追憶の君

森本 凛

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「多分、ここだと思うよ」
 大して大きくない声なのに、静寂を切り裂くような鋭さを感じる。
 女性の声だ。
 声がした方向に顔を向けるが、姿を確認できない。
「こっちだってば」
 少し上の方から声が聞こえたのが分かった。見上げると、恐らく同年代ぐらいの女の子がいた。
 洋服箪笥ぐらいの大きさのコンクリートの置物が、この自然とは不釣り合いな様相で、その場に存在している。ペンキで黒く塗り潰されていたこともあり、一瞬その存在を視認することができず、まるで彼女は宙に浮いているように見えた。
 先客がいたことに驚くと同時に落胆した。この光景を一人占めした後に死ぬという計画が、完全に崩れたからだ。文句の一つでも言ってやろうと思い、僕は彼女の方に歩を進めた。そのコンクリートの置物の側面には、よく見ると簡易的な梯子が取り付けられている。全体的な造りを見ると、元々の用途は推測し切れないが、展望台の一部分だけを切り取ったような姿をしている。
 梯子を上り、彼女の元にたどり着くと、僕はたった数メートル高さが変わっただけなのに、風景の見え方が一変したことに驚いた。まるで、月までの距離が半分に近付いたかのように、引き寄せられたかのように、僕は空を近くに感じていた。
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