星降る真夏の夜に、妖精の森で迷子になる。

折原ミフク

文字の大きさ
65 / 72

エピローグ(1)--半世紀の恋。

しおりを挟む


 黒猫が腕の中で鳴く。
 猫の鳴き声はこっちも向こうも同じ。
 今回から、鳴き声だけでなく姿もそのまま存在を許されたらしい。
 ゴロゴロと身体を擦り付けてくる。
 これは猫の問題じゃなく、俺が成長したって事なのかな?


「これ出来るか?」
 大勢の人を眺めながらグエンが密やかに俺に問い掛ける。なんかいっぱしの王族みたいに。
「うん」
 俺は我ながら自信に満ちて肯いた。
 グエンの手を取ると、要らぬ嫉妬をしたリロイが俺から黒猫を取り上げて反対の手を繋いだ。

 一応キールが皆に転移することを断ったが反対も混乱もなく、妖精の森に溢れ返っていた人々は思いの外大人しく付いて来てくれた。駄々を捏ねられたらどうしようかと。幾ら月でエネルギーチャージ完璧以上だとしても全員を魔法で転移させるのは大変だとグエンと二人で青くなったが。




◇◆◇◆◇◆

 蝕の終わった満月は全てのものをキラキラさせて俺たちを目的地まで穏やかに運んだ。

 皆を転移させたその先は、公爵家の別邸で、俺が勝手に連れて来た王宮の宝物庫に居た人々は、元気を取り戻してそこに居た。
 そしてその屋敷の広大なエントランスホールで、
「マリアンヌ!!」
 彼は彼女を一瞬で見つけた。

 お爺ちゃんはお婆ちゃんを半世紀という時間をものともせず大勢の中から一目で見つけてしまった。
 俺や可愛い孫が敵とのバトルの最中に訳の判らんまま消えてしまい自分も他の人々も傷だらけでこれからどうしようという状況だったにも関わらず。月蝕が終わってしまうと傷が癒えて疲れも無くなっている不思議な状況だったにも関わらず。
 彼女が元の若い姿でなく自分と同じように歳を重ねた姿で現れたにも関わらず。

「あら、リロイ」
 お婆ちゃんはちょっとした散歩から帰って来た挨拶だった。
 このリロイは俺とより親しい方のリロイではなく、彼が名前を貰ったお爺ちゃんの方。
「何か汚れてるわ。お仕事大変だったの?」
 大変なお仕事だったのはそりゃそうなのだが、いきなり五十も歳取ったことを言わないか? 五十歳取っても直ぐ判る時点で五十歳取ったことなんてどうでも良いのかも知れないが。

「君の散歩が長過ぎて待ちくたびれたんだよ」
 お爺ちゃんは躊躇わずお婆ちゃんの手を取り口付けた。
「あら、御免なさい。森が綺麗で日が暮れるの気付かなかったの」

 大きく溜息を吐いたのは、彼女の居ないうちに出来てた彼女の孫だ。
「日が暮れる、のじゃなくて年が経つのがだろ」

「この子はだぁれ? リロイに似てるけど」
「私たちの孫だよ。可愛いだろ?」
 可愛い盛りをとっくに過ぎてしまった可愛げの無い孫は言葉に詰まってしまったので、代わりに王子様が挨拶した。
「初めまして。グエン=ローデンハイムと申します。取り敢えず今の王太子などをしております。お孫さんのリロイとは幼い頃からの付き合いでーー(云々かんぬん、以下略)ーー」


 王子様が社交を展開しているのなんか構う事なく、二人は自分たちの世界に入ってしまった。

「何か不思議な光景だねぇ」
 おっとりとヒヨリが呟く。
「異世界ってだけで不思議だけどね」

 混乱の極みの人々を眺めながら、未来は不安だらけの筈なのに、俺たちは幸せ一杯だった。
 多分、公爵家がーーと言うよりお爺ちゃんが何とかしてくれるんだろうし。

 この大勢の人々に善い結末が訪れるといい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

処理中です...