえっさー、班長」

 キースから盆を受け取り、光太朗は匙を取った。皿の蓋を開けても匂いはしないが、ふわりと蒸気が顔に触れる。クリームシチューのような見た目で、美味しそうだ。
 
 しかしゆっくりと味わっている暇はない。早く状況を聞きたくて、光太朗は匙を口へと運んだ。
 それを見ていたキースは、ゆっくりとした動作で脚を組む。

「……お前は、マオから言われて武器の手入れをしていたそうだな? いや、返事は良い。まずは食え。耳だけ貸せ」
「……」

 光太朗は匙を咥えたまま、コクコクと頷いた。それに頷き一つで応え、キースは話を続ける。

「マオはアロデナ草入りの蝋燭をお前に持たせ、武器庫へ行かせた。しっかり薬が回ったころに、弟のイーオを送りこんだ。マオの計画では、催淫で欲情したお前とイーオの間に、肉体関係を___」
「えぇっ!?」

 つい声が出て、光太朗はむせた。ゴホゴホと咳き込んでいると、キースが背中を撫でてくれる。しかしキースは冷静な声色のまま、話を続けた。

「計画は失敗し未遂に終わったが、マオの行いは許されるものではない。……お前が寝ている間に、二人の処置については話がついた」
「っちょ、ちょっと待ってくれよ。なんで俺とイーオさんが……」
「そりゃお前……マオが団長の気を引くためだろ……」

 光太朗が訝し気に眉を顰めると、キースは頭をかいてため息を吐いた。少しの間の後、キースは言いにくそうに口を開く。

「コウ……お前さぁ、もう少し自覚した方が良いと思うんだよなぁ。団長の側近が、副団長みたいなゴツいおっさんだったら、こんな事は起きねぇんだよ。意味わかるか?」
「……?」
「団長の事を慕ってる人間は、お前の事を恋敵として認識してるって事だ、馬鹿野郎」
「そんな……嘘だろ。俺だっておっさんだぞ」

 あんぐりと口を開ける光太朗を見て、キースは頭を抱えた。無自覚もここまで来ると、いっそ清々しい。キースも説明が面倒になってきた。

「まぁいいかぁ。追々理解すればいいだろ。話を戻すが……イーオは、全て自白したぞ。マオが座学中に、お前に何をしていたのかも。前が嘘ついて隠してた、暴力の件もだ」
「う……」
「身体治ったら、覚えてろよぉ。お前は色々と、教育し直す必要があるみたいだからなぁ」

 キースにぎろりと睨まれ、光太朗は口を引き結んだ。魔導騎士団ナンバー3の圧は凄い。

「とにかく今日は、身体を休ませろ。それ食ったら、出発すんぞぉ」
「? どこへ?」
「団長の私邸だ」
「……行きたくない」

 光太朗は首を横に振りながら、拒否の言葉をはっきり口にした。キースも虚を突かれたようで、片眉を吊り上げる。

 光太朗の脳裏に浮かぶのは、リーリュイとマオが唇を重ねている場面だった。
 リーリュイの私邸は、光太朗にとっても思い入れの深い場所だ。しかしリーリュイが寝室でマオと身体を重ねていたとしたら、正直もう行きたくはない。

 子供じみた事を言っていると、光太朗も分かっていた。だからこそキースには何も言えず、口ごもってしまう。
 光太朗を見ていたキースが、鼻から短く息を吐く。そして光太朗とは別の、出口の方向を見遣った。

「……だ、そうですけど」

 キースが肩を竦め、言葉を放る。
 光太朗は驚愕しながら振り向き、寝台の直ぐそばまで来ていた人物に気が付いた。
 
 そこにいたリーリュイは、真っ直ぐに光太朗を見つめている。
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