星降る真夏の夜に、妖精の森で迷子になる。

折原ミフク

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本物か偽物かなんて大した問題じゃない

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 ざわざわざわ。
 初めて見るお宝に、居合わせた者たちは騒然となるより遠巻きだ。
 これは何?
 どういう反応がいい? みたいな。
 そりゃそうだろう。
 【龍の首の玉】なんて皆んな聞くのも初めてだろうし、別にフツーのただの水晶玉で、窓ガラスを通した太陽の光を反射してそこにあるだけ。当て過ぎっと火事起こんない? 俺なんか呑気に思うけどね。
 自ら光を放ち何らかの力を見せつける、なんて事もない。
 なかなか当事者からの説明もないしな。
 当事者も人任せだったりして。

 ひそひそひそ。
 俺たちは人々から離れたところで、密談中だ。
「違うと思いますよ」
 キールは宝を一刀両断にした。
「龍の玉ですから。ああいう玉だと思われてて、『竹取物語』でも普通に玉ですけれど。
 【龍の首の珠】は、顎の下にある【逆鱗】が通説ですね」
「『逆鱗に触れる』の【逆鱗】?」
 ヒヨリが訊き返す。
「鱗なの?」
「はい。『逆鱗に触れる』の【逆鱗】です。龍の鱗ですね」
「でも、手に玉持ってない?
 俺が良く見る龍の絵だと手に玉を握り込んでるのが多いと思うんだけど」
 ていうより、手の中の玉しか見た事ない。
「持ってますね。玉ですから、そういう風に解釈されたのかも知れませんし。そういう玉もあるのかも知れません。【掌中の珠】というのもありますから」
 キールは転生者なので、『かぐや姫』にも詳しいのだろうか? それとも国文学のお勉強してたのかな?
「まあ、どっちが正しいのかなんて分からないですしね」
 ちょっと自嘲気味に笑って見せる。
「本当にあるのかどうかも分からないですし」
「でも何か本当にあったら素敵だね」
 ヒヨリがふふふ、と微笑った。
 ヒヨリのこの微笑みが大好きなんだ。こっちの方が素敵だと思う。俺にとっては、【龍の首の珠】なんてあるかどうかも分からないお宝よりよっぽど大切だ。
 ライトも同じ意見らしく、眩しそうにヒヨリを見てる。うんうん分かるよ、ってカンジで見てたら目があって、頰を紅く染めて少し睨まれた。
 お宝がどんどん増えるなぁ。
 絶対こっちのお宝の方がいいと思うな、俺。

 キールの話は続く。
 うん、どんどん増える。
 キールの美しい横顔にも見惚れてしまう。

「秋に宝物の展覧会があるじゃないですか。元いた世界の私たちの国の」
「あったっけ?」
「古都で開かれる、やんごとなき方々が先祖代々集めてる?」
 よく分かってない俺に対し、ヒヨリが訊く。
「ええ、一般公開される様になった、宝です」
 思い出した。
「集めるのが、義務とか責任とかいうやつ?」
 俺が返すと。
「私見ですが、あれは集めてんじゃなくて探してるのではないかと」

 え?

「いろんな国のトップが、宝を集めるのを義務としてますね。外国でも多分事情は同じだと聞いた事があるのですが」
 言葉を切って、俺たちの方を見る。
 俺たちはキョトンとした表情は同じなのに、お爺ちゃんだけ面白そうだ。

 探してる?

「やんごとなき方面をやんごとないところまで押し上げるのに必要なものって何だと思います?
 私たちとは決定的に位置付けを異なる様にするものです」
 何か話が難しくなってきた。
「政治力じゃないのか」
 リロイが答えるが、キールは納得しない。
「そうですね。
 では何故、彼ら、やんごとなき方々は一国を収めるに足る政治力を得る事ができたのでしょう?」
「努力とか、伝手とか」
「実力のある友達に恵まれたとか」
 俺もライトも頑張って答えてみるが、キールは納得しない。
「まあ、努力やら伝手やら、政治力があったから、宝に行き着いたのだと思いますが。志を同じくする者たちも、勿論」

 彼は一旦言葉を切った。

「こうは考えられませんか。
 宝を得たから、あそこまで上り詰めたのだと」

 キールも、お爺ちゃんと同じ様な、面白がってる様な顔になった。この二人は答えがあるんだろうな。俺なんてそんな問題あったの? って今気付いたとこなのに。気付かされたというか。
 でも明日には忘れてるんじゃないかな。その可能性は大だ。誰かがこっちですよと意識を向けさせてくれなければ。
 キールもお爺ちゃんもあったのかな? そんな事が。


 持ってるのかな。
 持ってないのかな。

 持ってるのだとしてもまだ足りないのかな。

 まだ、探してるのかな。

「願いとか」
 ヒヨリが言う。
「願いの強さだけなのかも」

「そうですね。
 誰よりも強く、人の力になりたいとか、人を救いたいと思った結果なのかも知れません。
 それが認められただけなのかも」

 人ならぬ者に。


「何でも願いを叶えてくれるんですの!」
 漸く自分の役目や立ち位置を認識したマーカス公爵家の【掌中の珠】は、高らかに宣言した。

 彼女は居並ぶ人々に言ったのではないと思う。それは人々にも分かっている。でも誰も彼女を非難しない。今日初対面の俺たちも一緒。
 皆んな、彼女を可哀想だと思っている。
 彼女の言葉はただ一人に向けられたもので。
 そして、彼の興味を引くのに、ご大層なお宝まで持ち出さないといけないんだから。


「御伽話の世界ではそれもあるのかと信じてしまいますね」
「そうだな。信じてしまいたくなるな」
 キールとリロイはこちらを見て言った。

 俺は知ってるよ。信じるより先に。
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