八百年生きた俺が十代の女に恋をするのはやはり罪ですか?

松岡夜空

文字の大きさ
42 / 83
魔王

衝突

しおりを挟む
 梢に月がかかっていた。雨の後の、澄み切った月。それに被さるようにして、獣となった俺は跳躍した。
 

 木々の隙間を縫い、森を突っ切る。眠っていた動物らが起きだして俺を見る。崖。眼下に鬱蒼とした森が広がっている。躊躇なく飛び出した。
 

 大小の枝が身体に突き刺さる。地面に足がつく。また駆け出した。
 

 泥濘。沼地。川。また泥濘。
 

 駆けに駆けて、駆け抜いた。木と木の隙間。針の穴を通すような隙間から、一人の男と、目が合った。
 

 男が目を見開く。瞬間。男の目の前で、泥濘の地面が、爆散したように飛び散った。
 

 唸り声を上げながら、野営していた敵を見据える。黒装束を纏った相手が十数人。パミュもいる。パミュは布で雁字搦めにされて転がされていた。布というより、呪で縛られているといった感じか……。
 

 取り込んでいた魔力を、死界へと回帰させる。化物と化していた俺の身体が、元の人間のものに戻っていく。
 

 四脚から二足に戻り、立ち上がった。
 眼前の敵とパミュ。
 改めて見据えた。
 パミュまでの距離は約十二メートル。飛脚法を使えば二歩で詰められる。だがこいつら――
 

 強いな。
 

 戦歴八百年のこの俺が。
 パミュを助けに来たはずのこの俺が。
 思わず顔を俯けそうになる。
 それほどまでの、手練れ揃い。
 

 パチパチパチパチ……。
 

 拍手。
 先に俺と目が合った男だ。
 恐らくこいつがリーダーだろう。
 こいつが一番の手練れという感じはしない。
 しかし、全員がこいつの背中を見ている。
 そんな気がした。


「よくたどり着いたな。ここまで。たった一人で」


 敵兵は全員、口元に布を巻いていた。この男も例に漏れない。だから発した言葉はくぐもっていた。


「まあ満身創痍のようだがな。どうしてここがわかった。馬車では通れない道を、あえて選んできたはずなんだけどな」


 呼吸がままならなかった。
 百キロ近く疾駆してここにいるんだから当然と言えば当然だが、それ以上に俺は、全盛期の頃から体力がなかった。
 

 武闘派じゃねぇからな、俺は。今も昔も、体術だけなら四百人の素人を相手にしてもバテちまう。


「ふっ。いつまでも待っているのもバカらしい。殺しとくか?」


 男が片手を上げる。
 

 そんな宣告を受けても、俺の息切れは止まらなかった。


 ――別にそれでいいと思っていた。


 俺は魔術師なのだから。
 守りたいものは、自分含めて存在しなかった。
 仲間はできても、そいつらは全員、守るまでもなく強かった。


 しかし。


 今この一時に限って言えば――


 息切れしながら、正面を見る。
 正面には囚われの身となったパミュと手勢。


 俺の隣には――誰もいない。


 俺は大きく息を吐いた。肺の中を空にする。肺の中を空にすると、口を開けただけで、肺に空気が入ってくる。
 

 吸い込めるだけ吸い込んでから、俺は言葉を発した。


「どうしても何もない。エルメルリアの地理と南尾の事情考えたら明白だろ。南尾の虐殺、紅の三夜行は記憶に新しいからな。それを引き起こした魔王の娘を匿えるのは、北のソラリスか、戦場となったテンゼンぐらいしかない。つまり、エルメルリアの位置的に北上以外に道はないということだ。お前らの素性もな」
「方角は確かにそうだろうな。だが、位置はどうやってつかんだ?」
「悪意を読めばわかる」
「悪意は消していた」
「意外と盲点でな。悪意ってのは本来どこにでもあるものだから、悪意を遮断してしまうと、その場所にだけポッカリと穴ができる。生き物の巣窟である森の中なら尚更だ。俺が悪意を森一体に飛ばした時、この場所にいる獣だけ、何の反応も示さなかった。だからわか――」


 パチン!


「竜門開門。蛇竜招来」


 柏手を打ち、手を振り抜く。
 

 手には大ぶりの剣。切り裂いたのは虚空。暗夜。だというのに、確かに何かを断ち割った感触が、掌から二の腕にまで響いた。
 

 息を乱しながら、両脇を見た。胴体を失った死体が二つ。ゴトリと倒れた。先程までは確かにいなかった、否、見えなかった死体だった。
 

 こいつら……っ。


「ほー。満身創痍と思いきや、やるじゃないか。だが――」


 瞬間。
 木々の上から、嘘のように兵隊が現れた。

 
「こうしたら、どうでるね」


 息を切らしながら、俺は周囲に目を配る。


 一、二、三、四、五、六、七、八、九――


 これは――まずい!!


 数もさることながら、その強さ!!
 こいつら一人一人が、ピシャスと互角かそれ以上!!


 止めれるか!!


 今の、全盛期を過ぎた、今の俺で――!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...