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第一章 愛しの姫君
第一話 出会い(ケイン編)
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人間の子供を拾った。
拾うつもりなんかさらさらなかったんだが……すがるような目でみられて何となく連れてきちまった。森の中をいつものように散歩していた時の事だ。ビービー泣いてる小汚い袋が転がってて、興味本位でつついてみたのが運の尽き。
小汚い袋は人間の子供だった。
年は四、五才といったところだろうか、服も髪も薄汚れてて、それが体を丸めていたのでずた袋のように見えたのである。顔も薄汚れていて男か女かもよく分からなかったが、大きな青い瞳だけは綺麗で気に入った。
俺を見て驚いたのかぴたりと泣き止み、こぼれ落ちんばかりに目を見開く。敵か味方かはかりかねているらしい。
まぁ、人間を取って食おうなどという気はない。持っていた菓子をくれてやった。時折、町に行って買い出しをする時に、気の良い店のおばちゃんがおまけしてくれたやつだ。俺の正体を知らなければ、大概は上手くやっていける。
見た目はかなりの大男なので最初はびびられることが多いが、危害を加えなければそうそう喧嘩にもならない。こんな風に親切にしてくれる連中も結構出てくる。大酒をかっくらって、ついつい本性をだしちまった時は大騒ぎになったが、あの町はとっとと逃げ出した。今はおおむね平和である。
小汚い子供はおずおずと手を伸ばし、菓子の甘いにおいにつられて一口ぱくり。腹が減っていたのかあっというまに食い尽くした。警戒心が薄れたか、もっと欲しいとねだってくる。結構意地汚いな。他に何かあったっけ?
ポケットをまさぐっても何もない。困った。
子供の期待するような目が地味にきつい。
「俺の家に来るか?」
子供の顔がぱあっと輝いた。
そうか、嬉しいか。
俺が立ち上がって歩き出せば、俺の後をとことこと付いて歩く。かなりゆっくり歩いているつもりなのだが、どんどん引き離されていくので正直困った。非力で小さい生き物をどうしたものかとじっと眺め、ひょいっとつまみ上げる。
俺は子供を肩車し、森を疾駆した。
この方がいいだろうと考えたのだが、正解だったようだ。子供は大喜びし、「早い! 早い! お兄さん、凄い!」と言ってはしゃぐので、つい調子に乗ってしまった気がする。飛ぶように駆け抜け、自分の住処である丸太小屋の周囲を三周もしてしまった。
小屋に入れば、そこには木製のテーブルと椅子があり、奥の部屋にはちゃんとベッドもある。俺が乗って転がっても壊れない頑丈な奴だ。
俺は子供を椅子に座らせ、暖炉の薪に触れて火をつけた。作るのは自分の好物であるキノコのスープだ。これしか作れない、ともいう。
「火……」
「うん?」
見ると子供が不思議そうな顔をして、こちらをじっと眺めていた。
「火がボッて……どうやったの?」
子供の目は暖炉に釘付けだ。ああ、そうか。魔術師でもないかぎりこんな風に火をつける奴はいなかったんだっけ。一人暮らしが長かったからついうっかりしていた。
「魔法具を使ったんだ」
とりあえず適当な事を口にする。
ソフィの食堂でも確か発火魔石を使っていたはずだから問題あるまい。行商人から値切りに値切って買ったらしいが、それでも高かったんだと周囲に自慢して回っていたっけ。火をつけるのにとても便利らしい。
「魔法具……じゃあ、お兄さん、魔法使いなの?」
「違う」
俺は即座に否定した。あんなものに間違われるのはたまらない。
できあがったキノコのスープを子供の前に置けば、子供は何故か食べようとしない。俺の顔色をうかがうようにじっと見つめている。
食わないのか? と問えばぽつりと言う。
「もしかして怒ってる?」
ああ、不機嫌なのが分かったのか。当たるつもりはなかったんだが……
「いや、気にしなくていい。さ、食べるんだ」
俺がすすめれば、子供は恐る恐る口をつけ、次いでがつがつと食べた。相当腹が減っていたようで、きっちりおかわりまでしてくれた。
食事を終え、椅子に座ったまま舟をこぎだした子供に向かって問う。
「名前は?」
「シーラ」
おっと、女の子だったか。どうせなら男の子の方が遊べて面白かったんだが……まぁ、いい。どうせ長居はしないだろう。
事情を聞くと旅の途中で盗賊に襲われて、命からがら逃げてきたと言う。両親が身を挺して助けてくれたらしい。両親の安否を聞いたが、シーラが青い目に涙を一杯ためたので、詳しく聞き出すのはやめておいた。
多分殺されたのだろう。明日、養い手を探してやるか。
となると……この身なりはまずいな。泥まみれの子供をしげしげと眺める。
いい養い手を探そうと思ったら清潔な方がいい。
俺は外へ出ると風呂に水をため、手を突っ込んで湯を沸かした。俺の手は熱した石のように熱く出来るので、水はすぐに湯へと変わる。
再び小屋の中に戻れば子供は既に寝かけていたが、そのままひょいっと担ぎ上げ、外へ出た。ずた袋のような服を引っぺがし、ぼちゃんと熱い湯の中に放り込む。
ごしごし洗って、へぇ……こりゃ意外。綺麗な子供だ。相当汚れていたんだな。湯は真っ黒になったが、子供はぴかぴかだ。金の髪にバラ色の頬。笑えば天使のように愛らしい。
こりゃ、もらい手が殺到しそうだ。
拾うつもりなんかさらさらなかったんだが……すがるような目でみられて何となく連れてきちまった。森の中をいつものように散歩していた時の事だ。ビービー泣いてる小汚い袋が転がってて、興味本位でつついてみたのが運の尽き。
小汚い袋は人間の子供だった。
年は四、五才といったところだろうか、服も髪も薄汚れてて、それが体を丸めていたのでずた袋のように見えたのである。顔も薄汚れていて男か女かもよく分からなかったが、大きな青い瞳だけは綺麗で気に入った。
俺を見て驚いたのかぴたりと泣き止み、こぼれ落ちんばかりに目を見開く。敵か味方かはかりかねているらしい。
まぁ、人間を取って食おうなどという気はない。持っていた菓子をくれてやった。時折、町に行って買い出しをする時に、気の良い店のおばちゃんがおまけしてくれたやつだ。俺の正体を知らなければ、大概は上手くやっていける。
見た目はかなりの大男なので最初はびびられることが多いが、危害を加えなければそうそう喧嘩にもならない。こんな風に親切にしてくれる連中も結構出てくる。大酒をかっくらって、ついつい本性をだしちまった時は大騒ぎになったが、あの町はとっとと逃げ出した。今はおおむね平和である。
小汚い子供はおずおずと手を伸ばし、菓子の甘いにおいにつられて一口ぱくり。腹が減っていたのかあっというまに食い尽くした。警戒心が薄れたか、もっと欲しいとねだってくる。結構意地汚いな。他に何かあったっけ?
ポケットをまさぐっても何もない。困った。
子供の期待するような目が地味にきつい。
「俺の家に来るか?」
子供の顔がぱあっと輝いた。
そうか、嬉しいか。
俺が立ち上がって歩き出せば、俺の後をとことこと付いて歩く。かなりゆっくり歩いているつもりなのだが、どんどん引き離されていくので正直困った。非力で小さい生き物をどうしたものかとじっと眺め、ひょいっとつまみ上げる。
俺は子供を肩車し、森を疾駆した。
この方がいいだろうと考えたのだが、正解だったようだ。子供は大喜びし、「早い! 早い! お兄さん、凄い!」と言ってはしゃぐので、つい調子に乗ってしまった気がする。飛ぶように駆け抜け、自分の住処である丸太小屋の周囲を三周もしてしまった。
小屋に入れば、そこには木製のテーブルと椅子があり、奥の部屋にはちゃんとベッドもある。俺が乗って転がっても壊れない頑丈な奴だ。
俺は子供を椅子に座らせ、暖炉の薪に触れて火をつけた。作るのは自分の好物であるキノコのスープだ。これしか作れない、ともいう。
「火……」
「うん?」
見ると子供が不思議そうな顔をして、こちらをじっと眺めていた。
「火がボッて……どうやったの?」
子供の目は暖炉に釘付けだ。ああ、そうか。魔術師でもないかぎりこんな風に火をつける奴はいなかったんだっけ。一人暮らしが長かったからついうっかりしていた。
「魔法具を使ったんだ」
とりあえず適当な事を口にする。
ソフィの食堂でも確か発火魔石を使っていたはずだから問題あるまい。行商人から値切りに値切って買ったらしいが、それでも高かったんだと周囲に自慢して回っていたっけ。火をつけるのにとても便利らしい。
「魔法具……じゃあ、お兄さん、魔法使いなの?」
「違う」
俺は即座に否定した。あんなものに間違われるのはたまらない。
できあがったキノコのスープを子供の前に置けば、子供は何故か食べようとしない。俺の顔色をうかがうようにじっと見つめている。
食わないのか? と問えばぽつりと言う。
「もしかして怒ってる?」
ああ、不機嫌なのが分かったのか。当たるつもりはなかったんだが……
「いや、気にしなくていい。さ、食べるんだ」
俺がすすめれば、子供は恐る恐る口をつけ、次いでがつがつと食べた。相当腹が減っていたようで、きっちりおかわりまでしてくれた。
食事を終え、椅子に座ったまま舟をこぎだした子供に向かって問う。
「名前は?」
「シーラ」
おっと、女の子だったか。どうせなら男の子の方が遊べて面白かったんだが……まぁ、いい。どうせ長居はしないだろう。
事情を聞くと旅の途中で盗賊に襲われて、命からがら逃げてきたと言う。両親が身を挺して助けてくれたらしい。両親の安否を聞いたが、シーラが青い目に涙を一杯ためたので、詳しく聞き出すのはやめておいた。
多分殺されたのだろう。明日、養い手を探してやるか。
となると……この身なりはまずいな。泥まみれの子供をしげしげと眺める。
いい養い手を探そうと思ったら清潔な方がいい。
俺は外へ出ると風呂に水をため、手を突っ込んで湯を沸かした。俺の手は熱した石のように熱く出来るので、水はすぐに湯へと変わる。
再び小屋の中に戻れば子供は既に寝かけていたが、そのままひょいっと担ぎ上げ、外へ出た。ずた袋のような服を引っぺがし、ぼちゃんと熱い湯の中に放り込む。
ごしごし洗って、へぇ……こりゃ意外。綺麗な子供だ。相当汚れていたんだな。湯は真っ黒になったが、子供はぴかぴかだ。金の髪にバラ色の頬。笑えば天使のように愛らしい。
こりゃ、もらい手が殺到しそうだ。
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