酒池肉林王と7番目の天使~番外編集~

日向かなた

文字の大きさ
2 / 51

身体測定ー2

しおりを挟む
 ――翌日、早朝5時過ぎ。

 宮廷オルキデーア城の最上階――4階にある、国王の寝室のベッドレットで目を覚ましたベル。

 目前にある、国王フラヴィオ・マストランジェロ(満34歳)の胸に抱き付き、転がって、仰臥したその上に寝そべった。

「あーさーでーすーよー」

「うーん……?」

 とフラヴィオは瞼を閉じたまま、ベルの栗色の頭を撫でる。夢現でも、まるっとしてお気に入りの後頭部はしっかり撫でる。

「なんか早くないか……? 今何時だ?」

「5時20分です」

 それはいつもの起床より40分近く早く、フラヴィオは何故かと夢現の頭で黙考する。

 結論が出たら急速に覚醒して、「ふふふ」とデレて転がり、ベルの上になる。まずは『おはようのキスバーチョ』をした。

「昨夜もあんなに愛でたのに、まだ足りないのか? そうだな、危険日だから最後まで出来ないもんな。そりゃ物足りな――」

「身体測定です」

 とベルに言葉を遮られると、「うん?」と一瞬小首を傾げたフラヴィオ。思い出した。

「私は昨日、申し上げたはずです。本日は朝餉前に身体測定を行いますと」

「そうだった、早めに朝餉前の鍛錬を始めねばならぬのだった。ああ、しかし困ったな……」

 と言ったら、ベルがまたぐるんと回転して上になった。

「2分で出します」

 と、布団の中に潜っていく。言わずとも、お見通しらしい。

 布団の中を覗くと、下半身の方に栗色の頭が見えた。敏感なところが刺激される。

「あの、アモーレ? 2分はちょっと恥ずかしいのだ……」

「朝餉前に天使軍も身体測定を終わらせなければならぬため、急いでいるのです」

「ス、スィー。素直に出すのだ」

 それから少しすると、ふと忙しそうだったベルの口と手が止まった。

「あ、あれ? アモーレ?」

「申し訳ございません、少々お訊ねしたいことが。先日、オルランド様が、アヤメ殿下の危険日を気にしていらしたのをお見かけしたのですが」

「ああ、そのことか。結婚したと言っても、アヤメはまだ16だろう? いくら治癒魔法があると言っても、まだ身体が未熟で、子を産むには負担が大きすぎるからな。なるべくなら20歳を超えたくらいが望ましいのだ」

「やはりそういうことでしたか。では、コラード様の方が先になりそうですね」

 と、ベルの口と手がまたせっせと仕事をする。

「なぁ、アモーレ……それと同じ理由からだぞ?」

 ベルの栗色の瞳がフラヴィオの顔を見た。

「余がそなたの危険日に、そなたを抱くことをしない理由だ。そなたは初潮が来てから間もないのだから、尚のことだ。身体だって小さいし、最低でも20歳を超えることは絶対条件だ。そなたに何かあったらと考えると、余が怖いのだ。そなたとのあいだに子を作る気が無いとか、そういう理由からではない」

 ベルの笑顔が見えた。

「愛している、アモーレ。余だって、本当はすぐにでも……って、あっ……アモモモモモモ――」

 1分54秒だった。

 ――『力の王』が朝餉前の鍛錬を行うため4階の寝室から廊下に出ると、そこに自身と瓜二つの顔をしている弟――『力の王弟』と謳われる大公フェデリコ(満33歳)と、見た目からその力まで、もはや『人間卒業生』と囁かれる黒の巨人――親友のクエルチア侯アドルフォ(満33歳)の姿が見えた。

 アドルフォの陰には、よく見たら常備軍――オルキデーア軍とプリームラ軍の内、前者に所属する大将アラブ(満29歳)もいた。

 祖母に人型猫耳モストロのガット・ティグラートを持つ混血メッゾサングエで、この国ではまだまだ貴重な魔法を使うことが出来る。

 特徴は、父親がヴィルジネ国の人間で、それから譲り受けたらしい、一度見たら忘れられない濃い顔をしている。

「おはようございます」

 と3人揃ってフラヴィオに会釈した後、アラブが問う。

「何をアモモモ騒いでいたんです?」

 ガット・ティグラートは大変耳が利くもので、その血を引いているアラブは普通の人間よりも、遥かに耳が良い。

 寝静まった夜間や、まだ将兵が中庭に軍事訓練に来ていない早朝には、ちょっと声が大きくなるとその耳に届いてしまう。

「アモーレが玄人過ぎて余は恥ずかしい。たしか百戦錬磨の酒池肉林王なのに」

「えと……」

 興奮する度にそうであるように、アラブから鼻血が噴出する。

「おい」と、フラヴィオの拳がその頭上に降り注いだ。

「おまえ、何を想像している。ベルは国王の女だぞ」

「す、すみません、凄いものを想像しましたっ……!」

 とアラブが自身の鼻に治癒魔法グワリーレを掛けて、破れた毛細血管を修復する。

「早くしろアラブ」

 と、フェデリコとアドルフォの声がハモると、アラブはもう一度「すみません」と言った。

「では、本日はお時間も無いことですし、1階の浴場まで自分のテレトラスポルトで行きましょう」

 と、テレトラスポルト――瞬間移動魔法で、1階の将兵・使用人たちの利用する浴場へ。

 子供たち――王子とその従兄弟たち――がもう揃っていた。ほぼ毎朝そうであるように、ここで顔を洗い、歯を磨いている。

 フラヴィオたちの姿に気付くと、洗顔中でも歯磨き中でも、浴槽に沈んで寝ぐせ直し中でも一旦中断。

「おはようございます!」

 とフラヴィオに向かい、揃って頭を下げる。他3人とは、先ほど4階の廊下で挨拶を終えていた。

 基本的にこの時間帯は、今ここにいる合計12人がこの浴場を使う。

 しかし昼から夜にかけては、沢山の将兵や使用人も使うため、浴室には沢山の浴槽が並べられている。

 その内のひとつをフラヴィオが指差して、一言「ぬるめ」と言うと、アラブが「スィー」と承知した。

 すぐに魔法で、浴槽に『ぬるめ』の湯を溜めてやると、フラヴィオはさっきベルに着せてもらったばかりの寝間着をポイと投げ捨てる。

 宙を舞った寝間着はフェデリコが受け止め、フラヴィオは豪快に浴槽に飛び込む。

 湯の中で寝癖が取れ、洗顔を終えたら、金の髪を掻き上げながら「ぷはーっ」と顔を出す。

 濡れた顔を手で拭い、あーんと口を開けると、今度は口の中に歯ブラシが入って来る。

「自分で磨いてくださいよ、まったく!」

 とフェデリコが自身の歯を左手で、フラヴィオの歯を右手で磨く。

 フラヴィオが愉快そうに笑った。

「ほまえはほんほーにひほうららぁ(おまえは本当に器用だなぁ)」

 隣の浴槽では、王太子オルランド(満15歳)と第二王子コラード(満14歳)が同じことをやっている。

 ただしこっちは反対で、フェデリコ似の性格をしている兄オルランドが、フラヴィオ似の性格をしている弟コラードの歯を磨いている。

「おまえもだ、馬鹿! いい加減に自分で磨け! 身体ばっかりデカくなって、中身はいつまでも幼児のままだな!」

「えー? ほれおほららよー(オレ大人だよー)?」

 さらにその隣でも、第三王子レンツォ(満9歳)と第四王子ティート(満7歳)が同じことをやっている。

「もう、ティート! そろそろ自分でやってよぅ! ボクだって、まだ顔洗ってないんだよー?」

「れんとふへー(めんどくせー)」

 また――今日はもう準備を終えたが――フェデリコの長男リナルド(満12歳)もフラヴィオ似の性格をしていて、フェデリコ似の弟2人――次男ガルテリオ(満10歳)と、三男エルネスト(満6歳)がよく2人掛かりで世話をしている。

 毎朝穏やかな一家は、ガリバルディ親子――アドルフォとムサシ――だけだった。

 アドルフォの長男であるムサシ(満10歳)は、王太子妃アヤメの弟で――つまり友好国レオーネ出身で、アドルフォの血の繋がっていない息子(養子)だ。

 レオーネ人のペチャ可愛い顔に糸のように細い目、華奢な身体をしていて、バケモノじみて容貌魁偉のアドルフォとは誰が見ても親子には見えない。

 でもその関係は、誰が何と言おうと親子だ。

「楽しみだな、身体測定」

「え? おとんは、まだ大きくなってるでござりまするか?」

「ああ、俺は鍛えれば鍛えるほど永遠にデカくなるだろうが、そうじゃない。俺は、おまえの成長が楽しみなのさ」

「拙者の? でも…拙者は、王子殿下たちに比べたら、小さいでござるから……」

「なんだ、気にしてるのか? おまえはおまえだ、気にするなムサシ。おまえはすでに、ここにいる誰よりも弓矢の腕を持っているだろう。俺はそれを自慢に想ってるんだ。おまえは将来、強い将軍になる。体格なんて気にするな」

「スィー、おとん!」

 と嬉しそうな笑顔を見せたムサシを、アドルフォが片腕でひょいと抱き上げる。

「俺も格好良い父親でいるために、もっともっと鍛えてデカくなるからな」

「わー、拙者も楽しみでござる! おとんの成長!」

 近くにいたアラブの口から、ぽーんと歯ブラシが飛んでいった。

「いや、ちょ……」

 と突っ込みたいことを突っ込めないでいるうちに、国王から号令が掛かった。

「よーし、行くぞー」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

処理中です...