リズエッタのチート飯

10期

文字の大きさ
41 / 149

精霊

しおりを挟む

 



「リズとー!」

「アルノーの!」

「三分間じゃないクッキングー! パフパフゥ」

 紅い空が段々と紺青に変わっていく風景を見ながら私とアルノーは調理にかかる。
 今日の夕ご飯は簡単なもので、尚且つ普通の商人が食べているものを前提で作っていく。それでも”普通”とは違うものが出来るのは当たり前だと言えるのだが。

 庭産干し肉と干しきのこを使用した簡単すいとんと、パンにピクルスと焼いたベーコン、チーズをはさんだサンドイッチ。炭水化物と炭水化物だが気にしない。
 デザートにはレモンの蜂蜜漬けだ。
 男どものおつまみにそのまんまのジャーキーを出しておいたし文句は言わないだろう。

 この世界に時間魔法だの収納魔法だのがあればよかったのだがそんな便利な魔法は存在せず、スヴェンに訪ねた時は頭がいかれたのかと心配されたのはいい思い出だ。

 旅路の初めは傷みやすい生野菜を使った料理
 を作り、後半はピクルス等の酢漬けやキノコの塩漬け、ドライトマトのオイル漬けなど保存に適したものを使っての料理をするしかないだろう。途中狩りが成功した時に限り大盛り肉焼きや、それに伴ってご飯を炊いてもいいかもしれない。

 その時その時に工夫していかないとすぐに飽きそうで怖いのが難点だ。

「さて、ご飯にするよー」

 大声で彼らを呼びアルノーと二人でスープをよそって渡そうとしたが、食事中も護衛はするらしく最初にティモ、その次がカールで最後がクヌートの順番で食べるそうだ。
 ならばしょうがないと焚き火をしているスヴェンの隣を陣取り、いただきますの合図で食事を始めた。

 家で食べるご飯と違い少し味気ない感じもするが不味くはない。
 モグモグと当たり前の様に美味しいねと呟きながら食べていると、目の前にいたティモが目を見開いてすいとんの入ったお椀を凝視している。
 口に合わなかったのかと声を掛けると、今度は驚いた様に私の顔とお椀を何度も何度も確認しオドオドと口を開いた。

「あのよぉ、別に気を使わなくていいんだぞ?」
「はい?」
「無理にこんな飯作らなくても、俺等はちゃんと仕事するから」

 全くもって、意味不明である。
 こんな飯という事は私の作った夕ご飯に問題があるのは一目瞭然なのだか、それと仕事がどう関係するのか訳がわからない。
 頭にクエスチョンマークを浮かべていると隣に座って黙々と食べていたスヴェンが気にするなとティモに声を掛けた。

「こいつ等にとってはこれが普通なんすよ。 気にしないで食ってください」

「いや、でもよ」

「アルノー、この飯は普通だよな?」

「んー、いつもの方が美味しいと思うけど」

 私を含めない会話に若干不機嫌になるも、別にティモも不味くて文句を垂れている訳ではないと分かる。不味かったらもっと違う言葉で言うはずだ。
 項垂れるティモに食え食えとスヴェンは進め、眉間にシワを寄せながらもティモはどんどん口へと運んでいく。
 そんな姿をちらちらと確認しながら私もすいとんを啜り、食べ終えてひと段落したところで今度はカールの分の食事をよそったのだ。

 するとカールもカールで眉間にシワを寄せ私やスヴェンに食べてもいいものなのかと問い、またさっきの様なやりとりが始まった。前回のティモと違うところは彼もその会話に少し加わり、二人揃って怪訝な顔をしたところだろうか。

 二度あることは三度ある。
 その言葉を肯定するかの様に最後に夕食を食べたクヌートさえも同様の質疑応答を繰り返し、結局のところ三人に怪訝な顔をされ初日の夕食を終えたのである。

 三人の反応はどういった意味であったかは謎のままだが、とりあえずいま私がすべき行動はただ一つ。
 洗い物だ。

 少し離れたところで話し込む四人を他所に私とアルノーは使い終わった食器を一箇所に集め、そしていつもの様にアルノーに魔法を使ってもらう。

「ナーガン、サラマンド。 お湯の球を作って」

 詠唱とは言えない詠唱だが、これで大体伝わる。
 水の精ナーガンと火の精サラマンドの力を借りて空中にお湯の球を出現させその中に食器をポイポイと投げ入れ、ついでにスヴェンが買ってきてくれたお高い石鹸を一欠片投入。

「ナーガン、ぐるぐる回って」

 アルノーの声に反応してお湯の球の中で食器は回り、洗濯機の中の様だ。
 汚れとれたところでもう一度ナーガンに頼み水洗いをし、次に風の精シルフィに頼んで乾燥させて完了。

「ありがとう、助かったよ」

 お礼を言うとふわりと風が舞い、まるで精霊がどういたしましてといっている様に感じる。
 今日も寝る前にビスケットかクッキーを献上して私からもお礼としよう。

 フンフンと鼻歌を歌いながら食器を袋の中にしまっていると後ろからかたを掴まれ、無理矢理にそちら側を向かされた。
 あまりにも一瞬だった為なにが起こったか理解するのに数秒かかったが、目の前にキラキラと瞳を煌めかせたカールの出現に驚愕するしかない。
 力いっぱい私を揺らしどうやったと詰め寄る姿の向こうにニヤニヤと笑うスヴェンを見つけるも助ける事はなく、近くにいたアルノーに視線を向けるとそちらもそちらでクヌートに詰め寄られている。
 どうしたものかと首を傾げるもカールはひたすらあれは何だと、どうやったと言葉を繰り返すばかりだった。

「あの魔法はなんだ? どうやった!」
「嗚呼、あれのことですか!」

 魔法という言葉でようやくカール達の言っている事を理解し、私は躊躇なく弟の自慢を始めた?

「アルノーは精霊達と仲良しなんですよ! だからあんな雑な詠唱でも力を貸してくれるんです! 凄いでしょ? アルノー凄いでしょ! それになによりアルノーはちゃんとお礼も出来る子なんです。そりゃ精霊達も力を貸しちゃうはずですよ! 信頼関係って大事で、しらない人間より自分達と仲良くしてくれる人を選ぶのは当たり前と言っちゃ当たり前だといえるでしょう! すなわち精霊と信頼関係を築けたアルノーは凄いとおもいません?」

「お、おう」

 饒舌な私にカールは若干引き気味だったが話はきちんと聞いており、精霊との信頼関係とはなんぞやと問いかけ私はそれに答える。

「例えば私とカールさんの間には依頼主とそれを受けた人という関係があります。 互いに目的を完遂するためにここにいますが、関わりを持たず干渉をもたずにいたらいざという時にきちんと対処出来るかわかりません。 故に私達はあなた方と仲良く、短期間であれど信頼関係を築いておいた方がいいですね?」

「んまぁ、その方がいいかもな」

「となると、それは精霊達も同じで、ただ単に詠唱を唱える人間と精霊を敬い信頼関係を築いる人間の方が融通を利かせてくれると思いません?」

 だから精霊達に名前をつけて呼んでいるアルノーは詠唱が短文でも悲惨でも、その言葉の意味を読み取って彼らは動いてくれているのだ。きっと今までの常識に囚われている人間には理解出来ないことがらだろうが、柔軟な脳と思考を持ち備えている子供のアルノーは私の考えを当たり前の様に実行し、ここまでに至ったのである。

「信頼関係を築く事は時間をかければカールさん達にも出来ると思いますよ? なにせスヴェンはアルノーには劣るけど出来ますし」

「ほんとか! 是非教えてくれ!」

「いいですよー」

 にっこりと笑って握手を交わし、荷台にある私の鞄からクッキーを三枚取り出して一人一枚づつ渡す。
 キョトンする彼らにお供えものだと伝え、私が日々やる行動を本日は野外で行った。

「精霊さん精霊さん! 是非アルノーと私とスヴェンと仲良くしてください! そして彼らとも仲良くしてくださいな」

 私の後に続きアルノーとスヴェンも同じ事をし、そしてそれを見た彼らも戸惑いながら精霊達にもお供えものという名の貢物を捧げていく。
 きっと明日の朝にはクッキーは消えていて、仲良くしてくれるのならば花が添えられているだろうがそんな簡単にいくとは思っていない。スヴェンでさえ花が返ってくるのに一週間はかかったのだ、それくらいは見てもらわなければ。

「ほんとにこんな事でいいのか?」

「直ぐにとは言えませんが、きっと精霊達は仲良くしてくれますよ」

 この言葉を嘘にはしたくないので、グルムンドまたはエスターに帰るまでに花が返ってくる事を願うばかりだ。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

兄の親友が彼氏になって、ただいちゃいちゃするだけの話

狭山雪菜
恋愛
篠田青葉はひょんなきっかけで、1コ上の兄の親友と付き合う事となった。 そんな2人のただただいちゃいちゃしているだけのお話です。 この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【短編】子猫をもふもふしませんか?〜転生したら、子猫でした。私が国を救う!

碧井 汐桜香
ファンタジー
子猫の私は、おかあさんと兄弟たちと“かいぬし”に怯えながら、過ごしている。ところが、「柄が悪い」という理由で捨てられ、絶体絶命の大ピンチ。そんなときに、陛下と呼ばれる人間たちに助けられた。連れていかれた先は、王城だった!? 「伝わって! よく見てこれ! 後ろから攻められたら終わるでしょ!?」前世の知識を使って、私は国を救う。 そんなとき、“かいぬし”が猫グッズを売りにきた。絶対に許さないにゃ! 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...