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第三章 めざすは運動会!
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しおりを挟むまさかのミドリくんの正体を知ってからはやくも一週間が経とうとしている。
その間も、千明くんにこっそりダンスレッスンをしてもらったり、蒼太くんたちとゲームをしたり委員会活動をしたり。
わたしなりになんだかとっても充実した毎日を送っている。
夜の定期通話のとき、タブレットの画面越しのお母さんたちも《ひなが元気そうで良かった》と笑っていた。
お父さんの調子もよくて、運動会に来れることはほぼ確定だという。
『お父さん、わたし今、ダンスの練習を頑張ってるよ』
『おお、そうか! 楽しみだなあ』
『ひなちゃん偉いね。もうすぐ帰れるからね』
わたしが頑張っていることを報告すると、お父さんとお母さんも嬉しそうに笑っていた。
そうすると、わたしも心もポカポカとあたたかくなってくる。
よし、頑張るぞ……!
気合いもまたたくさん入って、ウキウキした気持ちで朝を迎えた。
今日はまた千明くんのお家での特別レッスンの日だ。
自主練の成果もあってコツもつかめて来たように思う。
非逃避等の動きが出来るようになったら、なんだか嬉しくて無理に身体を縮めようとはしなくなった。
先週は先生の千明くんにも褒められて、ホッとしている。
今日はちょうど五時間めに体育の授業があって、ダンスの全体練習だった。
結愛ちゃんには動きが良くなったことに気付かれて不思議な顔をされたけど、自主練をがんばっていることを伝えたのだ。
ちなみに、千明くんの昼休みレッスンの効果か、うちのクラスは完成度が高かったらしく先生も驚いていた。
さすがは千明くんだ。
そして放課後。ようやく帰る時間になって、わたしは下駄箱へと急ぐ。
「……あれ?」
靴箱から靴を取り出すと、何かの紙がはらりと落ちた。
わたしの靴箱からだったよね……?
不思議に思いながら、わたしはその紙を拾う。
――なんだろう、手紙みたいだけど。
カサカサとその紙を広げたとき、わたしは一瞬息が止まってしまった。
「ひっ………」
ピンクの便箋には
「デカ女」
「でかすぎてダンスの邪魔」
「蒼太くんと千明くんの近くに立つな」
「鏡を見てくださ~い」
という悪意のある言葉が書かれていた。
心臓がバクバクする。
あわてて周囲を見渡しても、人の気配はない。
なにこれ。なにこれ……!
「ひなちゃん、どうかしたの?」
「わっ!」
気付いたら、近くに結愛ちゃんが来ていた。
今日も途中まで一緒に帰ろうと約束していたのだ。
「そんなにびっくりしなくても……早く帰ろう~~運動会の練習で疲れたよぉ」
「ご、ごめんねっ」
わたしは急いでその手紙をポケットに突っ込んで、靴を履いた。
宙に浮かんでいるようで、現実味がない。
ズキズキ、ズキズキと心臓がいたむ。
「ひなちゃん、なんか顔色悪いよぉ? だいじょぶ?」
「だ、大丈夫」
「じゃあいいけど。あ~でも本当に、千明くんたちにむらがってるみんな、なんなのかなぁ?」
「……うん」
「ひなちゃんもそう思う!? なんか無駄にベタベタ触っちゃったりしてさぁ! ついでに蒼太くんにまでめちゃくちゃ話しかけてるしっ」
「……うん」
「わたしたちグループが最強なのにっ! ほんとグループ活動がんばろうねっ」
「……うん」
結愛ちゃんの言葉が、テレビの音のように流れていく。
みんなと過ごすうちに少しずつ上向いてきた気持ちが、一気に叩き落とされたような。
ようやく自分のことが少しだけ好きになれた気がするのに、わたしはまた背中を丸めてしまう。
「やっぱチョーシ悪いよね、ひなちゃん」
「あ、ご、ごめん……!」
話を全然聞けていなかったことに、きっと結愛ちゃんは怒ってしまった。
腰に手をあてた結愛ちゃんがわたしを見ている。
その姿もかわいい。
わたしなんかと、違う……。
「ねーひなちゃん、ゼッタイなんかあったでしょ! どうしたの?」
「なんでもないよ」
「なんでもなくないしっ! 言ってよ!」
「……結愛ちゃんには関係ないから」
「……っ」
ハッとして顔を上げたけど、その時にはもう遅かった。
結愛ちゃんはすごく傷付いた顔をしている。
「わかった、もう聞かない! バイバイ!」
「あっ、結愛ちゃん……!」
駆け出した結愛ちゃんは、ちょうど青になった信号を一気に渡って、すぐに見えなくなってしまった。
八つ当たりだ。
結愛ちゃんは何も悪くないのに。
わたしのことを心配してくれていたのに、何も言えなくて。
目の前から知らないカップルが歩いてきて、わたしはぶつからないようにサッと避ける。
「……えー、今の小学生?」
「ランドセルあるからそうでしょ」
「いや、デカくない? ふつーに」
「ランドセルが浮いてるよね」
運が悪いことに、わたしの耳はそんな会話をしっかりと拾ってしまった。
最近はずっと、優しい人たちに囲まれていたから忘れていた。
そうだ。身長が大きいのにランドセルを背負っているわたしは、異質に見えるんだった。
どうして忘れていたんだろう。
とぼとぼと家に帰り、あとから帰ってきた蒼太くんには、今日のダンスの練習にはいかないことを告げた。
「市山。兄ちゃんが帰って来たから一緒にゲームしないか?」
「んー……今日はやめとくね。ありがとう」
「……うん」
ごはんを食べたあとはまた部屋に戻って、ひとりでベッドの上で丸まる。
お母さんたちに会いたくても会えない。
動画を見る元気もなくて、タブレットは真っ黒な画面のままだ。
――わたし、なにを頑張ろうと思っていたんだっけ。
結愛ちゃんのことも怒らせちゃったし、学校に行くのがこわい。
あの手紙は捨てることも出来ずに棚の中にしまってしまった。
誰がやったかはわからないけど、あの手紙があるということは、それだけわたしに悪意を持っている人がいるということ。
それが見えてしまったのが本当にこわい。
「お母さん……蒼太くん……結愛ちゃん……」
これまでもデカ女と言われたことはあったけど、その時よりもずっと辛い。
グルグルと考えごとをしていると、わたしはいつの間にか眠ってしまっていた。
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