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おまけ話
それぞれの幸せ2 (クリストファーSide)
しおりを挟む─フェルナンドのヤツ…どこにいるんだ?─
母上の誕生日を祝う夜会の会場で、私はさっきからずっと“レガリア伯爵”となったフェルナンドを探している。
♢
私とタチアナは、集まった貴族たちの熱気が少し落ち着いたころを見計らって…遅めに会場入りした。
夫妻揃って一通り挨拶回りを済ませ、ホッとしていたのもつかの間…徐々に私の周りには人集りができ始め、身動きが取れなくなる。
「では…マルフェリウス公爵閣下、いずれまた」
「えぇ、失礼いたします」
臣籍降下した後、今日が初めての公の場となった私は…想像以上に多くの高位貴族たちと挨拶を交わすことになり、愛想を振りまいて気疲れしてしまった。
タチアナは“レガリア伯爵夫人”と一緒にいたから心配はないよな…。
フェルナンドと共にレガリア伯爵家の領地へと移り住んだ夫人とは、1ヶ月ほど前に私たちの結婚式で会っていた。
話しをすれば以前と変わらず若く可愛らしいのだが…外見は真逆。大人っぽく妖艶な美女へと変貌を遂げていた。
今日も、会場の男たちの視線を集めていたな。
ドレスは肌の露出が少ないのに、あの艶めかしさは一体どこから出てくるのか…不思議でならない。
♢
フェルナンドは今1人なはず…消えた?逃げた?
首を傾げながら、息抜きするためにテラスへと向かった。
そこで…私は目的の人物を見つける。
「フェ…っ…と…レガリア伯爵、ここにいたのか!」
「マルフェリウス公爵閣下?」
フェルナンドは青黒い髪を短く切り、少し日に焼けて精悍な顔つきになっていた。
たった1ヶ月でも、人って見た目が変わるものなんだな。
「マルフェリウス公爵閣下、ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。お元気そうで何よりです」
「あぁ。伯爵はここで涼んでいるのか?」
「私はこういった集まりの場が苦手ですから。喋り過ぎて疲れたので、一休み…といったところでしょうか」
今後は、皇族主催のパーティーにも呼ばれるようになる。
伯爵という身分で社交ゼロというのは無理だから、多少のことは我慢しなければならない。フェルナンドの場合、常に夫人を側にくっつけておくしかないだろうな。
「皇后陛下へのご挨拶は、もう済まされたのですか?」
「私とタチアナは昨日から宮殿に来ていたからな、今日は形式的なご挨拶のみさせていただいた」
「なるほど。ご夫人との新婚生活はいかがでしょう?」
私は保養地で過ごすタチアナの姿を見てから、気持ちが少しずつ変化し始め…彼女に興味を持つようになっていた。
婚約披露パーティーで“ドレスを汚した”と報告を受けてはいたが、その時にタチアナが泣いていたという事実に驚愕…ことの顛末をフェルナンドから聞き出したほどだ。
「半年離れていた間、忙しくてあまり会えていなかった。
その…何というか、タチアナとは全く距離が縮まっていない状態で…夫婦になったんだ。
彼女は領地で有能な人材として認められていて勉強熱心だから、私たちの話題はどうしても領地のことが中心になる。色気がないというか、最早…口説く隙すらない」
「ご愁傷様です」
オイ。
最初から話を掘り下げる気がなさ過ぎだろう。
「フェ…っ…もう、コソコソ話す時くらいフェルナンドと呼んでも構わないよな?!」
「勿論です、公爵閣下。さぁどうぞ、私に恋のお悩み相談ですか?」
1ヶ月で、人をイライラさせる能力が格段に上がったな。
しかし…恋か。
その響きを耳にした途端、胸が高鳴ったようにも思う。
「う…ん。フェルナンドみたいに溺愛するほどの猛烈な想いはない気がするんだが…夫婦としてだけの関係や、同士…といった形よりは近付きたい。
何にでも一生懸命で真剣に取り組む様子が可愛いんだよな。もっとタチアナのことを知りたい。好きなのかな?」
「好きですね」
え?!
「公爵閣下は、珍しいことや真新しいことに興味を持つお方です。恋とか好きとかいうその感情は、公爵閣下の中で初めて芽生えた新感覚のものなんですよ。
今は、ご夫人への関心を強く抱いている状態ですね」
そうなの?!
「ですが、お2人はもうご夫婦です。身体を繋げているうちに情がわく…そちらのほうが先かもしれませんけれど」
そちらが先では…ちょっと嫌かな?!
「ご夫人は豊満な肉体をお持ちですから、公爵閣下が溺れてしまう…ってこともありえますね」
私の妻を、いやらしい目で見ているんじゃないだろうな?!
というか…タチアナは夫婦生活のほうは淡白だから、溺れるほど営んでもいないわ!
「まぁ…冗談はさておき、ご夫人はイシスの大切な友人なのです。公爵閣下が不誠実なことをなさいますと…最強の魔術師が鉄槌を下しますので、お気を付けください」
は…?…どこ?どこが冗談だったんだよ…?
不誠実なことなんてしないが“最強の魔術師”コワッ!!
──────────
「フェルナンド、子はまだなのか?」
「欲しいと思ってはおりますが、今はまだ…ですね。
私たちは互いに魔力がありますし、イシスのほうが強いので…それなりに時間がかかる可能性もあります」
「そうなのか?…すまない…私は何も知らなくて…」
侯爵家の次男ならともかく、伯爵家を継いだフェルナンドにとっては跡継ぎ問題となる話題なのに…軽く口に出してしまったのは無粋であったと反省する。
「いえ、それについては…私もこの間グランド様から初めて聞いたところなのですよ。
イシスは特に強い魔力を持つので、私の子を宿すためには身体も準備が必要なのだろうと。まぁ、私の魔力を受け入れる…精を体内に取り込み馴染ませるということですね」
「準備…か。子をその腹で育む女性は大変なのだな」
「えぇ。私はイシスを大切にしなければなりません」
「…私も…タチアナを大切にする…」
フェルナンドはテラスの手摺に寄りかかり、月を眺める。
「公爵閣下なら、そう仰ると思っていましたよ」
いつも冷ややかな濃青の瞳を細め、満足気に微笑みながらこちらを向いた。
本当に…嫌味なくらい美しい男だ。
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