追憶の君

 死に場所を探していた夏樹(なつき)は、観光案内雑誌の見開きページに掲載されていた、月の綺麗な場所を目指した。その場所で、幻想的な風景を一人占めした後に死ぬことを決めていたが、先客がいた。
 先客は月の絵を描く美少女で、驚くことに夏希(なつき)という同じ名前だった。彼女との語らいにより、生きる希望を見出した夏樹であったが、夏希から自分は余命宣告をされていて、一ヵ月の命だと告げられる。
 無性に腹が立った夏樹であったが、絵を描きたいという彼女の望みを叶えてあげたいという一心で、しばらく生き続けることを決める。
 毎日のように交流し、心を通わせる中で、お互いにお互いを特別な存在であると認識するようになる。
 絵が完成間近に控えた頃、二人の思い出の場所に夏希は姿を現さず、代わりに中年男性が夏樹の前に現れる。男性は夏希の父親で、夏樹に自分の後を付いて来てほしいと告げる。
 夏希の自宅に到着すると、和室の布団で衰弱しきった夏希が眠っていた。夏樹は夏希と最期の言葉を交わすと、人目をはばからず泣きじゃくった。
 夏希の母親に夏希からの手紙を託された夏樹は、生前、夏希が言っていた「生まれ変わって会いに行く」という言葉を本気で記していた手紙を信じて、三十年間、夏希のことだけを想い続けて生きてきた。
 夏希の幻影を信じ続けることに疲れた夏樹は、再びロープを持ってあの場所を訪れることにした。夏樹は三十年振りに訪れたあの場所で、三十年振りに夏希と再会した。月はそんな二人の再会を祝福するかの如く、あの頃と同じように優しい光で包んでいた。
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