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俺のいない間
しおりを挟む「言葉が通じる。異世界あるあるだ~」
ヒヨリはゲイでインドアである。
魔力の馴染ませ方をレクチャーすると、
「異世界びーえるあるある~」
ヒヨリは、異世界びーえるあるあるのお約束で、王子様とかにも特別驚かなかった。
温かい風呂に入り、キールが手で軽く癒しを流して元気になった二人は服を着替えて、俺たちとティールームにいた。因みに俺たちの服は全てリロイのお下がりである。
夕食はもうないので、お菓子と紅茶をキールが用意してくれた。
ヒヨリは、じっと見つめて食べるのを躊躇している。
「黄泉の国のものを食べると死者になっちゃうんじゃ……」
ヒヨリはインドアで読書家なので変な知識が多い。
「ここ黄泉じゃないから」
死んでないし。死にそうだったけど。
「美味しいから食べてみ」
黄泉なら黄泉でいいんじゃないかと思う。
俺はこっちの世界の方が違和感がない。
「あ、ほんとだ。美味しい」
少年はお腹が空いてたらしく、パウンドケーキをお茶であっという間に流し込んだ。ヒヨリも釣られて口をつける。俺はケーキをはむはむするヒヨリの柔らかいほっぺをぷにぷにするのに余念がない。
「異世界の食事って、もっと大味かと思ってた」
「異世界に偏見あるぞ、お前」
俺が言うと、ヒヨリは、
「ごめんない」
と、キールに謝った。うん。謝る相手は間違えてない。
向かいのソファにグエン。キールとリロイは立って部屋の隅にいる。違う角のクライヴさんを見張っているのだ。逃げる恐れもないだろうと言う事で彼の処遇は後回し。
こちら側のソファに俺、ヒヨリにライト。
くっついていた少年はライトと名乗った。ずっとくっついてるのでまさかと思っていたら、離れたくないだけで風呂に入ったりする時はさすがに手を離すので、転移の失敗例を思い出し慄いていた俺も胸を撫で下ろした。
「リョウがいなくなって」
ヒヨリが話し始める。
「五年経った」
ヒヨリは二十歳になっていた。
背も年齢も俺を追い越して。
俺の親は俺が居なくなってすぐ離婚し年末には家は売りに出された。何の期待もなかったので何の感慨もない。俺をヒヨリに会わせる為に存在した様な人たちだったな。
暫くは。ヒヨリは言う。
「どんよりしてた」
が、隣りにライトの家族が越して来て漸くヒヨリの生活はフツーになった。
「それまで僕は独りだったんだよ。
リョウが僕を置いて行くから」
視界が滲む。多分ヒヨリも一緒。
身体の具合がおかしくなり入院した話。
花火の日に妖精の森で本当に妖精や悪魔にまで会った話(俺はこっちで全然会わないな)。赤いリボンの話。
ライトは不釣り合いに大きな眼鏡を胸のポケットに掛けている。彼はもともと向こうの世界でも視えるコだったらしい。向こうでは目が悪い方が視えるなんて事を聞いたが、こっちで目が良くなってしまっていた。
5年経った。10倍か~。飛び越えた半年もカウントされてるって事か。
さっき比べて背は見上げる様になった。
頭をよしよしする。
「癒される~」
随分と触ってないので思う存分。
ヒヨリも嫌がらずニコニコしてる。
凍った泉にぶち当たらなくて良かった。
向こうとこっちでは時間の流れだけでなく高低にもズレがあるのかな。
これ変な作用がなくても異世界から来たらそのまま死んじゃうじゃん。問題がある。
「あ! 瞬間移動!
あれどうなってんの?
もしかして、俺もやっちゃった?」
「テレポーテーション?!」
「あれ風魔法?」
見当を付けて、グエンの顔を見る。
「滅多にやるなよ。あれは色々面倒なので他言無用だ」
「リョウはやはり力が強いですね」
瞬間移動は、風魔法を扱える人間の中でも本当に一握りの人間しか出来ず。知る人ぞ知る、伝説なのだそうだ。確かに悪用されそう。何をしてなくても痛くない腹を探られるのが想像出来る。
俺が邸に運ばれた時もこれにお世話になったらしい。俺は気を失ってた。そう言えば。馬、要らんわ。
王子様には思った以上お役立ちみたいだ。単なるチャラチャラ王子ではないらしい。
「あの状態の泉では魔法が届かなくてな」
真下には来なかったもんな。水中に没してしまった。
「これは想像でしかないんですが、こちらとあちらの世界が繋がっている時には、魔法は弾き飛ばされるみたいで」
キールが補足する。
「あの時は焦ってな。体だけなら入れるので、救けようと思えば救けられるのだが……。
今回は氷が張っていて良かった」
極寒の泉は堪えるよな。
お礼言いたいんだけど、少し照れ臭い。
あれが風属性の特徴だとしたら理論上、俺にも出来なくはない訳で、森から邸に皆んなを連れ帰ったのはグエンだが、邸から森の泉に行ったのはグエンでは説明がつかない。
あれは俺が呼ばれたのだ。
「魔法、俺たちも使える?」
悪戯っ子みたいに瞳をキラキラさせるライトを愛おしそうにヒヨリが見詰める。
ヒヨリが幸せそうなので、俺も嬉しくなる。
「一緒で良かった。離れ離れにならなくて、本当に」
俺は二人を抱きしめてそれぞれの頬にキスをした。
ああ、幸せだ。
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