八百年生きた俺が十代の女に恋をするのはやはり罪ですか?

松岡夜空

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魔王

十狼刀決死組

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 刹那。


 ギョロついた目。黒い頭。突き出された肩。振りかぶられた白刃。
 それ以外、見えるものがない。


 速い。だがそれ以上に気配がない。

 
 反射的に剣を振りかぶるも、振り下ろす暇を、相手は許してはくれなかった。

 
 脇腹、額、二の腕、首筋、太腿、足首。
 

 あらゆるカ所の肉がすっ飛ばされ、血をばらまく。
 

 ガクガクと足が揺れて、膝をついた。手もつく。バサリと、ポニテにしていた白髪が落ちる。額も割られていた。目に血が入り込む。すぐ目元の血をぬぐい、顔を上げた。
 

 第二陣。風を足場で反発させ翔ぶ歩法、飛脚法を用いて、五方向からくる致死の斬撃。俺は伸び上がるようにして、背中の斬撃に合わせ、剣を振り抜いた。
 

 折れた切っ先が空を舞う。しかし肉までは裂けてない。


 振り返る。前方。振りかぶられ、向かってくる斬撃。俺はあえて間合いを詰め、柄の部分で一撃を受けた。同時に敵兵の胸倉をつかんで左手に放る。放りながら旋回し、右手を刃を薙ぐ。薙いだ先には、誰もいない。
 

 しかしすぐに現れた。どうやら頭を下げてかわしたらしい。短刀。突き出してくる。
 俺は短刀の刺突を喰らう前に、相手の手首をつかみ、引き寄せた。半歩横に下がりながら、膝を相手の水月に入れる。だがそれは、相手が上げた膝によって止められる。


 舌打ちしながらつかんでいた手首を離し、敵兵の胸元に肘を入れた。敵兵はそれを十字ブロックで止め、一歩二歩と下がる。


 追撃をかけようとした瞬間、気配を感じた。頭上。顔を上げるより早く、俺は半歩下がっていた。地面。縦一文字の穴が穿たれた。頭上から降ってきた兵隊による斬撃。舌打ちしながら俺は更に後方に下がった。


 バウンドするボールのように、俺に追撃をかけてくる敵兵。俺は剣を振りかぶって待ち受けた。


 ふと。


 敵兵が、地面に深々と剣を突き刺し、動きを止めた。
 柄を蹴り上げ、跳躍する。
 頭上は、見れなかった。
 何故なら。

 
 目前で、魔力の閃光がほとばしっていたからだ。
 

 身をよじる。
 肩。
 撃ち抜かれる。
 焼ける感覚。
 血が肩口から広がっていく。
 

 頭上には、逆手で剣を持って、襲いくる敵兵。正面には、新しい魔力の弓を番える弓手。周囲にも――
 

 敵、敵、敵、敵、敵、敵……。


 ザクン!!
 

 空中から襲ってきた敵兵の、足がもがれた。俺が振り抜いた剣の先には、血で作った刀剣が伸びている。
 

 接手式魔力誘導。接手式には、魔術共鳴は必要ない。
 

 飛んでくる魔力の矢を、体捌きで避けた。剣を振るう。伸びていた鮮血が、周囲に棘の網を張ったが、畳みかけていた兵隊は、揃って木の上に退避していた。足をぶった切られた兵隊までが、木の上に退避して、俺を見下ろしている。


「下がった方がいいんじゃないの? ジィさん。俺はいらないぜ」
「士道に背くことは重罪。士道に背くことを促すのもまた重罪。いかに副長とはいえ二度目はないぞ、若造が」


 頭巾と口元に巻いていた布を使って、斬られた太腿を縛っていた。老兵だった。
 

 副長と呼ばれた男はそれに対して返事をせず、アゴを持ち上げて俺を見下ろす。


 やはり手強い。
 一人一人が精鋭だ。
 正攻法でパミュを救い出すという考えは絶対に捨てた方がいい。
 

 問題はパミュだ。パミュが奴らの手元にある以上、どれだけ押し込んでも、最後に生殺の二択を迫られたら意味がない。
 

 この状況でパミュを救い出そうと思ったら、極大呪文しかない。生殺の二択を迫られる前に、全員を一撃のもとに沈める。これがパミュを救ける唯一無二の方法。だが。


 今の俺には、魔力量がない。
 時間がない。
 何より、パミュと敵の位置が、近すぎ――


 副長と呼ばれた男。
 音も立てず陰も残さず消えていた。


 剣。持ち上げる。目に見えぬ何かを、柄の部分で受け止めた。


 カチカチと、柄と刃が噛み合う音が響く。時折視界に刃のようなものがチラつくが、正面にはやはり、『誰もいない』のだった。


 衝撃で、泥濘となった地面が沈みながら盛り上がる。実態がないから陽炎というわけでは決してない。大人を三人まとめて両断できるほど重く、何より疾風のごとく速い。
 

 片足を上げた。片足のあった部分を剣が通り抜けていく。舞うようにして剣を振るい、俺は周囲の敵兵を下がらせながら後退した。
 

 木を背中につけて、正眼に構えた。頭上。葉と小枝。そして、紅い髪を後ろ手に束ねた、恐らく女。降ってきた。
 

 跳躍して、間を開く。
 

 身を低くした女が、剣を蛇のように揺らしながら襲ってくる。全てフェイクだ。こんなもので人は斬れない。しかし本当の一撃を一つでも見誤ったら、俺の四肢か首、いずれかが飛ぶことになる。
 

 女が剣を振りかぶる。横薙ぎ。と見せかけて、刺突。三発。全て体を動かし回避した。続く横薙ぎも、体を下げてかわす。
 

 瞬間女が消えたように、俺には見えた。バランス。崩れた。女は、身体を沈めて、回転下段蹴りを、俺の足首に放ってきた。バク宙し、足を地面につける。
 

 目の前に飛んでくる泥のつぶて。手で弾く。ナイフ。剣を離して、両手で挟むようにして止める。
 

 瞬間。
 

 四囲に剣を振りかぶった敵兵がいた。
 俺の両手は塞がっている。剣先は地。俺は周囲の風を操った。
 

 風蛇。
 

 風に魔力の縄をかけ、暴れさせる魔術。俺はそれを、自分の周囲と、敵兵の足元にかけた。
 

 飛来してきた敵兵が、一様にバランスを崩している。飛沫する鮮血。俺は地面に突き刺さっている剣を手に取って、振りかぶった。だが。
 

 咄嗟に頭を後ろにやった。頭の延長線上にあった二の腕から、血の噴水が上がっている。
 

 この弓野郎(クソチビ)……さっきからっ。
 

 血の流れに沿うように、落ちゆく剣。地面につく前に、もう一方の手でつかんで、振るった。相手の腹を裂き、首を落とす。
 

 横手から突っ込んでくる敵兵の刺突に対しては、死体を押し付け、死体ごと、相手を剣で貫こうとして――背中を斬られた。振り返ると、そこには誰もいなかった。
 

 反射的に、首筋を二の腕で庇った。俺の身体が大きく後退した。二の腕から血をばら撒きながらだ。痛みに顔をしかめながら、正面を見る。そこには、剣を持った男が一人。しかし、手に持った何かを振るうと、まるで幻だったかのように、その場から姿を消した。
 

 盾のかわりに特殊な魔布を片手に持ち、姿を隠しながらのヒットアンドアウェイ。東尾の雪国、ゼーレの十狼刀決死組が使う、透遁暗殺術だ。
 

 どうりで魔装からの先読みが上手くいかないはずだ。黒幕はソラリスではなく、東尾か!
 

 風の炸裂音。連続して響いた。これは、飛脚法。向かってきているんじゃない。全員が俺から離れているんだ。
 

 振り返る。
 

 男が、剣を胸の前で寝かせている。広げられた両手は、剣先と柄にあてがわれるように広げられているが、触れてはいなかった。
 

 男が、俺の視線に気がつき、目元だけで笑う。
 

 舌打ちして、俺もその場から退避しようとして――


 ザクリ。


 足の甲。当たり前のように、異物が貫く。あまりの痛みに歯が浮いた。
 

 目下。
 半ばずり落ちた魔布を被った、黄赤の髪の男が、俺の足の甲を短刀で刺していた。
 唇を噛みしめる。


 正面。
 

 男が広げた両手の中に、剣はなかった。代わりに銀の粒子が、死後の世界を連想させるほど美しく瞬いている。
 男がそれを、顕現させた弓に番え、引き絞る。
 

 今一度目下。見つめる。


 白刃が縦一文字に迫ってくる。
 狙いは股下。
 俺は掌を剣の柄にあてがい、耳の横で構えた。
 突き下ろす。
 竜頭蛇尾と男の白刃が交錯した。


 ジャリン!!


 相手の剣の鍔が吹っ飛ぶ。
 小指と薬指が、血と一緒に空を舞う。
 

 だが。
 

 敵兵は、見事としか言いようがない動きで、胸元に迫った刃を回避していた。
 

 地面についた手を支柱に旋回し、その場から退避する敵兵。
 

 と、同時に、足を引っぱられた。
 

 鎖付き短刀。よりによって刺されたのはこれか。


 崩れるバランス。正面から向かってくる銀の散弾。


 まずい、いや違う。


 ここが勝負どころか!!

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