前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy

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第12章

178 求婚

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28歳で命を落とし、異世界へ転生した瑠璃は“レティシア”として新たな生を受けた。
事故によって現世で生きた17年間の記憶を全て失い、突如目覚めたあの日の衝撃は未だに忘れられない。

貴族の生活に馴染むより、前世の人生経験を活かして一人で暮らして行こうと…意気込んで侯爵家を飛び出した時には、こんなにも自分を愛してくれる人との出会いが待っているとは夢にも思わなかった。



「…殿下…」

「…私の求婚プロポーズを受けてくれるのなら…左手を…」


(…プロポーズ…)


数奇な運命を経て、再び手にした人生。
アシュリーの側で永遠に続く幸せな未来を望んでも、神様がそれをレティシアへ与えるとは限らない。


(でも、二度目だからこそ後悔したくない)


縮こまった左手をおずおずと差し出せば、金色の瞳を輝かせた彼が待ち兼ねたように両手で迎えてくれる。


「…求婚プロポーズを…お受けします…」

「………ありがとう…」

「…本当に私でいいの…?」

「レティシアがいい…レティシアでなければだめだ。私の全てを捧げて、君を愛すると誓う」


力強く誓いの言葉を述べたアシュリーは、冷えた指輪へ熱い唇を押し当てた。
幸せの余韻に浸りながら、互いに手を取り合ってしばらく視線を交わす。星が瞬くバルコニーでのロマンチックな時間。跪いた王子様の求婚を受ける女神の図が完成する。


「…誓いの口付けをしても…?」

「…はい…」


アシュリーがゆっくりと立ち上がった…次の瞬間、膝の力が抜けて身体が傾いた。


「…殿下……あっ…」

「…っ…!!」


咄嗟に支えたレティシア諸共に、ソファーへ勢いよく倒れ込む。
ズシリと感じる身体の重みに、このプロポーズが夢ではなく現実なのだと実感する。


「…………」

「………格好悪い…」


最後まで決め切れなかった無念の思いを口にした後、アシュリーは押し倒したレティシアの胸に顔を埋めて短く吐息を漏らした。

どんなに格好悪くても、複雑な男心を拗らせても…愛おしい人。
レティシアは腕を精一杯伸ばしてアシュリーを抱き締め、頭がクラクラするくらい濃い魔力香をたっぷりと吸い込んだ。


「愛しています…殿下」

「…うれしくて…どうにかなりそうだ…」




──────────




「お帰りなさいませ。旦那様、レティシア様、お夕食はいかがでしたか?」

「侍女長の言った通り、シェフがとても美味しいお料理を作ってくれていたわ。デザートも絶品だったの」

「…それは、よろしゅうござい…」

「パメラ、レティシアはバルコニーへ出ていた。早く身体を温めてやりたい、私が浴室へ連れて行ってもいいか?」

「左様でございましたか、仰る通り浴室で温まるのが一番かと存じます。ですが…旦那様…少々焦り過ぎにございますよ」

「…うっ…」


レティシアの部屋で待機していたのは、侍女長のパメラのみ。
恋人同士の男女が個室で二人きり、何もないわけがない。多少乱れた様子で戻って来ることを想定して、恥ずかしがり屋のレティシアのために若い侍女たちを先に下がらせておいたのだ。

レティシアが抱えられて部屋へ戻って来ると読んだパメラの予想こそ外れたが、アシュリーの上着を羽織ったレティシアのヘアスタイルは崩れ、唇はポッテリと腫れている。
仲睦まじくて大変結構だと思いつつ、小さな唇をどれ程貪ったのか?…アシュリーの逸る気持ちを思わず咎めた。


「旦那様はお先に浴室へどうぞ、湯着はご用意しております。レティシア様は髪を解いて、ご準備ができましたら私がお連れいたしましょう」

「えぇ、侍女長にお任せするわ。殿下こそ、早くお湯に浸かって温まらないと。また後で…」

「……うん…」


レティシアの頬を名残惜しげに撫でたアシュリーは、大人しく寝室の扉を開けて部屋を出て行く。


「…あらまぁ…旦那様がまるで子犬のよう…」

「殿下は時々可愛らしいわよね、末っ子だもの」

「ほほほ……そう仰るのは、レティシア様だけです」


(…あれ?)




──────────




プロポーズでさらに絆の深まったアシュリーとレティシアは、大公邸で初めての混浴を楽しむ。
バルコニーではじっくり眺める余裕のなかった星空は、ガラス窓の向こう側いっぱいに広がっていた。

浴槽から夜空を見上げることを意識した浴室内は仄かな照明のみ。室内でありながら、露天風呂に入っているような気分を味わえる。


「最高のお風呂だわ。…ところで殿下、湯着の上はどうしたの?」

「ぅん?…レティシアこそ水着は?」

「…も…もういいかなと思って…」

「気が合うな、私もそう思った」

「私はちゃんと湯着を着ているわよ?」


アシュリーは上半身裸。レティシアは水着を着用せず、濡れた湯着が肌に密着していた。


「…湯着だけのほうが色っぽくて…いやらしいな…」

「…エッチ…」

「魅力的な君が悪いんだ」


表面が波立ってゆらゆら煌めく湯の中で、腕を伸ばしたアシュリーがレティシアの腰を引き寄せる。逞しくて硬い胸の筋肉と、湯着の張り付いた背中がピタッとくっついた。


「困った…我慢できそうにない」

「…あっ…」


アシュリーはレティシアの弱い耳の下へ狙いを定めて、後ろから不意打ちで口付ける。こそばゆさにレティシアが顔を背けると、今度は露わになった白い首筋へと吸い付いた。
熱っぽく潤んだ青い瞳で睨んでも、最早煽りでしかない。

アシュリーは、レティシアから漂う甘い香りに誘われる。
軽く唇を啄んで舌先を滑り込ませれば、求めに応じて口を開く。快楽に身を委ねて震える様子に欲が湧いて、咥内を深く弄り愛撫した。
舌を吸い上げながらはだけた湯着の胸元へ右手を差し入れ、豊かで張りのある膨らみを確かめるように優しく撫で擦る。
やわやわと揉みしだいて時折胸の先端を刺激すると、レティシアが堪らず腰をくねらせた。


「…んっ…ぁっ…」


湯の中で湯着の裾がめくれ上がる。
水面下に白く浮かぶ艶めかしい下半身が目について…内腿へ左手を這わせると、無意識に危機感が働いたのか太腿がキュッと閉じた。


「レティシア…もっと触れたい」

「…だ…駄目…刻印までは…我慢よ…」



    ♢



「儀式には叔父上の別荘を借りようと思う、少なくとも二日は二人きりの時間を持ちたい」

「別荘?ここではないの?」


レティシアは、アシュリーと抱き合って寝ているベッドをポンポンと叩く。
刻印の儀を執り行う場所として最初に思い浮かんだのは、この大公邸の素晴らしい寝室だった。


「…レティシアと過ごす初めての夜は…特別だから…」

「…あ…」


レティシアは前世の記憶が薄れてしまったために、過去に付き合っていた男性と如何なる性体験をしたかは覚えていないが、様々な基礎知識は残っている。


(…私も初めて?よね…)


「明日からやっと仕事に戻るのに、また二日間お休みをしたら不評を買わないかしら?」

「秘書官室の者には、この先いろいろと融通を利かせて貰わねばならないな」

「私たちの関係を公にするってこと…?」

「元々、レティシアの同化が無事に済めば護衛騎士や秘書官たちには話そうと思っていた。側近の者に、個人の勝手な判断や憶測で誤った情報を持たれては困る」

「確かに…魔女扱いされるのは、一度で十分よ」

「仕事中は今まで通り、私の秘書官として務めてくれればいい」

「今まで通り?何も変わらない?」

「ふむ…令嬢たちからの誘いを断る理由が変わるな。公認の恋人がいると一度知らせれば、それ以降は手紙も落ち着くと思う」

「なるほど…手紙が来なくなれば返事を書かずに済むわね。秘書官の皆さんが喜びそうだわ」

「私の恋人は一体誰か?と貴族たちは勝手に嗅ぎ回るだろうが、知ったところで覆せはしない」

「そうなの?相手が私では、不服に思う人がいるかもしれっ…」


急にギュッと強く抱き込まれたレティシアは、一瞬息を止めた。


「心配しなくていい…最も大事なのは、刻印の儀によって神の許しを得ているかどうかだ」

「…許し?…あ、紋様…」

「そう。それから…現国王を除いて、王族や直系を含めた血族の中で五人が認めれば、婚姻は承認される」

「…ん?」

「父上、母上、兄上や姉上たちで五人。皆が私とレティシアとの婚姻に許可を出すと約束してくれた。勿論、聖女様にはいち早く許しをいただいている。君が望めば…との条件付きだったが…」


(…じゅ…準備万端過ぎ…)


「…殿下、紋様って…現れない場合もあるのよね…?」









────────── next 179 公認の恋人 

お読み下さいまして、誠にありがとうございます。











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