星降る真夏の夜に、妖精の森で迷子になる。

折原ミフク

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雪と月

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 満月が少し欠けている。
 俺に充てがわれた寝室で、窓を開けて空を見上げる。ティールームと同じ豪華な部屋。
 雲がすっかり消えてしまった空には月がかかり、降り積もった雪をキラキラ照らしている。
「うふふ。またリロイに怒られますよ」
「キール。こっちの月も一つ?」
「そうですね。気にもしなかったですが」
 多分、俺の年代の毒され方なんだな。キールが転生する前ってオタクに市民権なかったとかいうから。俺の年代ではオタクですらない。俺はアウトドアなのであまりゲームしないんだけれど、それでも月が幾つもあるのは異世界での定番だった気がする。ここでは同じ。
 月は一つ。

「下弦の月ですね。半月にはまだですが。
 耳鳴りはどうですか?」
「今日はしてないかも」
 あったとしてもそんなに強烈ではなく俺自身が気付いてない事もある。

「昔、お姫様が満月の夜に現れて、多大な富を齎したという話があります」
 キールが横に来て月を仰ぎ見、そんな話を始めた。
「これには諸説あって、元々こちらのお姫様が異世界に行ってお宝を持って帰ったとか。お宝を持って来たのはお姫様を追って来た王子様だとか」
「かぐや姫みたい。でもあれって宝は手に入ってないよな」
 『竹取物語』を逆にすればそんな感じになるけど。王子様が追っかけてったという部分もなかった筈。
 そしてキールは、思わせぶりに月から俺に視線を落とした。
「貴方が現れたのも満月でした」
「俺、お宝持ってない」
「貴方自身が宝という事もある」
 やっぱり何か居た堪れない。
 強弱はあるが魔力なんて誰にでもあるとかいうけど実感ないし、東洋人の姿形が珍しい位しか、俺に特別感はない。
「これね、お伽話ではないんです」
 え?

 キールはとんでもない話を始めた。

「二百年程前に実際にあった話として公式文書に残されてるんです。
 話は公開されてなくて、私も見た事はありません。ただ」
 と、彼の話は続く。
「その時の衣裳は遺されていて、一般には公開されていませんが。特別に観る事が許される事もあります」
 俺の目は今きっと満月みたいにまん丸だ。息もちゃんと出来てない気がする。
「観たの?」
 キールはふんわりと微笑った。
「十二単衣ではありませんでした」

 絵本や挿し絵では十二単衣が定番だが、話の書かれた年代としては奈良時代かそれより前だと、俺も聞いた事がある。

 キールは頷く。

 そう言えば、池の周りに竹があった気が。竹なんて何処にでもあるから気にしなかったけど、こんな話を聞かされたら特別な意味があるのかと疑ってしまう。

「そうなると千何百年と経ってる筈ですが、こちらでは二百年前程度の話です」
「五つの宝物だっけ」
「西洋的には、フィフス・エレメンツですかね」
「異世界でも俺たちが元居た世界でも似たような話が出来上がるって事? 西洋も東洋も問わず。勝手に?」
 話がデカくなって来たぞ。
「事実だとしたらどうですか?」
「う~ん。俺はあんまり興味ないかな」
 本当にあるんだとしたら面白いけど。
「リョウは求めるものが判ってるんですね」
「お宝で欲しいものが手に入るんなら別だけど」
「まぁ、普通はそうですね」

 俺にとっての問題は、千何百年が二百年という事だ。
 時の流れ方が違うって事?
 こっちで二百年が、向こうで千何百年?
 でも、かぐや姫の話がもっと前だったら?
 え? だったらキールの年齢とかもおかしくない? 俺の勘違いか?
 『竹取物語』の確かな年代って判ってないと聞いたことが。こういうのヒヨリが得意なんだけどな。俺のここいら辺の知識は全部ヒヨリのだ。
 俺の願い事はそこなんだけど。
 ケンカ別れしたまんまの幼馴染の顔が浮かぶ。
 7倍から8倍? 下手をしたらもっと?
 かぐや姫じゃなくて、浦島太郎じゃん。
 向こうの妖精の森にもあったじゃん。浦島太郎話あったじゃん。
 嫌~だぁ、もう!
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