やさしい竜と金の姫

白乃いちじく

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第二章 私の騎士様

第二話 私の好きな人(シーラ編)

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 翌日、町中に連れ出され、ソフィが服を見立ててくれた。こうしていると、パパやママを思い出す。別荘に行く前の日もこんな感じだったのだ。またまた泣きそうになっていると、誰かに声をかけられた。振り向けば、やっぱり知らない男の人。

 でも、あまり感じは良くない。
 いきなり口を塞がれて……気がついたら、冷たい檻の中にいた。部屋には数人の男の人がたむろしていて、こちらを眺め、にやにや笑う。怖くて、心細くて、めそめそと泣いていると、部屋の外から争う音がして……ばんっと扉が開き、目を見開いた。

 ケインだ!
 わたしはぱっと顔を輝かせた。部屋の中にいた男の人達は全員ケインに殴られて、のびてしまった。檻の中からケインに助け出されて、抱き上げられたわたしは、喜んで彼の首っ玉にかじりつく。怖い思いをしたけれど、良いことが一つだけあった。ケインと一緒に住めることになったのだ。

 丸太小屋での生活は文句なしに楽しかった。
 大きな手が料理する様を眺め、洗濯する橫で遊び、一緒に掃除の真似事をしてみせる。わたしがやると何故か散らかるようだが、ケインはおおらかだ。一緒になって散らかしたりもする。
 こうしてみると本当にケインは優しい。最初、怖そうなどと思った事が嘘のようである。夜は大きなベッドに一緒に潜り込んだ。もちろん大きな熊さんにだっこされて。

 そうしていつしか、わたしは大人になっていた。今では自分の料理を美味しいと言ってくれる彼の顔を見るのが、何よりもの楽しみだ。
 今日は何を作ろうか……そんな事を考え、くすくすと笑う。
 買い物をするわたしの橫にアルバートが並んだ。彼は格好良くて女の子にもてたけれど、わたしは彼があまり好きではない。ケインの悪口ばかり言うからだ。

「楽しそうだな? 何かいいことでもあったか?」
「ええ、そうね。とっても楽しい事を考えていたのよ」

 野菜を買い、鼻歌交じりで店を後にすると、アルバートもついてくる。

「なぁ、この前言ったこと考えてくれたか?」
「プロポーズの件なら断ったはずよ?」
「どうしてだよ? まさか、お前、あんなむさい大男がいいって言うんじゃないだろうな? あんなのと一緒になったら、恥をかくのはお前だぞ?」
「どういう意味よ?」
「どう見たって変人だろうが? お前とは全然釣り合わないよ」

 わたしはまなじりをつり上げた。

「余計なお世話よ。それにね! ケインはちゃんとした格好をすれば、十分男前よ! あなただってびっくりしてたじゃないの!」

 アルバートが言葉に詰まる。
 そう、一度だけケインは正装をしたことがあるのだ。
 ぼさぼさ頭によれよれコート。それが定番の彼が、わたしの誕生会で正装してくれたのである。ソフィに小言を言われたのだろうが、誰もが驚いた。しかり飛ばしたソフィですら、あらまあと驚いたほどだ。

 身ぎれいにして、むさいという印象が拭い去られると、彼がもともと持っている精悍さが際立ち、整った目鼻立ちと相まって、かなり格好良かった。しかもあの体格である。目立ったことは言うまでもない。

「頭だって良いわ。あなたが読むのに苦心していた古い書物を、彼はすらすら読んでみせたじゃない。あれはどうしたの? あなたの方はもう読めるようになった?」
「う、うるさいな。あれくらいどうってことないよ」

 そう声高にいい、どうせまぐれだと小さく付け足す。

「あら、そう。だったらもう一度別の本で試してみたら? わたし、良く知ってるもの。彼、博識よ? びっくりするくらいだわ」
「俺のどこが気に入らないんだよ?」

 アルバートが地団駄を踏む。

「俺は絶対に諦めないからな!」

 捨て台詞までがうっとうしい。大体ケインが気に入らないのなら、正面から堂々とぶつかれば良いのだ。それが出来ずに裏でこそこそと悪口を言う。これで好かれると思う方がどうかしている。
 帰る道すがら、ソフィの言葉が耳に飛び込んで来て、どきっとなった。

「ケイン、あんた結婚はしないのかい?」

 ささっと物陰に隠れれば、ケインとソフィが立ち話をしている。
 結婚? まさかケインに誰か好きな相手でもいるのだろうか? 彼は何かを考えているようで、心ここにあらずといった風だ。

「まさかあんた、シーラちゃんを狙ってるんじゃないだろうね?」

 ソフィの台詞で、再び心臓が跳ね上がる。今度は喜びのそれだ。どきどきと心臓が期待に膨らむも、彼の一言でその思いは一気にしぼんだ。

「シーラが相手にしないよ」

 そんなはずないじゃない! 今度は自分が地団駄を踏む羽目となる。
 なんって鈍いんだろう……。そもそも好きでもない男に、毎日毎日料理を作って喜ぶ女がどこにいるのよ? 全然伝わってなかったんだ……

 がっくりすると同時に、他の疑念がわき上がる。やっぱり他に好きな人がいるのかもしれない。わたしはいつまで経っても、彼からは子供としてしか扱われないのだろうか? そしてある日彼が言うのだ。ほら、新しいママだよ……って、絶対嫌!
 首をぶんぶん橫にふる。

 第一、ケインをパパだなんて思ったことないもの! 熊さんだとは思ったけど……。
 急ぎ家に戻り、ケインを待ち伏せする。こうなったら逆プロポーズよ! 闘志に燃える心はひた隠し、極上の笑みを浮かべてみせる。

「ケイン、森へ行かない? とっても素敵な場所を見つけたの」

 そう、花畑だ。こういう場合はシチュエーションが大事である。自分が駆け出せば、ケインも楽々それについてくる。花畑に自分が転がれば、彼も同じように転がった。というより、その姿は大きな子供のようで、本当の笑みがこぼれ出る。
 花と戯れるケインをじっと眺めた。
 いろんな意味で不思議な人だなと思う。

 大人の度量を見せたかと思えば、こうして子供のようにはしゃいでみせる。とろいように見えて博識で、純粋でありながら人の醜さも知り抜いていて、若いようにも見えるし、年寄りのようにも見えてしまう。
 ケインの年っていくつなんだろう? ふとそんな事を考えた。

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