星降る真夏の夜に、妖精の森で迷子になる。

折原ミフク

文字の大きさ
30 / 72

マーカス公爵夫人

しおりを挟む




「まあ! なんてお可愛らしいのかしら!!」
 穏やかな冬の昼下がり、俺たちは強襲を受けていた。
「可愛いって俺は違うよな」
 ヒヨリとライトの事だろう。
「一人で逃げるな」
 視線から外れようとした俺をライトがセンターに押し戻す。またいつの間にやら場所取りに負けたらしいぞ。
 お爺ちゃんとキールは同席してくれたのだが、リロイとグエンは面子を聞いた途端いなくなってしまった。裏切り者め。例の二人にはお相手が居ないのでそちらに話が行くのが嫌だったらしい。だとしても。

 マーカス公爵夫人は大きい人だった。縦にも横にも。チョコレート色と言えば聞こえは良いのかも、濃い茶色の髪を高く結い上げ化粧が濃い。真っ赤なフリルをふんだんに使ったドレス。アクセサリーは指にも腕にも耳にも首元にもあり、瞳と同じ色のブルーの石を使っているから統一感ありそうなのにわしゃっとしていて暑苦しい。んでもって声もデカい。すいません。悪口言います。
「出て来るキャラ出て来るキャラ、強過ぎない?」
 音量は抑えている。俺たちだけに聞こえる様に。彼女の声が大きいので多分聞こえてない。 

 貴族の皆様は爆弾騒ぎを受けて殆ど本領地に引っ込んでるという話なのに。ここにはその殆どに含まれない人が多くやって来ていた。確かに飛行船爆破犯人が検挙されてから爆発事件は起きていず、疎開していたお貴族様たちは続々と帰って来ているらしいが。
 貴族はいきなりやって来ないのが大挙して押し寄せていた。一連の事件で鬱屈していていた上に久し振りに現れた異世界人に興味津々で。良い気分ではないが、俺たちの悪評を覆すのにしょうがない。

 マーカス公爵夫人を含め五人。王妃の姉君、未亡人だという黒い衣装で頭にも黒いヴェールを被った婦人、理知的な印象を受ける婦人。そしてごく平凡な婦人。でも誰より俺たちはその目立たない地味で平凡な彼女に注目していた。彼女本人はそんな事露にも思ってないだろう。彼女、俺たちにはすっかりお馴染みのーーリズベスト伯爵夫人は。
 今も警部たちは彼女に張り付いていて側にいる筈だ。もしかして屋敷にまで入って来てるんだろうか。俺たちにもどこに居るかは分からない。

「皆様はずっと御領地で?」
 キールが話を振ると、
「私以外は」
 答えたのは喪服の婦人で、それに否定は無かった。リズベスト伯爵夫人からも。
 キールとお爺ちゃんは当たり障りのない様に話を進める。リロイとグエンがいれば結婚話で意識を逸らしてボロボロ出て来そうなのに。余りそこら辺で成果は無いまま終わりそう。

 突破的なお茶会は、あの女の話が出て流れが変わった。

 俺たちの前に現れた異世界人。
 彼女の名前が出たところで俺たちに変化があったのを彼女たちは見逃さなかった。ヒヨリは兎も角俺は顔に出る方だ。ライトは俺以上に出てたらしい。後でお給仕してたクライヴさんに聞いた。彼は通常の業務に戻っている。彼が居ないとこの屋敷は回らないらしく、別邸に居た間にかなり仕事が滞っていたので、こちらの人たちは御令息たちじゃなく、クライヴさんの帰りを心待ちにしていたらしい。屋敷の者の俺たちに対する態度もかなり好意的になって来ていて、それはクライヴさんのお陰というのも大きい。

「確かに美しくて優秀でも」
 マーカス公爵夫人が口火を切った。口元を扇子で隠しているがへの字に曲げているのが分かる。
「甥が騙されましたの。良いお家の令嬢との婚約を破棄して、かなりの財産を注ぎ込みましてね。返されなかったのに何のお咎めもなかったんですのよ」
「ああいうのは本人が訴えないと取り上げられませんからね」
 黒いヴェールの未亡人はその様相に反して陰鬱ではなく陽気な印象でころころとよく笑う。
「功績も大きいものでしたし」
「にしましても、騙されて財産を注ぎ込んだ者は甥だけではありませんでしたのよ」
 それに続く話を俺たちは興味深く聞いた。天才と言っても、元の世界であった物を再現しただけの功績なんだろうし。まぁ、俺はそれが出来るとは思えないけど。そういうの全部覚えているから天才というのだろうか?

 彼女の綺麗な顔を思い出す。
 でも引っ掛かる人はまだいる?
「あの外見でそのまま中身を図る人もいますから」
「悪い噂を聞いても本人に会ったら良い印象に変わるってよくありますもんね。美人だと特に」
 黒い陽気な未亡人にライトと俺が答える。
「俺は悪い印象しか持てなかったぞ」
 それどころかそれで俺たちの評判底辺から出発したのかと思うと怒りしか湧いて来ない。

 他人の悪口で意気投合するなんて褒められた事じゃないが、お互いの情報を交換する事により信用を深めたと理解していただきたい。

「是非いらしてね。お約束しましたわよ。楽しみにしておりますわ!」
 彼女らが帰る頃には、俺たちは彼女たちが主催する茶会やパーティーやらに出席する事になっていた。
 他の方々は無かったがマーカス公爵夫人は別れの挨拶に握手どころかハグまでしてくれた。ハグも小さい子供か犬猫にする様なものでいやらしいカンジは全くなかったし初見と違って大分好意を持てる様になってたといえど、俺、どんどん女の人がダメになってる気がする。かなり気に入られた様で、このお茶会が思った以上に成果があったのは良いんだが。
 良い評判を上げるのは良いにしても。てか俺貴族じゃないし。なし崩しに世話になってるだけで。お世話になってて文句言うのもどうかと思うけど。若干一名を除いて初見より印象は良くなったが、だからと言って仲良くすんのもなぁ。若干一名はマーカス公爵夫人ではないぞ、念の為。貴族社会でやってく自信が。社交で夜会やお茶会?
 冗談だよね。手に職付けて市井に下りたい。真剣に考えよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

処理中です...