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第五章 コウノトリと受胎告知
第百八十七話 ペアのアクセサリー
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「ティナー、もう語学の授業終わったわよ、何して……んんっ?」
セレスティナの手元を覗き込んだのは銀髪美少女のシャーロットだ。双子の兄であるイザークは婚約者のジャネットを迎えに行っていて、既に教室から姿を消している。
「ティナが落書き? めっずらしーっと思ったら、もしかして魔道具の開発?」
ノートにびっしり描き込まれた魔道数式に頭痛がするとでもいいたげな表情だ。
「ん……結婚記念日が近い、から」
セレスティナがもじもじと恥じらい、シャーロットの美麗な顔がぱっと輝いた。
「そう言えばそうだったわね。で、初めての結婚記念日に魔道具をプレゼントするの? うふふ、いいんじゃない? パパ、きっとすっごく喜ぶわよ。で、これの効果は何?」
「呪力の封印よ。呪物の力を吸い取って無効化してくれるの」
「へえ? あ、もしかして例のミサンガも無効化出来る?」
セレスティナがこくんと頷く。
「ええ。ノーブス卿のように解呪できたらいいなって思ったのだけれど、存在する呪術の種類は千差万別で、残念ながらどの呪力にも有効な解呪魔法ってないのよね。だったら封印してしまうのはどうかしらって思ったの。ただし、呪力が強力になればなるほど吸いとるのに相応の魔力を必要とするから、使用者によって効果は変わってしまうけれど」
シャーロットがくすりと笑う。
「ふふっ、なら、底なしの魔力を持つパパが使えば無敵ね。凄いわ、ティナ! あ、そう言えば、パパも呪いの無効化……じゃなくて、呪い返しを作ってたわね」
「え……」
呪い返し?
なにやら物騒な言葉である。
セレスティナの動揺も知らぬげに、シャーロットが言った。
「ほら、例の事件の直後、研究室に籠もったことがあったでしょう? あの時開発したのが……確か倍返し、じゃなかった、十倍返しじゃなかったかしら?」
「十倍返し……」
シャーロットの言葉をセレスティナが繰り返す。
ミサンガの事件の後、確かにシリウスは研究室に丸々一週間籠もったわ。チラ見した魔工式は確かに反射作用があるもので……もしかして呪いの反射? しかも威力が十倍?
気もそぞろになったセレスティナにシャーロットがたたみかける。
「そう、呪いの効果が十倍になって術者に返るって奴。パパってば相変わらずやることエグいわ。ティナが呪われたのが相当腹立たしかったのね。開発中に漏らした『うふふふふふふふふふ』ってパパの悪巧み満載の笑いがそりゃあもう不気味で……」
ちょ、ちょっと待ってぇ!
「シャルお姉様、私が開発する魔道具を推進して、お願い! こっちの方が安全だし!」
シャーロットが目をパチパチさせる。
「まぁ、そうね。ティナの場合は呪術の無効化、だものね? んふふー、いい手があるわよ?」
そう言って妖艶な笑みを浮かべたシャーロットが提案したのは、今回開発した魔道具を、ペアのアクセサリーにするというものだ。
「ペ、ペアのアクセサリー?」
セレスティナの声が裏返る。
シャーロットが嬉々として言った。
「そうよう。ほら、ティナとペアのアクセなら、絶対パパは身に付けるでしょ? そ、れ、に、ティナも自分の身が守れて一石二鳥だし」
ペ、ペアのアクセサリーって……
セレスティナは恥じらった。
「さっきも言ったように、その、使用者の魔力によって効果は変わるの。私が身に付けても大した効果は期待出来な……」
「ああ、そこはいいから、いいから。ラブラブアピールが出来ればそれでいいんだもの。そうだ! 魔道具に使用する魔石は、お祖父様のところにもらいに行きましょう!」
「アルゴンさんのところへ?」
確かに、竜王国なら質のいい竜晶石が手に入りそうだけれど……
「そそ。竜王国ドルトランから竜晶石を直接ぶんど……げほっ! 貰ってくるのよ。わたくしがお祖父様からもらった竜晶石はめったに手に入らない希少品だったわよ?」
セレスティナの瞳が迷いに揺れる。
「……ご迷惑じゃないかしら?」
「まっさかぁ! 可愛い孫が遊びに行くんだから、逆に喜ぶわよ。前に顔を出した時だってそうだったでしょ?」
確かに大歓迎されたけれど、シャーロットの手料理で目を回したアルゴンを思い出し、セレスティナは苦笑いだ。顔を引きつらせながら美味しかったと言ってくれたけれど……
「『妖精のイタズラ』を使えばひとっ飛びでドルトランまで行けるわよ?」
セレスティナの顔がぱっと輝いた。
「連れて行ってくれるの?」
「もちろん、可愛い可愛い妹の為だもの。パパには内緒よね? うふふ、大丈夫、言わないわ」
口元に指を一本当てるシャーロットの仕草が可愛らしい、というより色っぽい。
「竜晶石が欲しいとな?」
そう答えたのは竜王アルゴンだ。竜王の間にいるので部下のドラゴンたちがずらりと並んでいるせいか、竜王らしい厳めしい顔つきを崩さない。
進み出たセレスティナがドレスをつまみ、淑女の礼をする。
「は、はい、お願いします。人間のお金には興味ないとお聞きしていますので、その、アルゴンさんが欲しい物と物々交換ということで如何でしょう?」
「ふーむ? 人間が所有する物で欲しいものなんぞ……」
ないなぁと言いかけたアルゴンの言葉の先をシャーロットが遮る。
「お祖父様、お、ね、が、い?」
シャーロットが甘えた声を出すと、アルゴンの鼻息がぶふぉうと荒くなる。すかさず偉そうにふんぞり返るが、妙に可愛いく見えるのは黄金竜の尻尾がパタパタ揺れているからだろうか。
「そうじゃなぁああああああ、まぁ、そうまで頼まれれば嫌とは言えんな。半竜とは言え、可愛い可愛い孫じゃしな、無下にするわけにもいくまいて」
「で、では!」
「うむ。物々交換か、何がええかのぅ」
「わたくしの手料理は……」
言いかけたシャーロットの言葉を慌ててセレスティナが遮った。
「アルゴンさん、な、仲良し家族写真とかは如何でしょう!」
シャーロットの芋煮を食べてひっくり返った記憶のあるアルゴンは、急ぎセレスティナの提案に乗った。
「そ、そうじゃな! シャーロットとイザーク、わしを含めた三体のドラゴンが、格好良く大空を舞う映像記録とやらでもいいぞう!」
「いっそ、家族全員でピクニックなんかは!」
「おおう、ええのう、ええのう!」
「なら、必要なのはお弁当よね! やっぱりわたくしが腕をふるって……」
シャルお姉様、それは駄目ぇえええええ! アルゴンさんが、アルゴンさんがぁ!
にっこり笑うシャーロットに、セレスティナが気力を振り絞る。
「ど、どこにいても、お孫さんとお話が出来る魔道具なんかは!」
「おう、それがいい! 是非ともそれで!」
わはははははははと、アルゴンが笑うも、シャーロットがぽつりと言う。
「却下」
「え、どうして?」
セレスティナが目を丸くし、シャーロットが憮然と腕を組む。
「以前、パパがお祖父様に通信機を渡したことがあるのよ。そうしたら、お祖父様は面白がったのかしら? ところ構わずパパに繋げて、くっだらない話を延々くっちゃべられて、お祖父様から通信機を取り上げたって聞いたわ。だから、ピクシーで連絡をよこせってパパは言うのよ。通信機を渡したくないからよね? わたくしも勘弁して欲しいわ」
あ、そうなの、ね……
セレスティナは苦笑いだ。
「な、なら……まだ、制作段階でいつお渡しできるか分からないんですが、果物を入れるだけでお酒が出来る魔道具は如何でしょう? ここでは蜂蜜酒が主流ですよね? ピクシーが集める蜂蜜を入れれば、たちどころにお酒になる魔道具を……」
「わぁ!」
「素敵素敵!」
「欲しいわぁ!」
そう答えたのはアルゴンではなく、周囲を飛び回っていたピクシー達だ。羽の生えた小妖精達はなんとも愛らしい。ちっちゃなピクシーがセレスティナの肩にちょんっと止まる。
「ここにはね、桃もあるのよ」
「そうそう、私達が育てるの」
「桃のお酒も作れる?」
「ええ、作れるわ?」
セレスティナが微笑むと、ピクシー達が興奮し、周囲をぶんぶん飛び回った。
「アルゴン様、お願い!」
「竜王様」
「竜王様」
「うむ、そうじゃな。酒はわしらドラゴンの大好物じゃ。よし、人間の小娘、それでよい」
わーい、わーい、わーい、とピクシー達は大喜びだ。
「では、ここにある竜晶石を持っていくが良い」
「あのう、それなんですが……グリーンとブルーの竜晶石が欲しいんです」
グリーンはセレスティナの瞳の色で、ブルーはシリウスの瞳の色である。だが、竜王の間にある竜晶石は見事に黄金色だ。きらっきらしていて目に眩しい。
「ふむ……緑竜と青竜の竜晶石か。なら、王の間ではなく大広間の方がよかろうて」
そこへピクシー達が割り込んだ。
「ね、精霊石はどうかしら?」
周囲のピクシー達が口々に言う。
「精霊王様の力が宿った精霊石はね、とっても綺麗なグリーンよ?」
「そうそう、大地を覆う緑の色なの」
「あなたの瞳のように綺麗な色よ? きっと気に入るわ?」
セレスティナの瞳の色は、もえいずる春を思わせる新緑である。それによく似ていると言う。とても綺麗だと褒められて、セレスティナは恥ずかしくて俯いた。
「い、いただいてもいいのかしら?」
「ええ、喜んで」
そこここでピクシー達が答える。ぶんぶん飛び回っていたピクシー達が運んで来た石は、とてもとても綺麗な新緑の石だった。喜びでセレスティナの心臓が跳ね上がる。
これで素敵なカフスボタンを作ろう。シリウスの為に……
「ありがとう」
セレスティナが顔をほころばせると、どういたしましてという囁きがあちこちで起こる。ブルーの竜晶石は竜王アルゴンの提案通り、大広間から貰った。魔道具で切り取った青い竜晶石を手に、セレスティナは目を細める。
綺麗なブルーだわ。晴れ渡った空の色……シリウスの色ね。
シリウスの瞳を思い出せば、どうしても頬が火照る。
作成予定のカフス型魔道具は、シリウスの瞳の色とセレスティナの瞳の色を組み合わせたデザインだ。セレスティナには同じデザインのイヤリングである。
「なんか、あからさま過ぎて恥ずかしいんだけれど」
セレスティナがもじもじと恥じらった。
「何言ってるの、そこがいいんじゃないの。ラブラブアピールなんて、絶対パパは浮かれるわ。あ、これを上げる時は、ちゃんと自分の分は身につけて行くのよ?」
「え……」
「もう。じゃないと意味ないでしょお?」
シャーロットにつんっと頬をつつかれる。
ドラゴンの住処から外に出ると、岩山が乱立している殺風景な光景が広がっている。雨が殆ど降らないので緑が極端に少ないのだ。炎の申し子と言われるドラゴンは大量の水が苦手なので、彼らには好ましい環境なのだろう。
と、突如、上空から野太い声が響いた。
「待ってくれよ、サマンサ!」
サマンサさん?
セレスティナはひやりとする。
セレスティナの手元を覗き込んだのは銀髪美少女のシャーロットだ。双子の兄であるイザークは婚約者のジャネットを迎えに行っていて、既に教室から姿を消している。
「ティナが落書き? めっずらしーっと思ったら、もしかして魔道具の開発?」
ノートにびっしり描き込まれた魔道数式に頭痛がするとでもいいたげな表情だ。
「ん……結婚記念日が近い、から」
セレスティナがもじもじと恥じらい、シャーロットの美麗な顔がぱっと輝いた。
「そう言えばそうだったわね。で、初めての結婚記念日に魔道具をプレゼントするの? うふふ、いいんじゃない? パパ、きっとすっごく喜ぶわよ。で、これの効果は何?」
「呪力の封印よ。呪物の力を吸い取って無効化してくれるの」
「へえ? あ、もしかして例のミサンガも無効化出来る?」
セレスティナがこくんと頷く。
「ええ。ノーブス卿のように解呪できたらいいなって思ったのだけれど、存在する呪術の種類は千差万別で、残念ながらどの呪力にも有効な解呪魔法ってないのよね。だったら封印してしまうのはどうかしらって思ったの。ただし、呪力が強力になればなるほど吸いとるのに相応の魔力を必要とするから、使用者によって効果は変わってしまうけれど」
シャーロットがくすりと笑う。
「ふふっ、なら、底なしの魔力を持つパパが使えば無敵ね。凄いわ、ティナ! あ、そう言えば、パパも呪いの無効化……じゃなくて、呪い返しを作ってたわね」
「え……」
呪い返し?
なにやら物騒な言葉である。
セレスティナの動揺も知らぬげに、シャーロットが言った。
「ほら、例の事件の直後、研究室に籠もったことがあったでしょう? あの時開発したのが……確か倍返し、じゃなかった、十倍返しじゃなかったかしら?」
「十倍返し……」
シャーロットの言葉をセレスティナが繰り返す。
ミサンガの事件の後、確かにシリウスは研究室に丸々一週間籠もったわ。チラ見した魔工式は確かに反射作用があるもので……もしかして呪いの反射? しかも威力が十倍?
気もそぞろになったセレスティナにシャーロットがたたみかける。
「そう、呪いの効果が十倍になって術者に返るって奴。パパってば相変わらずやることエグいわ。ティナが呪われたのが相当腹立たしかったのね。開発中に漏らした『うふふふふふふふふふ』ってパパの悪巧み満載の笑いがそりゃあもう不気味で……」
ちょ、ちょっと待ってぇ!
「シャルお姉様、私が開発する魔道具を推進して、お願い! こっちの方が安全だし!」
シャーロットが目をパチパチさせる。
「まぁ、そうね。ティナの場合は呪術の無効化、だものね? んふふー、いい手があるわよ?」
そう言って妖艶な笑みを浮かべたシャーロットが提案したのは、今回開発した魔道具を、ペアのアクセサリーにするというものだ。
「ペ、ペアのアクセサリー?」
セレスティナの声が裏返る。
シャーロットが嬉々として言った。
「そうよう。ほら、ティナとペアのアクセなら、絶対パパは身に付けるでしょ? そ、れ、に、ティナも自分の身が守れて一石二鳥だし」
ペ、ペアのアクセサリーって……
セレスティナは恥じらった。
「さっきも言ったように、その、使用者の魔力によって効果は変わるの。私が身に付けても大した効果は期待出来な……」
「ああ、そこはいいから、いいから。ラブラブアピールが出来ればそれでいいんだもの。そうだ! 魔道具に使用する魔石は、お祖父様のところにもらいに行きましょう!」
「アルゴンさんのところへ?」
確かに、竜王国なら質のいい竜晶石が手に入りそうだけれど……
「そそ。竜王国ドルトランから竜晶石を直接ぶんど……げほっ! 貰ってくるのよ。わたくしがお祖父様からもらった竜晶石はめったに手に入らない希少品だったわよ?」
セレスティナの瞳が迷いに揺れる。
「……ご迷惑じゃないかしら?」
「まっさかぁ! 可愛い孫が遊びに行くんだから、逆に喜ぶわよ。前に顔を出した時だってそうだったでしょ?」
確かに大歓迎されたけれど、シャーロットの手料理で目を回したアルゴンを思い出し、セレスティナは苦笑いだ。顔を引きつらせながら美味しかったと言ってくれたけれど……
「『妖精のイタズラ』を使えばひとっ飛びでドルトランまで行けるわよ?」
セレスティナの顔がぱっと輝いた。
「連れて行ってくれるの?」
「もちろん、可愛い可愛い妹の為だもの。パパには内緒よね? うふふ、大丈夫、言わないわ」
口元に指を一本当てるシャーロットの仕草が可愛らしい、というより色っぽい。
「竜晶石が欲しいとな?」
そう答えたのは竜王アルゴンだ。竜王の間にいるので部下のドラゴンたちがずらりと並んでいるせいか、竜王らしい厳めしい顔つきを崩さない。
進み出たセレスティナがドレスをつまみ、淑女の礼をする。
「は、はい、お願いします。人間のお金には興味ないとお聞きしていますので、その、アルゴンさんが欲しい物と物々交換ということで如何でしょう?」
「ふーむ? 人間が所有する物で欲しいものなんぞ……」
ないなぁと言いかけたアルゴンの言葉の先をシャーロットが遮る。
「お祖父様、お、ね、が、い?」
シャーロットが甘えた声を出すと、アルゴンの鼻息がぶふぉうと荒くなる。すかさず偉そうにふんぞり返るが、妙に可愛いく見えるのは黄金竜の尻尾がパタパタ揺れているからだろうか。
「そうじゃなぁああああああ、まぁ、そうまで頼まれれば嫌とは言えんな。半竜とは言え、可愛い可愛い孫じゃしな、無下にするわけにもいくまいて」
「で、では!」
「うむ。物々交換か、何がええかのぅ」
「わたくしの手料理は……」
言いかけたシャーロットの言葉を慌ててセレスティナが遮った。
「アルゴンさん、な、仲良し家族写真とかは如何でしょう!」
シャーロットの芋煮を食べてひっくり返った記憶のあるアルゴンは、急ぎセレスティナの提案に乗った。
「そ、そうじゃな! シャーロットとイザーク、わしを含めた三体のドラゴンが、格好良く大空を舞う映像記録とやらでもいいぞう!」
「いっそ、家族全員でピクニックなんかは!」
「おおう、ええのう、ええのう!」
「なら、必要なのはお弁当よね! やっぱりわたくしが腕をふるって……」
シャルお姉様、それは駄目ぇえええええ! アルゴンさんが、アルゴンさんがぁ!
にっこり笑うシャーロットに、セレスティナが気力を振り絞る。
「ど、どこにいても、お孫さんとお話が出来る魔道具なんかは!」
「おう、それがいい! 是非ともそれで!」
わはははははははと、アルゴンが笑うも、シャーロットがぽつりと言う。
「却下」
「え、どうして?」
セレスティナが目を丸くし、シャーロットが憮然と腕を組む。
「以前、パパがお祖父様に通信機を渡したことがあるのよ。そうしたら、お祖父様は面白がったのかしら? ところ構わずパパに繋げて、くっだらない話を延々くっちゃべられて、お祖父様から通信機を取り上げたって聞いたわ。だから、ピクシーで連絡をよこせってパパは言うのよ。通信機を渡したくないからよね? わたくしも勘弁して欲しいわ」
あ、そうなの、ね……
セレスティナは苦笑いだ。
「な、なら……まだ、制作段階でいつお渡しできるか分からないんですが、果物を入れるだけでお酒が出来る魔道具は如何でしょう? ここでは蜂蜜酒が主流ですよね? ピクシーが集める蜂蜜を入れれば、たちどころにお酒になる魔道具を……」
「わぁ!」
「素敵素敵!」
「欲しいわぁ!」
そう答えたのはアルゴンではなく、周囲を飛び回っていたピクシー達だ。羽の生えた小妖精達はなんとも愛らしい。ちっちゃなピクシーがセレスティナの肩にちょんっと止まる。
「ここにはね、桃もあるのよ」
「そうそう、私達が育てるの」
「桃のお酒も作れる?」
「ええ、作れるわ?」
セレスティナが微笑むと、ピクシー達が興奮し、周囲をぶんぶん飛び回った。
「アルゴン様、お願い!」
「竜王様」
「竜王様」
「うむ、そうじゃな。酒はわしらドラゴンの大好物じゃ。よし、人間の小娘、それでよい」
わーい、わーい、わーい、とピクシー達は大喜びだ。
「では、ここにある竜晶石を持っていくが良い」
「あのう、それなんですが……グリーンとブルーの竜晶石が欲しいんです」
グリーンはセレスティナの瞳の色で、ブルーはシリウスの瞳の色である。だが、竜王の間にある竜晶石は見事に黄金色だ。きらっきらしていて目に眩しい。
「ふむ……緑竜と青竜の竜晶石か。なら、王の間ではなく大広間の方がよかろうて」
そこへピクシー達が割り込んだ。
「ね、精霊石はどうかしら?」
周囲のピクシー達が口々に言う。
「精霊王様の力が宿った精霊石はね、とっても綺麗なグリーンよ?」
「そうそう、大地を覆う緑の色なの」
「あなたの瞳のように綺麗な色よ? きっと気に入るわ?」
セレスティナの瞳の色は、もえいずる春を思わせる新緑である。それによく似ていると言う。とても綺麗だと褒められて、セレスティナは恥ずかしくて俯いた。
「い、いただいてもいいのかしら?」
「ええ、喜んで」
そこここでピクシー達が答える。ぶんぶん飛び回っていたピクシー達が運んで来た石は、とてもとても綺麗な新緑の石だった。喜びでセレスティナの心臓が跳ね上がる。
これで素敵なカフスボタンを作ろう。シリウスの為に……
「ありがとう」
セレスティナが顔をほころばせると、どういたしましてという囁きがあちこちで起こる。ブルーの竜晶石は竜王アルゴンの提案通り、大広間から貰った。魔道具で切り取った青い竜晶石を手に、セレスティナは目を細める。
綺麗なブルーだわ。晴れ渡った空の色……シリウスの色ね。
シリウスの瞳を思い出せば、どうしても頬が火照る。
作成予定のカフス型魔道具は、シリウスの瞳の色とセレスティナの瞳の色を組み合わせたデザインだ。セレスティナには同じデザインのイヤリングである。
「なんか、あからさま過ぎて恥ずかしいんだけれど」
セレスティナがもじもじと恥じらった。
「何言ってるの、そこがいいんじゃないの。ラブラブアピールなんて、絶対パパは浮かれるわ。あ、これを上げる時は、ちゃんと自分の分は身につけて行くのよ?」
「え……」
「もう。じゃないと意味ないでしょお?」
シャーロットにつんっと頬をつつかれる。
ドラゴンの住処から外に出ると、岩山が乱立している殺風景な光景が広がっている。雨が殆ど降らないので緑が極端に少ないのだ。炎の申し子と言われるドラゴンは大量の水が苦手なので、彼らには好ましい環境なのだろう。
と、突如、上空から野太い声が響いた。
「待ってくれよ、サマンサ!」
サマンサさん?
セレスティナはひやりとする。
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