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本編
第二十七話 勇者はだあれ
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この国の第一王子であるジュリアンが豪快にがははと笑う。
その姿を見て、ブラッドは思わず片手で顔を覆った。ちっとも変わってない、そう思ったのだ。見た目も話し方も二百年前の勇者バスチアンと全く同じである。タイムスリップしたか? というくらい同じだ。
あのクリフに似た勇者の肖像画は、オカマ画家の創作だからな……
ひっそりブラッドはそんなことを思った。
知る人ぞ知る秘話である。
そう、本物の勇者は、見た目もっさりドワーフの王太子ジュリアンにそっくりであった。なのに何故ああなったのか言えば、あの当時、美意識の高いオカマ画家に「勇者はこれくらい格好良くないと駄目よねー」とかなんとか言いくるめられて、まるっきりの別人に仕立て上げられたのである。はっきりいって肖像詐欺もいいところだったが、当時の勇者がこだわらなかったせいもあり、あれがそのまま神殿に奉納されてしまったのだ。
改めて勇者バスチアンこと王太子ジュリアンを見たブラッドは、げっそりとなった。ちっとも嬉しくない。なんでお前がここにいる! と怒鳴りたい気分だった。
いや、勇者が嫌いなわけではない。嫌いではないのだが……
ブラッドの心から漏れ出るのは、どうしたって文句だ。
勇者のお前が生まれると言うことは、災厄の前触れなんだよ! 俺の前にくんな! 頼むから! レイチェルが巻き込まれる! 今度は一体どんなミッションひっさげて生まれてきた? お前の事だから、絶対神界から何か命じられて、「分かり申した! この命に替えても、地上を守って見せますぞぉ!」とかなんとか気軽に引き受けて! ぽんっと地上に生まれたんだろう!
軽々しく引き受けるなぁ! ほんっと超が付くほどの単細胞というか、この考えなしが……俺は今回のミッションは知らないからな! お前だけで解決してくれ!
「握手はしてくれんのかね?」
ブラッドは差し出されたごっつい手を見やる。ジュリアンの気の良い瞳が熱線のよう。ブラッドがしぶしぶ差し出された手を握り返せば、ジュリアンが破顔した。
「何やら懐かしい気がするな? 初めてあった気がせん」
ジュリアンの茶色い瞳が、ブラッドをじっと見上げる。
ああ、まったくもって初対面じゃねぇ。
ジュリアンのその瞳が、今度はレイチェルに向き、眩しそうに細められた。
「ほほう、彼女が件の聖印の乙女かね? 今世は勇者ではなく、彼と一緒になるというわけか。ははは、お似合いだぞ」
ジュリアンは楽しそうに笑うが、ブラッドは笑えなかった。
「……レイチェルはドリアーヌじゃねぇよ」
ブラッドはふいっとそっぽを向く。はっきり言って、伝説の大聖女ドリアーヌは、ブラッドにとって苦手な女の部類に入る。なにせ、何かやらかすたんびにこんこんと説教だ。母親よりやかましい。あれとレイチェルを同一視……心底嫌である。
「は、初めまして、王太子殿下。レイチェル・ホーリーと申します。以後お見知りおきを」
見よう見まねでレイチェルが淑女の礼をすれば、ジュリアンがはははと笑った。
「ああ、そんなに畏まらなくても大丈夫じゃよ。今回の夜会は、平民も混じっているので、無礼講扱いじゃ。肩肘張らなくても良い」
「は、はい! あ、ありがとうございます!」
レイチェルが喜び、二人の会話を耳にしたクリフがぽかんと口を開けた。
――彼女が件の聖印の乙女かね?
ジュリアン王太子は確かにそう言った。
◇◇◇
聖印の乙女? レイチェルが?
クリフは呆然と立ち尽くす。
な、なら、レイチェルは大聖女ドリアーヌの生まれ変わりってことか?
改めてレイチェルを見れば、そこに立っているのは白金の髪の美しい少女だ。金糸で刺繍された白い豪奢なドレスを身に纏った姿は神々しい。ほのかに発光しているようにも見える。身に着けた宝石は血のような深紅で、ブラッドの色だ。そう、自分の色じゃない……
レイチェルが大聖女。そして、フォークスの婚約者……
クリフはくしゃりと顔を歪めた。
嘘だ……。そ、そんなの嘘だ嘘だ嘘だ! レイチェルは俺の事が好きなんだから、俺のもんだ。レイチェルは俺を好きだった、俺を好きなはず、そうだろう?
縋るようにレイチェルに目を向ければ、恥ずかしそうに、それでも嬉しそうにブラッドに寄り添う姿が目に入り、クリフは打ちのめされる。
嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! レイチェルが他の男のものになるなんて!
クリフが葛藤する中、ジュリアンが朗々と声を張り上げた。野太い声が会場中に響き渡る。
「皆の者! 聞くが良い! 今ここに宣言しよう! 二百年前、魔王討伐を果たした四大英雄の一人、ブラッド・フォークスと、聖印の乙女であるレイチェル・ホーリーとの婚約を、王家の名のもとに認めると! さぁ、祝おうではないか!」
ざわりと周囲が揺れる。戸惑ったのは神官達だ。
「四大英雄の一人、ブラッド・フォークスとって……」
「い、いや、でも、彼はヴァンパイアですよ?」
「ええぇ? 聖印の乙女と魔物のヴァンパイアが結婚、ですか?」
かつてない珍事に、周囲がざわめくも、ジュリアンが動じることはない。
「そう、聖印の乙女がそれを望んだのじゃ! 何人もこれを覆してはならん、よいな?」
「いや、しかし!」
「そ、そんなことを軽々しく認めては、神殿の名折れです!」
それに便乗したのがクリフだ。
そうだ、認めてたまるか!
神官達の台詞にクリフが勢いづき、ずいっと進み出た。
「待て! レイチェルが聖印の乙女で大聖女の生まれ変わりなら、勇者の生まれ変わりであるこの俺こそが彼女の相手にふさわしい!」
そのクリフの宣言にも、また周囲が揺れる。
勇者? 勇者って……いや、でも、彼には聖印がありませんよ?
こぞって神官達が戸惑う。そう、誰も、彼を勇者だなどと認めていない。第二王子ランドールに焚き付けられたせいもあるだろうが、完全なクリフの暴走であった。
クリフがレイチェルの手を取ろうとすれば、バシッとその手を叩き落とされる。誰の仕業かは言うまでもない。立ちはだかったのはブラッドだ。
「……ざっけんな、お前は勇者なんかじゃねーよ」
すうっと気温が下がった気がした。赤い瞳の奥に浮かんだのは、まごうことなく殺気だ。びくりとクリフは身を震わせ、数歩下がった。
「も、もともとレイチェルと婚約していたの俺だ!」
「……そのレイチェルを捨てたのはどこの誰だよ、あ?」
そこへ割り込んだのはセイラである。顔色を失って、今にも倒れそうである。
「ちょ、ちょっと待って、クリフ……。勇者のあなたが選んだのは私でしょう?」
わななくセイラの唇がそう告げた。
◇◇◇
セイラは騎士服に身を包んだクリフを見上げた。縋るような眼差しだ。
「ね? あなたが選んだのは、私よね? あなたの運命の相手は私でしょう?」
セイラは必死だった。レイチェルが大聖女……青天の霹靂である。嘘だと叫びたくても、王太子が、神官達が認めている。覆しようがない。
レイチェルが大聖女なら男爵令嬢よりうんと格上……
事実を認めたくないところへもってきて、クリフのこの行動は、セイラを打ちのめした。現実に心が追いつかないのに、自分を選んだはずのクリフが、元婚約者に言い寄ったのだ。やっぱり自分の運命の相手はレイチェルだとでも言うように……
違う、違う、違う、クリフに選ばれたのは私、この私よ! 大聖女ではなくても、私は勇者であるクリフに選ばれた運命の相手なのよ!
「あ、その……」
クリフが狼狽え、レイチェルとセイラを交互に見た。迷いを示すように……
それがさらにセイラを愕然とさせる。
嘘……なんなのよ、それは! やめてやめてやめて……
ちらりとセイラが視線を走らせれば、白金の髪の神々しい少女の姿が目に映る。ぐらりとセイラの視界が揺れた。見下していた女に、今度は見下されるのかと思うとぞっとする。
セイラには、レイチェルが自分を嘲っているように見えた。事実はどうあれ、セイラにはどうしてもそう見えてしまう。身の程を知ったらどう? そう言われているようでいたたまれない。それはまさにセイラ自身の心の声そのものであったのだが……
セイラはうつむき、ドレスをぐっと掴んだ。
目の覚めるような美女に生まれ変わったのに、なんでこうなるのよ……
ふつふつと怒りがわき上がる。
これじゃあ、前世と同じじゃない。いつだって自分が好きになった男は別の女を選んだ。そう、自分より美しい女を……。所詮人間見た目よ、美しい女にはどれだけ努力しても敵わない、そう何度思っただろう。その美しい女に生まれ変わったのに、どうして?
セイラはきっとレイチェルを睨み付ける。
なにさ、カマトトぶっちゃって、いい気にならないで! あんたみたいな女、大っ嫌いよ! 私が欲しかったのはブラッドなのに! クリフで我慢してあげたのに! 他の女に目移りする男なんかいらないわよ! そうよ、だったら!
セイラが口から出た言葉は勝手極まりない。
「レイチェル! クリフを上げるから、ブラッドをちょうだい! これで元サヤで万々歳よね?」
藪から棒のセイラの台詞にクリフが目を剥いた。
「はぁ? ちょ、ちょっと待て! 一体どういうことだ?」
セイラがきっとまなじりを吊り上げた。
「なによ、もっと喜んだらどうなの? レイチェルと復縁したいんでしょう? 後押しして上げるわよ! その代わり! ブラッドが私の相手になるように協力しなさいよ!」
「お、お前! あ、あんな奴が良いのか?」
セイラのまなじりがきりりとつり上がる。
「そうよ、いいに決まってるじゃない! ブラッドはね、四大英雄の一人なのよ? 勇者としての地位を確立していない今のあんたじゃ、比ぶべくもないわ! 容姿だってね、鏡の前に並んで立ってみなさいよ! 横に並ぶと、あんたなんか霞んでどうしようもないわ! あんたくらいの男ならね、田舎くさいレイチェルとお似合いよ!」
売り言葉に買い言葉で、かぁっと頭に血が上ったクリフが叫ぶ。
「なんだと、この……ああ、ああ、分かったよ! お前の気持ちはようくな! 俺もブラッドのような奴に傾倒する女なんかごめんだね! さっさと行っちまえ!」
「ええ、ええ、そうさせていただきますとも! この田舎者!」
「この高飛車女! さ、レイチェル、行こう!」
「……ざっけんな」
ごっつんという鈍い音がし、手を差し出した格好のまま、クリフが床に熱烈キッスだ。床に顔面殴打したとも言う……もちろんブラッドに拳で殴られたからである。
その姿を見て、ブラッドは思わず片手で顔を覆った。ちっとも変わってない、そう思ったのだ。見た目も話し方も二百年前の勇者バスチアンと全く同じである。タイムスリップしたか? というくらい同じだ。
あのクリフに似た勇者の肖像画は、オカマ画家の創作だからな……
ひっそりブラッドはそんなことを思った。
知る人ぞ知る秘話である。
そう、本物の勇者は、見た目もっさりドワーフの王太子ジュリアンにそっくりであった。なのに何故ああなったのか言えば、あの当時、美意識の高いオカマ画家に「勇者はこれくらい格好良くないと駄目よねー」とかなんとか言いくるめられて、まるっきりの別人に仕立て上げられたのである。はっきりいって肖像詐欺もいいところだったが、当時の勇者がこだわらなかったせいもあり、あれがそのまま神殿に奉納されてしまったのだ。
改めて勇者バスチアンこと王太子ジュリアンを見たブラッドは、げっそりとなった。ちっとも嬉しくない。なんでお前がここにいる! と怒鳴りたい気分だった。
いや、勇者が嫌いなわけではない。嫌いではないのだが……
ブラッドの心から漏れ出るのは、どうしたって文句だ。
勇者のお前が生まれると言うことは、災厄の前触れなんだよ! 俺の前にくんな! 頼むから! レイチェルが巻き込まれる! 今度は一体どんなミッションひっさげて生まれてきた? お前の事だから、絶対神界から何か命じられて、「分かり申した! この命に替えても、地上を守って見せますぞぉ!」とかなんとか気軽に引き受けて! ぽんっと地上に生まれたんだろう!
軽々しく引き受けるなぁ! ほんっと超が付くほどの単細胞というか、この考えなしが……俺は今回のミッションは知らないからな! お前だけで解決してくれ!
「握手はしてくれんのかね?」
ブラッドは差し出されたごっつい手を見やる。ジュリアンの気の良い瞳が熱線のよう。ブラッドがしぶしぶ差し出された手を握り返せば、ジュリアンが破顔した。
「何やら懐かしい気がするな? 初めてあった気がせん」
ジュリアンの茶色い瞳が、ブラッドをじっと見上げる。
ああ、まったくもって初対面じゃねぇ。
ジュリアンのその瞳が、今度はレイチェルに向き、眩しそうに細められた。
「ほほう、彼女が件の聖印の乙女かね? 今世は勇者ではなく、彼と一緒になるというわけか。ははは、お似合いだぞ」
ジュリアンは楽しそうに笑うが、ブラッドは笑えなかった。
「……レイチェルはドリアーヌじゃねぇよ」
ブラッドはふいっとそっぽを向く。はっきり言って、伝説の大聖女ドリアーヌは、ブラッドにとって苦手な女の部類に入る。なにせ、何かやらかすたんびにこんこんと説教だ。母親よりやかましい。あれとレイチェルを同一視……心底嫌である。
「は、初めまして、王太子殿下。レイチェル・ホーリーと申します。以後お見知りおきを」
見よう見まねでレイチェルが淑女の礼をすれば、ジュリアンがはははと笑った。
「ああ、そんなに畏まらなくても大丈夫じゃよ。今回の夜会は、平民も混じっているので、無礼講扱いじゃ。肩肘張らなくても良い」
「は、はい! あ、ありがとうございます!」
レイチェルが喜び、二人の会話を耳にしたクリフがぽかんと口を開けた。
――彼女が件の聖印の乙女かね?
ジュリアン王太子は確かにそう言った。
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聖印の乙女? レイチェルが?
クリフは呆然と立ち尽くす。
な、なら、レイチェルは大聖女ドリアーヌの生まれ変わりってことか?
改めてレイチェルを見れば、そこに立っているのは白金の髪の美しい少女だ。金糸で刺繍された白い豪奢なドレスを身に纏った姿は神々しい。ほのかに発光しているようにも見える。身に着けた宝石は血のような深紅で、ブラッドの色だ。そう、自分の色じゃない……
レイチェルが大聖女。そして、フォークスの婚約者……
クリフはくしゃりと顔を歪めた。
嘘だ……。そ、そんなの嘘だ嘘だ嘘だ! レイチェルは俺の事が好きなんだから、俺のもんだ。レイチェルは俺を好きだった、俺を好きなはず、そうだろう?
縋るようにレイチェルに目を向ければ、恥ずかしそうに、それでも嬉しそうにブラッドに寄り添う姿が目に入り、クリフは打ちのめされる。
嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! レイチェルが他の男のものになるなんて!
クリフが葛藤する中、ジュリアンが朗々と声を張り上げた。野太い声が会場中に響き渡る。
「皆の者! 聞くが良い! 今ここに宣言しよう! 二百年前、魔王討伐を果たした四大英雄の一人、ブラッド・フォークスと、聖印の乙女であるレイチェル・ホーリーとの婚約を、王家の名のもとに認めると! さぁ、祝おうではないか!」
ざわりと周囲が揺れる。戸惑ったのは神官達だ。
「四大英雄の一人、ブラッド・フォークスとって……」
「い、いや、でも、彼はヴァンパイアですよ?」
「ええぇ? 聖印の乙女と魔物のヴァンパイアが結婚、ですか?」
かつてない珍事に、周囲がざわめくも、ジュリアンが動じることはない。
「そう、聖印の乙女がそれを望んだのじゃ! 何人もこれを覆してはならん、よいな?」
「いや、しかし!」
「そ、そんなことを軽々しく認めては、神殿の名折れです!」
それに便乗したのがクリフだ。
そうだ、認めてたまるか!
神官達の台詞にクリフが勢いづき、ずいっと進み出た。
「待て! レイチェルが聖印の乙女で大聖女の生まれ変わりなら、勇者の生まれ変わりであるこの俺こそが彼女の相手にふさわしい!」
そのクリフの宣言にも、また周囲が揺れる。
勇者? 勇者って……いや、でも、彼には聖印がありませんよ?
こぞって神官達が戸惑う。そう、誰も、彼を勇者だなどと認めていない。第二王子ランドールに焚き付けられたせいもあるだろうが、完全なクリフの暴走であった。
クリフがレイチェルの手を取ろうとすれば、バシッとその手を叩き落とされる。誰の仕業かは言うまでもない。立ちはだかったのはブラッドだ。
「……ざっけんな、お前は勇者なんかじゃねーよ」
すうっと気温が下がった気がした。赤い瞳の奥に浮かんだのは、まごうことなく殺気だ。びくりとクリフは身を震わせ、数歩下がった。
「も、もともとレイチェルと婚約していたの俺だ!」
「……そのレイチェルを捨てたのはどこの誰だよ、あ?」
そこへ割り込んだのはセイラである。顔色を失って、今にも倒れそうである。
「ちょ、ちょっと待って、クリフ……。勇者のあなたが選んだのは私でしょう?」
わななくセイラの唇がそう告げた。
◇◇◇
セイラは騎士服に身を包んだクリフを見上げた。縋るような眼差しだ。
「ね? あなたが選んだのは、私よね? あなたの運命の相手は私でしょう?」
セイラは必死だった。レイチェルが大聖女……青天の霹靂である。嘘だと叫びたくても、王太子が、神官達が認めている。覆しようがない。
レイチェルが大聖女なら男爵令嬢よりうんと格上……
事実を認めたくないところへもってきて、クリフのこの行動は、セイラを打ちのめした。現実に心が追いつかないのに、自分を選んだはずのクリフが、元婚約者に言い寄ったのだ。やっぱり自分の運命の相手はレイチェルだとでも言うように……
違う、違う、違う、クリフに選ばれたのは私、この私よ! 大聖女ではなくても、私は勇者であるクリフに選ばれた運命の相手なのよ!
「あ、その……」
クリフが狼狽え、レイチェルとセイラを交互に見た。迷いを示すように……
それがさらにセイラを愕然とさせる。
嘘……なんなのよ、それは! やめてやめてやめて……
ちらりとセイラが視線を走らせれば、白金の髪の神々しい少女の姿が目に映る。ぐらりとセイラの視界が揺れた。見下していた女に、今度は見下されるのかと思うとぞっとする。
セイラには、レイチェルが自分を嘲っているように見えた。事実はどうあれ、セイラにはどうしてもそう見えてしまう。身の程を知ったらどう? そう言われているようでいたたまれない。それはまさにセイラ自身の心の声そのものであったのだが……
セイラはうつむき、ドレスをぐっと掴んだ。
目の覚めるような美女に生まれ変わったのに、なんでこうなるのよ……
ふつふつと怒りがわき上がる。
これじゃあ、前世と同じじゃない。いつだって自分が好きになった男は別の女を選んだ。そう、自分より美しい女を……。所詮人間見た目よ、美しい女にはどれだけ努力しても敵わない、そう何度思っただろう。その美しい女に生まれ変わったのに、どうして?
セイラはきっとレイチェルを睨み付ける。
なにさ、カマトトぶっちゃって、いい気にならないで! あんたみたいな女、大っ嫌いよ! 私が欲しかったのはブラッドなのに! クリフで我慢してあげたのに! 他の女に目移りする男なんかいらないわよ! そうよ、だったら!
セイラが口から出た言葉は勝手極まりない。
「レイチェル! クリフを上げるから、ブラッドをちょうだい! これで元サヤで万々歳よね?」
藪から棒のセイラの台詞にクリフが目を剥いた。
「はぁ? ちょ、ちょっと待て! 一体どういうことだ?」
セイラがきっとまなじりを吊り上げた。
「なによ、もっと喜んだらどうなの? レイチェルと復縁したいんでしょう? 後押しして上げるわよ! その代わり! ブラッドが私の相手になるように協力しなさいよ!」
「お、お前! あ、あんな奴が良いのか?」
セイラのまなじりがきりりとつり上がる。
「そうよ、いいに決まってるじゃない! ブラッドはね、四大英雄の一人なのよ? 勇者としての地位を確立していない今のあんたじゃ、比ぶべくもないわ! 容姿だってね、鏡の前に並んで立ってみなさいよ! 横に並ぶと、あんたなんか霞んでどうしようもないわ! あんたくらいの男ならね、田舎くさいレイチェルとお似合いよ!」
売り言葉に買い言葉で、かぁっと頭に血が上ったクリフが叫ぶ。
「なんだと、この……ああ、ああ、分かったよ! お前の気持ちはようくな! 俺もブラッドのような奴に傾倒する女なんかごめんだね! さっさと行っちまえ!」
「ええ、ええ、そうさせていただきますとも! この田舎者!」
「この高飛車女! さ、レイチェル、行こう!」
「……ざっけんな」
ごっつんという鈍い音がし、手を差し出した格好のまま、クリフが床に熱烈キッスだ。床に顔面殴打したとも言う……もちろんブラッドに拳で殴られたからである。
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