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おまけ話
結婚式から半年後4 (フェルナンドSide)
しおりを挟む今日1日の予定を無事に終えた私とイシスは、夕食までのわずかな時間…談話室のソファーで寛いでいた。
「フェル、今日は本当にありがとう」
「気分転換できたのならよかったよ。こちらからは、とても楽しそうに見えた。イシスも疲れただろう」
労う気持ちで、イシスの肩を軽く撫でる。
「私は平気よ。ドレスを脱いだら…少し…昔に戻ったみたいな変な気分にはなったけれど、楽しかったわ。
あの開放感はやっぱり特別ね。締め付けないワンピースは、ナターリエ様やタチアナ様に喜ばれたのよ」
「笑って走り回る様子を見て、殿下たちは呆気にとられていた。あれは、相当驚いていたと思う。
クリストファー殿下は、奥方に見惚れていたようだった。
皇太子殿下は…感情の分かりにくいお方だから…オーラが大きく揺れ動くことはなかったが、イシスの意図は確実に読み取ったはずだよ」
「エリック殿下のお出迎えは、心臓に悪かったわね」
そう言って、アハハ…と…思い出したように笑う。
♢
イシスが『昔に戻ったみたい』と言ったことが…引っかかって気になる。
だが、貴族社会に興味がないと言っていた年若い彼女を邸に囲い…妻にまでして自由を奪っているのが自分なのだと思うと何も問えなかった。
ナターリエ嬢とタチアナ夫人の明るい笑顔は、堅苦しい貴族の日常から解き放たれた“一瞬の時間”を楽しんだものだと分かっている。
だが、イシスは違う。
虐げられ放置されてはいたが…それなりに平民生活を楽しんでいた。それがイシスの日常だった。
そこから、窮屈な貴族の枠にいきなり押し込まれた状態が今だ。私が手放せなくて…そうしてしまった。
イシスの適応能力の高さについ忘れがちだが、まだ2年も経っていない。
今日、久しぶりに昔のように過ごしてみて“こんなに自由だったのか”と…感じてしまっただろうか?
人の気持ちは変わる。
それでも、イシスが私と一生を共にするという誓いを破ることはないだろう。
そう理解しているのに、イシスの口から『昔に戻りたい』という言葉が出たらと考えると…怖かった…。
♢
「ナターリエ様は、エリック殿下の目をちゃんと見ていらしたわ。信頼し合えるご夫婦になっていただきたいな」
「あぁ。帝国の未来のためにも、互いに支え合うご夫婦であって欲しいと思う」
ナターリエ嬢は笑顔のまま宮殿へ帰って行った。
皇太子殿下との距離は…いつもより近かった気がする。
タチアナ夫人も公爵家の領地では『公爵夫人見習いとして楽しく頑張る』と、張り切っていた。
「…しかし…まぁ、私はなかなか大変だった…」
つい、ポツリとそう呟いてしまった。
皇太子殿下やクリストファー殿下は、ナターリエ嬢やタチアナ夫人だけを見ていたわけではない。
それを知りながら、あの場でじっと堪えた私を褒めて貰えないだろうか?
私以外の男がイシスを見つめているなど、想像しただけでも気分が悪いというのに…あぁ…クソッ。
「フェル」
イシスの手が私の頬を掠め…スルリと首筋へ伸びてくる。
妖しく光る金色の瞳に見つめられ、一瞬ゾクッとした。
「…ごめんね…」
チュッ。
イシスの唇が触れた瞬間、私の中で何かが弾け飛んだ。
「食事は後で部屋に運ばせる」
「え?」
ソファーに座っていたイシスをそのまま横抱きにして抱え、足早に寝室へと向かった。
「あっ!…ちょっと、待って」
「待たない」
収まらない感情が表へと暴れ出てくるたびに、自分の独占欲と嫉妬心に呆れている。
私は淫欲に支配され…どうにも我慢ができなくなった。
廊下ですれ違う使用人たちは“何事か?”と、こちらを見ていたが、アリエルは何も言わずに寝室のドアを開く。
可愛く抵抗するイシスを宥め、ベッドへと運び込んだ私は…自分の衣服を乱暴に脱ぎ捨てる。
イシスは真っ赤な顔をして慌てていた。私の裸など何度も見ているはずなのに、未だに照れて目をそらすのだ。
「抱いていい?」
そう問いつつも…返事を聞く気などない私は、速攻イシスの唇を奪って押し倒す。
イシスの身体はいつもより敏感で…少し触れただけで熱く潤み、腰を揺らして深い快楽を欲しがった。
甘い喘ぎ声と濡れた音を聞きながら、イシスも私を求めていたのだと気付く。
「……ん……フェル…他の女性を抱いたらイヤ…」
イシスはうっすらと目を開き、恍惚とした表情で囁く。
「…っ…?!」
愛し合っている最中に何の話だ?
「…私だけ愛して…」
「君以外の女になど、興味はない」
「でも…私…胸が小さ…」
「関係ない。イシスしか抱かない」
キスで口を塞いで黙らせる。
私は、妻が誰かに見られることすら許容できず…寝室に連れ込むような心の狭い夫だぞ?
何をどう勘違いすれば、私が他の女を抱くなどという妄想へたどり着けるのか。
私がどれほど君を愛しているか…分からせてやるからな。
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