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エピローグ(1)--半世紀の恋。
しおりを挟む黒猫が腕の中で鳴く。
猫の鳴き声はこっちも向こうも同じ。
今回から、鳴き声だけでなく姿もそのまま存在を許されたらしい。
ゴロゴロと身体を擦り付けてくる。
これは猫の問題じゃなく、俺が成長したって事なのかな?
「これ出来るか?」
大勢の人を眺めながらグエンが密やかに俺に問い掛ける。なんかいっぱしの王族みたいに。
「うん」
俺は我ながら自信に満ちて肯いた。
グエンの手を取ると、要らぬ嫉妬をしたリロイが俺から黒猫を取り上げて反対の手を繋いだ。
一応キールが皆に転移することを断ったが反対も混乱もなく、妖精の森に溢れ返っていた人々は思いの外大人しく付いて来てくれた。駄々を捏ねられたらどうしようかと。幾ら月でエネルギーチャージ完璧以上だとしても全員を魔法で転移させるのは大変だとグエンと二人で青くなったが。
◇◆◇◆◇◆
蝕の終わった満月は全てのものをキラキラさせて俺たちを目的地まで穏やかに運んだ。
皆を転移させたその先は、公爵家の別邸で、俺が勝手に連れて来た王宮の宝物庫に居た人々は、元気を取り戻してそこに居た。
そしてその屋敷の広大なエントランスホールで、
「マリアンヌ!!」
彼は彼女を一瞬で見つけた。
お爺ちゃんはお婆ちゃんを半世紀という時間をものともせず大勢の中から一目で見つけてしまった。
俺や可愛い孫が敵とのバトルの最中に訳の判らんまま消えてしまい自分も他の人々も傷だらけでこれからどうしようという状況だったにも関わらず。月蝕が終わってしまうと傷が癒えて疲れも無くなっている不思議な状況だったにも関わらず。
彼女が元の若い姿でなく自分と同じように歳を重ねた姿で現れたにも関わらず。
「あら、リロイ」
お婆ちゃんはちょっとした散歩から帰って来た挨拶だった。
このリロイは俺とより親しい方のリロイではなく、彼が名前を貰ったお爺ちゃんの方。
「何か汚れてるわ。お仕事大変だったの?」
大変なお仕事だったのはそりゃそうなのだが、いきなり五十も歳取ったことを言わないか? 五十歳取っても直ぐ判る時点で五十歳取ったことなんてどうでも良いのかも知れないが。
「君の散歩が長過ぎて待ちくたびれたんだよ」
お爺ちゃんは躊躇わずお婆ちゃんの手を取り口付けた。
「あら、御免なさい。森が綺麗で日が暮れるの気付かなかったの」
大きく溜息を吐いたのは、彼女の居ないうちに出来てた彼女の孫だ。
「日が暮れる、のじゃなくて年が経つのがだろ」
「この子はだぁれ? リロイに似てるけど」
「私たちの孫だよ。可愛いだろ?」
可愛い盛りをとっくに過ぎてしまった可愛げの無い孫は言葉に詰まってしまったので、代わりに王子様が挨拶した。
「初めまして。グエン=ローデンハイムと申します。取り敢えず今の王太子などをしております。お孫さんのリロイとは幼い頃からの付き合いでーー(云々かんぬん、以下略)ーー」
王子様が社交を展開しているのなんか構う事なく、二人は自分たちの世界に入ってしまった。
「何か不思議な光景だねぇ」
おっとりとヒヨリが呟く。
「異世界ってだけで不思議だけどね」
混乱の極みの人々を眺めながら、未来は不安だらけの筈なのに、俺たちは幸せ一杯だった。
多分、公爵家がーーと言うよりお爺ちゃんが何とかしてくれるんだろうし。
この大勢の人々に善い結末が訪れるといい。
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