星降る真夏の夜に、妖精の森で迷子になる。

折原ノエル

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お姫様と王子様

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「ようこそいらっしゃいました。アンリエッタともうします」
 俺たちの最敬礼に対してしっかりした言葉遣いで王女様は綺麗にお辞儀をしてくれた。行儀作法とか居るんだね。習っといて良かった。
 金色の巻毛にドレスと同じフューシャピンクのリボンを結えたふわふわのお姫様は、俺たちに挨拶を終えると、てててーと走って来て、ライトに飛び付いた。
「ヒヨリじゃないの?!」
 こういう時受けが良いのはヒヨリなんだが、飛び付かれたライト本人もビックリしている。
 「ほほほ」とグエンの兄である国王陛下の隣で優雅に王妃様が笑う。グエンも金色だが、兄である国王陛下も弟と同じ金色で、王妃様も旦那様より淡いが金の髪色だ。家族全体、金色でキラキラしている。さすがの王家という感じだ。眩しい。

「小さい子は小さい子が好きなのよ」
 王妃様に悪気はないんだろうけど、「小さい」と言われた、思春期真っ只中の十四歳の胸中は複雑だと思われる。
 アンリエッタ王女は四つ。乳母でなく王妃様の腕の中には首が座ったばかりだという王子のリシャール様が抱っこされてる。ソファで寛ぐように促され座ったところで、王妃様はあろう事か立ってこちらに来てその赤ん坊をヒヨリに抱かせた。
 これはちょっと破格では?!
 キールもリロイもびっくりしてる。
 王城のプライベートなエリアの客を迎え入れる部屋で、その主に俺たちは大歓迎されていた。



~・~・~・~



「爆破テロ?」
 最近の王都で起こっている問題とはその事だった。リロイたちが妖精の森に引っ込んですぐ起こり始め、真冬で元々人出は少ないとはいえ犠牲者も多数出ていて街は閑散としているらしい。飛行船の爆破は更に派手に人々に不安を与えている。
 呼び戻されたっていうけど彼らに何か出来るの? 訊けば軍も警察組織もちゃんとある。飛行船といい、そういう時代に突入してんだな。

 爆破された飛行船の不時着した先はちゃんと公爵邸だった。王都にあるタウンハウス。そこで俺たちは暫く滞在して国王陛下ーーグエンのお兄ちゃんに会う体裁を調える予定だった。
 でもこんな状態で王城に行けんだろうか? 
 ていうか、弟君どうすんのだろう。彼は自宅の様に公爵邸でのびのびと寛いでいた。
「多分こういうのって、俺たちのせいになんない?」
「え? そうなの?」
 ライトの言葉に驚いた。随分大人な事考えるんだな。
 妖精の森ーー魔の森から、乗って来た飛行船は爆発炎上、しかも王都では近年にない問題が起こっている。
 そして俺たちは異世界人。しかもいっぺんに三人。
「絶対、縁起悪いと思われてる」
 ライトの言う通りだった。
 なんか屋敷の皆んながよそよそしい。見えない壁みたいのがあって、遠巻きで、意地悪される事はないけど好かれてはいないのがはっきりと分かる。
 これじゃ王族に会うなんて到底無理だろう。この屋敷から出るのも難しいんじゃ。
 と思っていたら早々にお呼びがあった。
 弟君のお陰かな?



~・~・~・~




 ヒヨリは、シルクのひらひらのいっぱいついたお包みの中に、顔をうずめてすりすりしてる。
「好い匂い~。ん~、幸せの香り」
 そしてあろう事か、ヒヨリは赤ちゃんを俺に寄越そうとする。
 キールとリロイが面白そうに見てる。お爺ちゃんや前宰相閣下が一緒だと大事になるので、今日はいつもの六人。
「リョウ、赤ちゃん初めてなんじゃない?
 はい。幸せの塊」
 思う存分赤ちゃんを堪能したヒヨリはご満悦で、俺に幸せの塊を渡す。ヒヨリが楽しいなら俺も楽しい。って言ってる場合じゃない!
「うわ~」
 俺なんか声出てない?
 赤ちゃんは、軽いのに凄くずっしり来る。そしてとても好い匂いをさせている。
 王子様も蜂蜜色の金の髪で青い瞳。ほっぺもピンクでなんかふわふわしてる。その王子様は俺なんかに抱かれて何が嬉しいんだか、きゃっきゃ笑って手も足もバタバタさせる。
「嬉しいの?!
 俺も嬉しいのは嬉しいんだけど!
 落としそうで怖い~!」
 息をかけない様にあらぬ方向に俺は顔を向けて叫ぶ。本当にどう扱って良いのか分からない。
 俺の泣き言に、赤ちゃんの叔父さんが笑いながら引き取ってくれた。その横でライトにくっついて離れないお姫様は、
「わたしライトのおよめさんになるー!」
「アンリエッタ様は私と結婚してくれるのではなかったですか?」
「むかしのはなしよ。グエンなんてきらいー! うわきもの!」
 どこでそんな言葉覚えたって突っ込むところだろうな。
「浮気したんだ。最低だな」
 揶揄うと。
「責任取ってくれ、リョウ。ヒヨリでもいいぞ」
 とばっちりがこっちに来た。
「そんなだから、振られるんだぞ」

 大騒ぎだ。
 幸せな方の。
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