婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。

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Ep.11 嵐の後

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夜明けの王都は、静まり返っていた。
前夜の舞踏会の余韻がまだ街を覆っており、
どの屋敷の窓も、いつもより遅くまで灯をともしていた。

だがその明るさは祝福ではなかった。
噂が、雪より早く広がっていた。

――エインズワース家が、王太子との婚約を破棄した。
――王太子が沈黙したまま、貴族の前で立ち尽くした。
――公爵令嬢は、微笑んで去った。

誰も真実を知らないまま、
それぞれの想像が“物語”を作り上げていった。


◇◇◇


エインズワース邸。
クラリッサは執務机に座り、書類を整えていた。

リアが紅茶を運びながら、何度も言葉を探す。

「……お嬢さま。あの、何か……」
「言っていいのよ、リア」
「殿下が、何も言わずに破棄を受け入れるなんて……」
「誇りは、言葉より静かに示すもの。あの場で取り乱したら、それこそ終わりです」

リアはうつむく。
「……泣かないのですか」

 「泣く理由がありません。あれは“終わり”ではなく、“始まり”でした」

白い庭に朝の光が差し、雪の上の足跡が薄く残る。
――昨夜、自分が戻った道の跡。

 冷たく、それでいて確かな道。


◇◇◇


王宮では、空気が張りつめていた。

宰相府、軍部、教会。
それぞれが“王家の次の一手”を探っていた。

ルーファスは王の執務室で、父王と向き合っていた。

「……ルーファス、説明を」
王の声は低かった。

「婚約の破棄を、事前に把握していたのか」
「……いいえ」
「なぜ、止めなかった」
「あのとき、私は止める言葉を持ちませんでした。」

沈黙。
暖炉の火が爆ぜる音がやけに大きく響く。

「私は、マリアンヌを!」
「ならぬ。軍部派が暴走する。
 私は宰相府と話をしてくる。詳しい話はそれからだ。」

ルーファスは、拳を膝の上で握りしめた。


◇◇◇


ロシュフォール邸。
鏡に向かうマリアンヌの目の奥に、焦りが滲む。

「殿下が、“婚約の発表を見合わせる”と」
侍女が伝える。

「見合わせる? なぜ?」
「陛下のご意向だそうです」

マリアンヌは唇を噛んだ。
“破棄の後”――自分こそが次に選ばれるはずだった。
だが、扉はまだ開かれない。

「……この国は、“礼節”を盾に沈黙を続けるのね」

視線が鏡に映る自分とぶつかる。
声は低く、しかし明瞭だった。

「実力ある者を立てようとしても、血筋を理由に道は閉ざされる。
 誰にでも挑む機会を与えようとすれば、“品位を欠く”と嗤われる。」

「それを“均衡”と呼ぶなら、わたくしは――壊してみせます」

鏡の中で、微笑みがぴたりと定まった。
それは可憐ではない。決意の形だった。


◇◇◇


午後。
エインズワース邸の応接室。
エドガーが娘を呼び出した。

「宰相からの使いが来た。王家は“理解を示す”とのことだ」
「感謝を申し上げます」
「それと……世論の反応を気にするな」
「気にしていません」
「そうか」

エドガーはしばらく黙ったあと、窓際に立った。

「クラリッサ。お前は私に似てきた」
「父上に、ですか」
「沈黙のままに痛みを抱えるところがな」

クラリッサは小さく微笑んだ。
「沈黙は、逃げではありません」

「わかっている。だが、あまり長く黙ると、心が凍る」
「凍らせておけば、痛みを感じません」
「それは、若い者の言葉だ」

エドガーは振り返り、娘を見つめた。
「人は、痛みを感じることで他人を守れる。それを忘れるな」

クラリッサは少しうつむき、
「……覚えておきます」とだけ答えた。


◇◇◇


その夜。
星空を見上げながら、静かに日記を閉じた。

「……これでいいのよ」

雪明かりが窓の外を照らしている。
その光は淡く、けれど確かに新しい一日を告げていた。

彼女の胸の奥で、小さなうねりが生まれた。
それは、自分がこれから“生きる”ための、最初の熱だった。


――エインズワース家から仕掛けた婚約破棄は形となり、
王国は更なる騒乱へと巻き込まれていく
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