やさしい竜と金の姫

白乃いちじく

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第一章 愛しの姫君

第二話 気が付けば大人(ケイン編)

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 翌日、煉瓦の家が立ち並ぶ町並みをずんずん歩けば、注目の的だ。いつもは別の意味で注目を浴びる。むさ苦しい大男という意味で人目を引くのだが、今回は別だ。愛くるしい子供の姿に誰もが興味を示す。
 さっそく酒飲み仲間の一人が俺を見つけ、興味津々近づいてきた。シーラの愛らしい顔を覗き込み、にんまりと笑う。

「ケイン、その子供はどうした? お前さんの子か?」

 ジムはやせっぽちで体重など俺の半分以下だろう、にやにやと笑う顔にしまりはない。まさか、と俺は笑って答えた。

「違う。森で拾ったんだ。養い手を探してる。子供が欲しい奴らを集めてくれ」

 よしきたとジムは安請け合いし、町の中心にある広場に大勢の人間が集まった。そこには立派な教会もある。たくさんの人間に取り囲まれて、シーラはさあっと俺の後ろに隠れた。どうやら人見知りをするタイプらしい。

 町の食堂を切り盛りしているソフィが、人の良い丸顔をほころばせた。
 恰幅のいい中年女性で、とかく威勢が良い。酔った大の男も彼女の手にかかれば形無しだ。世話好きで近所の子供達をたいそう可愛がっていたが、自分の子供はまだいない。

「まぁ、まぁ、何て可愛らしい……」

 シーラを見るソフィの目が、とろけるように甘い。
 俺はそうした周囲の反応を喜んだが、予想外の出来事に頭を抱えた。引き取り手があまたで、逆に中々話がまとまらないのだ。こういった事態は考えていなかった。シーラの両親が盗賊に殺されたという話は同情を引き、彼女の可憐な容姿と相まって、俺が、いやわたしがと引っ張り合う始末である。

 結局、その場を収めたのはソフィだった。
 彼女がシーラを一時的に預かることになり、俺はほっと胸をなで下ろす。まぁ、これが一番妥当だろう、そう思ったが、シーラをいざ手放す段階になって、不思議な感情がわき上がる。シーラの何とも心細そうな表情に胸をつかれたのだ。けれど、この俺がソフィ以上の養い親になれるはずもない。
 俺は自分の胸にわき上がった感情にあえてふたをし、

「ソフィがお前の面倒を見てくれる。俺のとこよりずっといい」

 そう言って彼女を手放した。そう、俺の所よりはずっと良いはずだ、そう自分に言い聞かせて……
 問題が勃発したのはそのわずか数日後だ。
 シーラが人買いにさらわれたと聞かされ、俺は肝を冷やす羽目となる。広場で見せびらかしたのがまずかったようで、ソフィが泣きながら俺の所へ駆け込んできたのだ。

「ケイン! 助けておくれ! あの子が、あの子が……」

 話を聞き、舌打ちが漏れる。
 町中でほんの少し目を離した隙にさらわれたらしい。
 人間というのは本当に厄介だ。同種族を売り買いするのは人間だけだ。俺達は他の者が生んだ子供でも大事にする。ぽこぽこ子供を産める人間とは違い、俺達は滅多に子供を授からない。まさしく子供は宝なのである。

 泣き崩れるソフィを家に帰し、俺は人買いが集まる場所に単身乗り込んだ。
 言うまでも無く全員ぼこぼこだ。シーラが檻に入れられている様を見て、さらに蹴りを追加した。この扱いは酷い。なんちゅう無体な真似を。
 泣きべそをかいていたシーラは俺を目にするなり、顔を輝かせて飛びついてきた。抱き上げてやれば、天使の笑顔だ。人さらい達にはもう二度とやりませんと土下座させたが、信用など出来るものか。

 結局、シーラは俺の家に置くことになった。俺の家には人さらいどころか、熊も狼も近寄らない。で、毎日キノコのスープを食べさせていたら、ソフィに叱られてしまった。栄養失調になると小言を言われ、仕方なくソフィが経営する料理屋で料理を習うことにする。
 数年もたつと、あっという間にシーラが俺の腕前を追い越してしまったが。

「はい、ケイン。たくさん食べてね」

 輝くばかりのシーラの笑顔に、俺は目を細めた。
 十数年も経つとシーラはすっかり女らしくなり、こうして家事全般を引き受けてくれるようになった。実にありがたい。
 うん、うまい。そう言えば、シーラが嬉しそうに笑う。
 美しく成長した彼女には求婚者が殺到していた。無論、全員追い返していたが……。親バカと言われても構わない。シーラは俺の娘も同然だ。滅多な男に渡すものかと思う。

 第一、どいつもこいつも彼女の本当の良さを分かっていない。
 俺と一緒になって森を駆け回る彼女は本当に素晴らしく、妖精のようなのだ。はしゃいだり笑ったり、ころころ変わる表情もまた愛らしい。そんな彼女を見て、はしたないと言う方がどうかしている。こんなにも美しい生き物はいないのに、と俺は思う。

 そもそも町で見かける女達はどれもこれも面白味がない。つんとすまして着飾り、おほほあははと笑う。何が楽しいのかこっちにはさっぱりだ。
 まぁ、俺が近寄れば大概は嫌な顔をされるので、お互い様かも知れないが。
 気っ風のいい中年女性には好かれるが、おしとやかな年頃の女性には嫌われる。そういう質らしいので、こればかりはどうしようもない。

「ケイン、あんた結婚はしないのかい?」

 ある時、世話好きのソフィがそんな事を言うも、結婚は相手がいなければどうしようもない。同種族は既に絶えているので結婚など夢の又夢だ。俺が最後の生き残り……そう考えると、何だか寂しい気持ちに襲われる。
 俺が死ねば俺の種族はきっと伝説になるんだろうな……。架空の生き物として扱われ、本当に存在したかどうかも危ぶまれるようになる。

 青空の眩しさに目を細めた。
 あの大空を飛んだのはいつ以来だったろうか……。
 ぼんやりしていると、ソフィが疑わしそうに俺の顔を覗き込んでくる。

「まさかあんた、シーラちゃんを狙ってるんじゃないだろうね?」

 流石にそれはありえない。俺は苦笑する。

「シーラが相手にしないよ」

 俺だって人間の女からどう見られているかくらいは分かる。色男ではないのは確実だ。何より種族が違うから……はて、奇跡が起こっても、子供なんか出来るのか? 人間と交わった奴なんか聞いたことがないから分からない。
 この姿は仮初めのものだ。ずっと一人でいることが寂しくて、人里に出る為にこんな風に姿形を変えた。だから、子供は無理だろう。出来たら嬉しいが……

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