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氷の夜
しおりを挟む荒れ狂う雪に阻まれて何も見えない。何かに突き動かされ見えないまま歩を進めると足の裏が硬いものに当たった。積もった雪が間にあるが明らかに土と違う感触がする。
それに戸惑って、体が勝手に止まる。
雪も止まる。
止んではいない。
止まったのだ。
猛吹雪の雪がぴたりと止まった。そして、ゴゴゴゴ、地響いて退いていく。
雪が退いたところでそれは姿を現した。
泉だ。
女神の泉。
真っ暗なのに雪のせいなのかよく見える。
泉の上、を避け雪が泉の淵まで退いた。氷が張っているのが見える。上に積もっていた筈の雪もなくなっている。空間が出来上がって居た。
いつの間にか、グエン、キール、リロイも傍に居る。
空に月が出て、泉に真っ直ぐ一条の光を落とした。
その光は氷の泉の中心に当たり広がって泉がキラキラと光り出す。光の粒が躍っている。
そして最初、柔らかかった光の粒子が徐々に凝り固まり、濃密さを増していく。
その光は一つの生命体の様に見えて。
泉の形に固まり、まるで意志を持っているかの様に、ゆっくりと上昇を開始した。
上空何メートルだろう。丸い光はある高さでそれ以上のぼるのを止め止まった。
昇るのを止めた丸い大きな光は、止めた代わりに一瞬、生きものの様に震え、収縮を始める。
俺が落ちて来た時もこんなだったのかな。
?、!
それが何を意味するのか理解するのと同時にグエンの声が叫んだ。
「やはり中までは無理だ!
リョウ! 走れ!」
言われるまでもなく走り出す。速くと思うのに、思えば思うほど足がもつれる。
焦る内にどんどん光は小さくなっていく。
随分小さくなったところで、少し大きくなったり小さくなったり。本当に意志のある生命体の様だ。微妙な調節を行なっている様に見える。
そして、ある大きさで止まった。
更に、光が濃密になり。
中央が膨らみ。
中心にヒビが入る。
こぽり、と何かが生まれる。
ヒビは逆さの人の形になった。
「ヒヨリ!!」
そこにもう会える筈のなかった愛しい人が居た。会いたかった、もう会えないと思っていた最愛。
見間違える筈がない。あれはヒヨリだ。
ヒヨリは半ば光に包まれ、半ば光から体が落ちかけてる。
このままでは氷面に激突する。
まだ間がある。
全速力で走れ! 俺!
体を全て抜け出させたところで光が消える。
光が消えた瞬間、落下スピードが増す。!!
ふわりと体が浮いた。
真下に到達し、俺は両手を伸ばして大きく広げ、ゆっくり落ちて来るヒヨリを、しっかり抱きとめた。
「今回は間に合ったな」
いつものチャラけた感じと違い渋い低い声でグエンが言った。俺の時の事を言ってるんだろう。魔法なくして水中に没したからな。今回は氷に激突だった。が、救かった。彼が風を送ってくれたんだろう。俺にも出来る筈だがそんな余裕なかったから。リロイとキールも傍に来ていた。
安堵して、ヒヨリを強く抱きしめる。
上を見ると、空には満月が煌々と光り輝いている。
「……リョウ?」
懐かしい声。
「ヒヨリ」
顔を見たくて、少し離す。
月の明かりに照らされて、ぼんやりしてる、懐かしい顔。?? あれ?
?? 何か変?
何かおかしくない?
久しぶり過ぎて? 密着し過ぎて?
?マークで頭がいっぱい、多分あんまり、全く変わってない俺より、変わってしまったヒヨリの方が先に気付いた。
「リョウは変わらないね」
すべすべの白い柔らかい肌に日本人にしては茶色い髪色。長さはない、ベリーショート。大きな目は濡れた様にうるうるこっちもつやつやうるうるの桃色の唇。相変わらず綺麗な顔。それは変わってない。顔のパーツは全く。でも少し大人に、男らしくなっていた。
ヒヨリは俺より小さかった。俺は夏生まれでヒヨリは春先の早生まれ。
だった。
十倍の歳月?
ヒヨリは俺よりデカくなってた。
凍り付いた泉の上に密着して倒れたままでも分かる。
それに何かくっ付いてる。
一人の男の子がヒヨリに抱き着いてる。小柄で、サイズ的にこっちの方がヒヨリなんだが、俺の知らないコだ。黒縁の大きな眼鏡がずれて、大きな黒々とした瞳が覗いてる。じっと俺の顔を見てる。睨まれてない?
それにこれは、血??
二人に赤い線状のものがまとわりついている。
“召喚の失敗例”を思い出し、ぞっとする。剥がれないんだろうか? 彼はヒヨリから離れるつもりはないのか、離れる事が物理的に無理なのか、ぴったりくっ付いている。ヒヨリも彼をくっ付かせたままだ。
……が、よく見ると。
紐? いや、リボンか。
赤い、真っ赤なリボンが二人ごと、全身グルグル巻きにしている。
これは、まさか……。
手に取ろうとしたら、瞬く間に消えてしまった。
急に冷気が襲って来る。
この前の俺と違って水に濡れる事は無かったのに彼らはびしょびしょだった。後で訊くとして、どうしよう。このままじゃ、風邪引くどこじゃない。感動の再会に浸る間もない。
「行くぞ」
グエンが俺たちを丸ごと抱えた。リロイとキールも、皆んなでくっ付く。
空間が歪んだその瞬間。
俺たちは暖かな部屋の中に居た。
そこには、クライヴさんが待っていた。
「私はまた失敗したのですね」
彼は疲れ切った様子で、何かの燃えカスを見つめていた。
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