八百年生きた俺が十代の女に恋をするのはやはり罪ですか?

松岡夜空

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誰がための呪

開いた扉の先

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 王都グインシー。日が昇ることがない、常闇の都。空から降り続けている金色の粒子は、この街を囲う魔王クジャの魔力が、陽光に焼かれ剥がれ落ちた、神意の塊だとされている。


「ちょっと待ちなさいよ!! あんた、謁見の間の場所知ってて進んでいるわけ!?」


 背中でセイレーンが声をかけてくる。
 俺は無視して、先先と進んだ。
 

 場所? 
 んなもん、トーシロでもわかるぜ。
 これだけバカでかい魔力を、隠す気もなく放ってりゃな……。


 城の中を早足で進んだ先。
 大仰な扉が見えた。
 その扉を二人の男が固めている。
 随分と似ている。双子だろうか? 


 二人の視線と俺の視線。
 交わった。


 人格を見抜くとき、相手の目と仕草を見るというのは常識だが、魔術師がそれ以上に見るのは、魔装と瞳の色である。


 魔力量は深緑の五位。魔力量こそ低いが双方できる。しかしティアラナほどじゃない。当然俺ほどでもない。
 一流よりいくらか上。それがわかった段階的で、俺の興味はこいつからから失せた。


 無視して扉の取っ手に手をかける。
 

 否。


 かけようとして、目を見開く。


 手。動く。三人の。


「ほぉ」「へぇ」


 二人が声を揃える。


 計四本の手が、真下に折りていた。


 鋭利な刃物を袖口から伸ばす、双子の手が、俺の手に握りしめられて、おこりのように震えている。


 暗器。ではない。


 この刃物は、身体から直接伸びているものだ。
 サザーランド言うところの、蟲人(レイブン)
 モデルはカマキリだろう


 双子が俺の拘束を解くために、捻るように力を込め、俺がそれを抑え込むために、握りつぶさんばかりに、力を込める。


 黄金の瞳と蒼穹の瞳。
 混じり合った。
 双方練魔で魔力量を上げている。
 

 一流の魔術師の腕力は、そのまま魔力量に直結するからだ。


「どういうつもりだ? 俺は呪を語りにきただけだぞ? それともあいつの言う呪を語るってのは、文字通り呪を用いて殺し合うって意味なのか?」
 

 震える腕とは違って、鉄筋を通したように声音を固くし、問いかける。
 

「「クックック」」


 二人の男が笑い合った。
 笑い方まで瓜二つだ。


 瞬間。


 二人の男が、神速で鎌を袖の中にしまう。手首を握っていると逆に手を斬られかねなかったので、俺は即座に手を離した。


 二人の男が、示し合わせたように、同時に後ろで手を組んだ。


「噂に違わぬ狂犬っぷり。誰彼構わず噛みつく」
「鏡見てから言え」
「噛み付いた相手がゼーレの十狼刀決死組でよかったな、ビュウ=フェナリス。お前のような魔術師は、本来なら誰にも好かれず、生まれた意味すら知らず、ひたすら惨めに死んでいくもんだ。それとも決死組の一刀をへし折るところまでが、お前、いや、お前らの仕込みってオチなんじゃないのか? ハルモニカをたらしこみ、南尾の内部にまで入り込むための――」
「テーディー!!」


 その時。
 廊下を駆けてくる足音。
 秒速で大きくなっていく。
 俺が見た時、セイレーンは腰を捻りながら跳躍していた。


 双子? の片割れが、セイレーンに顎を蹴り上げられ、そのまま馬乗りにされた。

 
「何しやがるセレン!!」
「あんたが人の悪口を言うからよ!! だーれが噛みつくしか能のない狂犬ですってー!!」
「お前に言ったんじゃねぇ!! ってか俺が言ったんでもねぇ!! ディディだそれを言ったのは!!」
「いやテディが言ってましたよ。こいつはすぐ嘘つくんでほんと、はい。困ってます、お兄ちゃんは。いつもいつも」
「あ、てめ――あ!!」


 心底どうでもいい掛け合いなので、俺は勝手に大扉の取っ手を真下に下ろした。


「待て、ビュウ=フェナリス!!」


 セイレーンに馬乗りにされている男、テディが言った。


「何だ?」


 やや嘲笑交じりに俺は尋ねた。絵面があまりにもひどかったからだ。ついでに言えば実力も。
 

 俺なら、足を振り回したその瞬間に殺してる。


「クジャ国王陛下はあんたを狙っている」
「ほー」
「言っとくが、命じゃないぞ。才能だ。あの人は、無類の才能好きなんだ。才能を見る。ただそれだけのために、村一つ滅ぼしてもいいと思っている。それがあの人だ」
「さっきから思ってたが、結局何が言いたい」


「「簡単に屈してくれるな」」


「え……?」


 俺に声を重ねられ、テディが目を見開く。


 見鬼。


 お互いに発動していた。
 俺は鼻で笑って、視線を外した。


「マザコンもほどほどにしとけよ。逆にひかれるぞ」
「ななな」


 テディの呂律が回っていない。図星なのはわかっていた。予測したんじゃない。


 見て、口に出したのだから。


 俺は下げた取っ手を前に押し出し、扉を開いた。


 隣にティアラナがいた。ふと見つめる。ティアラナが、紫暗の瞳を俺に向けてきた。俺はティアラナに、好きな女に、今の、気が立っている自分を見られたくなくて、プイと、目を逸らした。


 全ての関係が終わってもいい。
 密かに思っていた。


 それでも、俺は、あいつを……。


『俗物の声は聞くに及ばず。俗物の醜態は見るに堪えぬ』
『俗物の目と耳を借りていては、真贋見極めること能わぬ』

 
 あの野郎……っ。
 よくもよくも、俺の大事な者を、貶めてくれてな……っ。


 重苦しい音を立て、扉が閉まる。


 セイレーンはどこにもいなかった。どうやら門前で弾かれたようだ。


 目の前に深紅の絨毯が敷かれている。兵はいない。十数メートル先に玉座があった。王が楽に見下ろせるよう、下々が楽に見上げられるよう、玉座の前には数段の階段が作られている。

 
 玉座の両脇には三名控えていた。左手に一人。右手に二人。 

 
 一人は馬子にも衣装で、ドレスに身を包んだパミュ。一人はフェルナンテ。恐らく名高い近衛のリズだろう。モデルはマリオンと同じ狼である。


 もう一人もフェルナンテだったが、こいつは症状が激しいのか、顔や手足が、文字通りの毛物(けもの)になっていた。モデルは兎。ただし漆黒の。


 こいつも世界的に有名な文官だ。軍人時代のクジャの命に唯一迫り、魔王クジャの軍門に下った後は、ソラリスを調略をもって一夜で落とし、南尾統一のための一翼を担った、死延の魔術師、わかりやすく言えば宰相、タオ。
 そして、二人の怪物(けもの)を従え、玉座についている女が、魔王クジャ。魔王クジャに謁見を許された魔術師の、誰しもが思うと言われている言葉があった。

 
 これほどのものか、である。


 何をバカなと俺は思っていた。
 所詮は凡人の感想だ。
 今の俺は超人である。


 十二位の魔力量は、ただそれだけで人類と画する。
 神に祭り上げる者も多く、虹玉暦(とうじ)の暗黒教団もそうだった。
 

 言ってしまえばチートで、その目を持って生まれただけで、全てを滅ぼす権利を得る。


 凡人から見れば確かに脅威だ。
 しかし俺から見れば、力に振り回されているだけの滑稽なピエロだ。
 ただの魔眼所持者なら、当時の暗黒教団皇帝レベルに留まっているなら、今の俺一人でも確実に殺れる。


 加えて俺の気も立っている。
 今は全てを否定したい気分だった。 

 
 そんな俺ですら、思わせる。
 ハッキリ言って、怒りすら忘れて瞠目した。


 まさか――


 これほどのものとは……っ。
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