前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy

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第14章

194 公爵令嬢レティシア3

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「…やぁ…女神様…」

「お帰りなさいませ、私の王子様」


レティシア付きの使用人や護衛に続いて、ゴードンたち従者sも部屋を出て行った後、アシュリーはベッドの上ですぐに目を開けた。
悪戯っ子のような黄金色の眼差しを向けて来る彼の目の下はうっすらと赤く、ほろ酔い状態に見える。


「本当に酔っ払っていらっしゃるの?」

「…どうかな…皆に祝いの言葉を貰って…酒が入って気分がいい…」

「楽しんで来られたのですね。私も…皆様があたたかく迎え入れてくださって、とてもうれしかったです」

「…レティシア…もっと気楽に話してくれ…」

「そうはいきませんわ。ここは王宮で、今の私は公爵令嬢なのですよ?二人きりだからといって気を緩めていては、いつどこで綻びが出るか分かりませんもの」


ニッコリと微笑む美しい女神が肩を竦めて言うのだから、アシュリーは諦めるしかない。


「もう少し…自信がつくまで待っていてください」

「…私の恋人は真面目だな…」

「皮肉ではなくて、褒めてくださっているのよね?」

「言っていなかったか?…君が令嬢っぽいのも、実は結構気に入っている」


実際、従者sにも“令嬢レティシア”は好評だった。
貴族然とした凛々しく清楚な容姿と一風変わった性格とのギャップは、言わずと知れた彼女の魅力の一つ。しかし、公爵令嬢となった現在…これが本来の姿だったのかと周りは納得することになる。
ゴードンやルークは、レティシアに畏まって接するほうがアシュリーの機嫌がよくなると言い、カリムなどはより自分の好みのタイプになったとうれしそうに話す。


「ぽいって…意地悪を仰るのね。愛するあなたのためなら、真面目にもなる…でしょう?」


ベッドサイドの椅子に腰掛けたレティシアは、小さく肯くアシュリーの額にかかる前髪を指先で整え、優しく頬に触れた。


「手が冷たくて…気持ちいい」

「お水を飲まれますか?」

「…うん…」


上体を起こしたアシュリーは、レティシアがグラスに水を注いでいる隙に、上着の胸ポケットに入れていたピルケースをそっと取り出して薬を一粒口に含んだ。


「はい、どうぞ」

「ありがとう」

「…あ、お着替えが必要ですね。確かマルコが夜着を揃えていたはず、持って来ますわ……アシュリー様?」


グラスを口元に当てたままのアシュリーが、腕を伸ばしてレティシアの手首を掴んでいる。引き留められて目を瞬かせていると、彼は一気に水を飲み干した。
決して上品とは言えないが、普段と違ってゴクゴクと音を鳴らす喉元に荒々しい男の色気を感じて…ドキッとする。


「着替えは要らない」

「でも、そのお洋服では寝れませんよ?」

「…いい…どうせ脱ぐから…」

「脱ぐ?先にシャワーを浴びられますか?」

「いや、一緒に寝よう…おいで」

「……え?」


室内には、サイズが大きめの一人用ベッドが二つ。二人で寝れる広さはあっても、天蓋幕がついていない。共寝をするには何かと不都合な上に、ここは王宮…まさか?と、レティシアの顔が引きつった。


(儀式までは我慢するって、言ってなかったっけ?!)


数日前の彼とのやり取りが脳裏に浮かんだ時にはすでにベッドの上、ドレスごと押さえ込まれて逃げる術を失う。呆然とするレティシアに跨った麗しの王子様が、次々と華麗に服を脱ぎ捨てていく。
そう、アシュリーはしっかり酔っ払っていたのだ。




──────────




アシュリーが腰を揺すると、甘酸っぱい女の香りを放つ真っ白な肉体がユラユラ踊って艶めかしい。


「…だめ…ぇ……やっ…」

「もっと欲しい?…どこが駄目か言ってごらん」

「…ちがっ…んんっ…おかしくなっちゃうの…」


握り締めた枕に顔を半分埋めるようにして、涙目のレティシアがくぐもった声を漏らす。その愛らしい仕草と弱々しさに、アシュリーの全身が熱気を帯びて沸き立つ。


「…こんなに濡らして…可愛い…」

「…い……イヤッ…そんな奥っ…」

「…ここがイイ?……少し強くするよ…」


レティシアの足を左右に大きく開いて持ち上げ、膝裏を掴んで上から覆い被さる。ピタリと隙間なく合わさった結合部から溢れ出る蜜に歓喜し、最奥の壁を擦って鋭く突き上げた。


「…あ…ぁっ…ん、んっ……あぅっ…!」

「…は……うっ……レティシア…」


ベッドが軋み、レティシアの足先が宙に浮いて力なく揺れ動く。恥ずかしい格好で無抵抗に獰猛な雄を受け入れ、嬌声を上げては強く締め付けて来る。アシュリーは背徳感と心地よさに悶え、堪らず呻いた。

宥めるように柔らかな胸を愛撫し、半開きになった色っぽい唇へ舌を捩じ込む間も休まず腰を押し付け、ゆっくり中を掻き混ぜては刺激し続ける。そうして、繰り返し攻め立ててレティシアが限界に達したと同時に、アシュリーも精を吐き出した。



    ♢



「…ぁ……朝?……ぅん…?」


目を覚ましたアシュリーは、一瞬朝かと感じた室内の明るさが単なる照明の灯り、つまり…まだ真夜中だと気付く。


「…ぅ……ん…」

「…っ…」


全裸のレティシアが腕の中で小さく身動いで、ギクリとする。透明感のある彼女の白い肌には、桃色の斑点が無数に浮かんでいた。
二度目の刻印の儀を間近に控えていても、蜜月中である恋人同士が睦み合うことに何ら問題はない。
『一週間禁欲した後のセックスは凄い』というカインの言葉に乗せられ、自らに課した抑制が酒に酔って緩んだ。


「…禁欲など…私には向かないな…」


激しく交わった記憶は鮮明で『四日でも凄かった』と、アシュリーは独り言ちた。レティシアを起こさないようにそっとベッドを抜け出すと、床に散らばった服の中から見つけ出した上着の胸ポケットを探る。ピルケースの中の薬の数を確認して、ホッと胸を撫で下ろす。


「ちゃんと飲んでいたか…よかった」


伴侶に紋様を刻んだ男性王族は、特別な避妊薬を使う。アシュリーも、初夜の翌日に医師スカーレットから手渡されていた。
三ヶ月のお試し期間中“妊娠しない”と言われているのは、儀式を執り行う寝室に避妊の魔術が施されているためだ。しかし、別荘で儀式を迎えたアシュリーを含め、閨を共にする場所は必ずしも決まった寝室とは限らない。そこで、不測の事態に備えて週に一度避妊薬を飲むことが義務付けられている。

医師の定期的な検査はレティシアだけではなく、アシュリーにも必要なものだった。蜜月を過ぎれば薬の服用は選択自由となるが、常に携帯したり、飲み続けることが多い。


「…結婚は、まだまだ先だからな…」


そう言って、ピルケースを握り締める。
スカーレットによると、レティシアの身体はアシュリーの魔力と馴染みがよく、子を授かり易い体質らしい。つがいであるのだから当然とはいえ、やはりうれしかった。


「…気を付けなければ…」


脱ぎ散らかした洋服を拾い集めていると、昨晩レティシアが用意したまま放置されていたと思われるサンドイッチが視界に入る。急に空腹感を覚えたアシュリーは、サンドイッチの皿と服を抱えシャワー室へと向かった。




──────────




「…お戻りですか…?」


汗を洗い流してサッパリしたアシュリーを、毛布に包まったレティシアがぼんやりした表情で出迎える。


「レティシア、無理をさせて申し訳なかった…身体は辛くないか?」

「…ん…平気です…わ…」


アシュリーは、モゾモゾと気怠げにベッドから這い出すレティシアを抱き寄せて、チュッチュッと顔中に何度も甘い口付けをした。


「もぅ…どうなさったの?」

「昨夜は少し激しくしてしまっただろう?本当に大丈夫か?…いつもより君の…その…声が乱れて…」

「お願いです、それ以上は仰らないで」

「…我慢できなかった…私の昂りを収められるのはレティシアだけだ…すまない」

「ちゃんと分かっていますわ」

「…私の女神はとても寛大だな…」

「ふふっ…相変わらず大袈裟ですのね…お陰で目が覚めました。私もシャワーを浴びてまいります。朝食の時間まで、お互い別のベッドで寝直すことにいたしましょう。どうぞ、先にお休みになっていてください」

「…………」

「アシュリー様はお疲れでしょう?お休みなさいませ。…そうでないと、私…女神を辞めてしまいますよ」

「それは嫌だ。…お休み、レティシア…」




後でロザリーに事の顛末を話すと、三日に上げず公爵家へ通うアシュリーを知る彼女は『一週間は最初から無理だと思っていました』と笑った。









────────── next 195 消えない刻印






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