星降る真夏の夜に、妖精の森で迷子になる。

折原ノエル

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エピローグ(2)ーー雨の日。

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 傘を刺そうかどうしようか、迷うぐらいの雨だった。
 俺たちは結局傘の代わりに春にしては分厚い黒いコートと手袋を身に着けた。
「やはり少し寒かったな。大丈夫か?」
 ライトはヒヨリのポケットで手を繋いでる。それでも顔色は良くない。


 奇跡はあっちこっちで起こっていた。
〈女神の泉〉に現れた人々はお爺ちゃんが面倒見る事になった。
 だけど奇跡は〈女神の泉〉でだけ起こっていた訳ではなくあちこちで起こっていて、行方不明になってた人が突然帰って来たり、失くしていた大事なものが見つかったり、世紀の大発見やら大発明やらも一度期に起こった。知り合いの中で一件はそう言う事があったらしい。

 グエンの飛行船を爆破した男は国王陛下が事情を憂いて赦免された。今回の一連の爆破事件で、愉快犯や金銭目的、身勝手な私利私欲で事件を起こした者は兎も角、彼の様な事情を持つ者は許されたらしい。大まかに亡くなった人が居なかった場合だね。

 クライヴさんの婚約者さんも見つかった。
 見ず知らずの男の家の庭に埋められていたのだ。〈妖精の森〉で乱暴目的で攫われた彼女は最期まで言うことを聞かず抵抗したので勢い余って男に殺されていた。
 何故だか最近になっていきなり犯人の男は罪悪感に苛まれる様になり自主して来た。
 助けてくれ、と警察に駆け込んで来たのだ。
 殺した女が現れるのだと。寝ても覚めても現れて訴えてくるのだと。
 あの人のところへ帰して、と。
 男の庭から見つけ出された彼女は骨になっていたが、残っていた頭髪の色や身長、身に着けた物からクライヴさんの婚約者さんだと判定された。服も髪飾りもクライヴさんの送った物だったから彼には見間違えようが無かった。左手の薬指には内側に彼の名前の記されたお揃いの婚約指輪もあった。
 クライヴさんは今朝、彼女の骨と遺品を携え婚約者さんのご両親に報告する為彼女の故郷へ旅立った。
 真っ赤な目をしたクライヴさんを見送って俺たちは元リズベスト伯爵夫人の葬儀に赴いた。

 グエンの飛行船を爆破した男はと違って彼女は免罪される事がなかったので、参列する人も少なく雨と相まって寂しいものとなった。

 ほんの僅かな、でも貴族の社交じゃない本当の友人であるところの、そして彼女の犯罪の最大の被害者である、果敢なマーカス夫人から俺たちは元リズベスト夫人の御令息たちを紹介された。
「母の為にご尽力下さったそうで、ありがとうございます」
 追い詰めただけだとは言えなかった。俺たちだけじゃなく、彼らも、多分全ての事どもが彼女を追い詰めたに違いなかったから。

 彼女の元夫らしき人の姿は参列者の中に見つけることは出来なかった。マーカス夫人以外の、一緒に公爵邸で紹介された友人たちも居た。
「今日は私以外も喪服ね。辛気臭いというか、目立たないわね」
 憎まれ口を叩く彼女も声に朗らかさがなく黒いヴェールの下はやつれている様に見えた。
「詰まんない男なんか放っときゃ良かったのにね」
 ヒヨリの言う通り、彼女は、子供や友人の方を見ていれば良かったのだ。
 本当に。

 祈りと埋葬だけの葬儀は直ぐ終わってしまった。

 止まっていた時間が動き出して、彼らはやっと一歩踏み出せるのだろうか。

 暖かいのだか寒いのだか判らない春の日はそんな雨の一日だった。


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