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Ep.16 王家の審問ーー断罪の刻
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王都の鐘が、朝の八刻を告げた。
教会の鐘楼から響く音が、冷たい空気の中をゆっくりと伝わっていく。
今日、王国の命運が決まる。
王城の大広間――。
王家の紋章を刻んだ青い絨毯が敷かれ、
左右には貴族たちの席が並ぶ。
上座には王と教皇代理、そして宰相が座していた。
空気は重く、沈黙は鋭い。
誰もが一言の間違いを恐れていた。
「ロシュフォール侯、前へ」
宰相の声が響いた。
マリアンヌの父、ロシュフォール侯が歩み出る。
白い髭が震えているが、表情は取り繕われている。
その隣に、マリアンヌがいた。
以前のような可憐さは消え、
その笑顔には張り詰めた焦燥が滲んでいた。
宰相が手元の文書を掲げた。
「本件――軍部の不正な再編計画について、
宰相府および宮廷書記局の調査により、
複数の偽造書簡と金銭の流れが確認された。
加えて、王太子殿下の署名を用いた文書の偽造。」
「これは国家への背信行為である」
広間にざわめきが走った。
「殿下の署名文書が偽造……?」
人々の囁きが波紋のように広がる。
宰相は静かに手を上げ、沈黙を戻した。
「付言する。
今回押収の“越権動員指示状”には、王太子私印の直押しも確認された。
これは評議会手続を経ていない
――すなわち、正式な法的手続きを踏み越えた“私的動員”である」
クラリッサは立ち上がった。
「――わたしは、真実を語るためにここにおります」
その声は大きくはなかったが、広間の誰もが息をのんだ。
「この文書にある王太子殿下の署名――
筆跡の一部に複写痕があります。
殿下は、この書簡が作成された日、
王城にはおられませんでした」
宰相が補足する。
「その日の行動記録は確認済みです。
殿下は軍部の会議に出席していない」
ロシュフォール侯の顔から血の気が引いた。
マリアンヌが一歩前に出た。
その顔には恐怖も涙もない。
ただ、静かな光が宿り、言葉を紡いだ。
「――記録。証文。評議。
あなた方がそれを“秩序”と呼ぶのなら、
この国は永遠に眠ったままですわ。」
人々が息をのむ。
「この国は、“誠実”という名の沈黙に支配されています。
間違いを正そうとすれば、“品位を欠く”とされる。
努力しても、血統が劣れば門を閉ざされる。
それを“均衡”というなら、私は――壊してみせますわ。」
「貴族の子でなくても学び、農夫の娘でも文を書ける国にする。
殿下はその夢を聞き、心を動かされた。
罪があるなら、共に背負う覚悟でした。」
ルーファスが立ち上がる。
「……私は彼女の言葉に共鳴した。
“誠実は沈黙ではなく行動だ”と。
だから私は、評議を待たずに印を押した。
民の苦しみを救いたいと思った、それがすべてだ。」
マリアンヌが彼の肩越しに微笑む。
「見てください、これが“情”ではなく“信念”です。
殿下は私の操り人形などではない。
ともに、この国の形を変えようとした同志です。」
クラリッサの胸がわずかに震えた。
彼女の言葉を憎みながら、そこに理の一片を見つけてしまう。
シャーロットは目を閉じ、静かに息を整える。
その表情には、理想の光を拒まず、ただ測るような思慮の影があった。
貴族席では、誰かが息をのむ。
賛同のまなざし、拒絶の影、揺らぐ視線――ざわめきが波のように広がる。
――だが、王の声が彼らの信念を破る。
「理想が罪を許すことはない。
秩序の上にしか王国は立たぬ。」
そして、判決が下る。
「ロシュフォール家――王家への背信罪により爵位を剥奪、財産没収。
マリアンヌ・ロシュフォール――大逆罪により斬首。
王太子ルーファス・ヴェルナー――称号を剥奪、修道院にて終身奉仕。
関係者、軍部派閥、全てを軍法会議に付す。」
その瞬間、マリアンヌは静かにうなだれた。
「血を流してでも、血が支配する国を変えたかったけれど……
私の言葉は届かなかったのね。」
王が席を立つ。
誰も言葉を発せず、ただ風だけが窓を震わせた。
教会の鐘楼から響く音が、冷たい空気の中をゆっくりと伝わっていく。
今日、王国の命運が決まる。
王城の大広間――。
王家の紋章を刻んだ青い絨毯が敷かれ、
左右には貴族たちの席が並ぶ。
上座には王と教皇代理、そして宰相が座していた。
空気は重く、沈黙は鋭い。
誰もが一言の間違いを恐れていた。
「ロシュフォール侯、前へ」
宰相の声が響いた。
マリアンヌの父、ロシュフォール侯が歩み出る。
白い髭が震えているが、表情は取り繕われている。
その隣に、マリアンヌがいた。
以前のような可憐さは消え、
その笑顔には張り詰めた焦燥が滲んでいた。
宰相が手元の文書を掲げた。
「本件――軍部の不正な再編計画について、
宰相府および宮廷書記局の調査により、
複数の偽造書簡と金銭の流れが確認された。
加えて、王太子殿下の署名を用いた文書の偽造。」
「これは国家への背信行為である」
広間にざわめきが走った。
「殿下の署名文書が偽造……?」
人々の囁きが波紋のように広がる。
宰相は静かに手を上げ、沈黙を戻した。
「付言する。
今回押収の“越権動員指示状”には、王太子私印の直押しも確認された。
これは評議会手続を経ていない
――すなわち、正式な法的手続きを踏み越えた“私的動員”である」
クラリッサは立ち上がった。
「――わたしは、真実を語るためにここにおります」
その声は大きくはなかったが、広間の誰もが息をのんだ。
「この文書にある王太子殿下の署名――
筆跡の一部に複写痕があります。
殿下は、この書簡が作成された日、
王城にはおられませんでした」
宰相が補足する。
「その日の行動記録は確認済みです。
殿下は軍部の会議に出席していない」
ロシュフォール侯の顔から血の気が引いた。
マリアンヌが一歩前に出た。
その顔には恐怖も涙もない。
ただ、静かな光が宿り、言葉を紡いだ。
「――記録。証文。評議。
あなた方がそれを“秩序”と呼ぶのなら、
この国は永遠に眠ったままですわ。」
人々が息をのむ。
「この国は、“誠実”という名の沈黙に支配されています。
間違いを正そうとすれば、“品位を欠く”とされる。
努力しても、血統が劣れば門を閉ざされる。
それを“均衡”というなら、私は――壊してみせますわ。」
「貴族の子でなくても学び、農夫の娘でも文を書ける国にする。
殿下はその夢を聞き、心を動かされた。
罪があるなら、共に背負う覚悟でした。」
ルーファスが立ち上がる。
「……私は彼女の言葉に共鳴した。
“誠実は沈黙ではなく行動だ”と。
だから私は、評議を待たずに印を押した。
民の苦しみを救いたいと思った、それがすべてだ。」
マリアンヌが彼の肩越しに微笑む。
「見てください、これが“情”ではなく“信念”です。
殿下は私の操り人形などではない。
ともに、この国の形を変えようとした同志です。」
クラリッサの胸がわずかに震えた。
彼女の言葉を憎みながら、そこに理の一片を見つけてしまう。
シャーロットは目を閉じ、静かに息を整える。
その表情には、理想の光を拒まず、ただ測るような思慮の影があった。
貴族席では、誰かが息をのむ。
賛同のまなざし、拒絶の影、揺らぐ視線――ざわめきが波のように広がる。
――だが、王の声が彼らの信念を破る。
「理想が罪を許すことはない。
秩序の上にしか王国は立たぬ。」
そして、判決が下る。
「ロシュフォール家――王家への背信罪により爵位を剥奪、財産没収。
マリアンヌ・ロシュフォール――大逆罪により斬首。
王太子ルーファス・ヴェルナー――称号を剥奪、修道院にて終身奉仕。
関係者、軍部派閥、全てを軍法会議に付す。」
その瞬間、マリアンヌは静かにうなだれた。
「血を流してでも、血が支配する国を変えたかったけれど……
私の言葉は届かなかったのね。」
王が席を立つ。
誰も言葉を発せず、ただ風だけが窓を震わせた。
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