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番外編置き場
午後のお茶会※「おかあさま」ネタバレ含みます
しおりを挟む『モブなのに~』✖️『悪役令嬢のおかあさま』
どっちも見てないとよくわからない可能性大ですが……ごめんなさいどうしても書きたかったので_(┐「ε:)_
ーーーーーーーーーーー
今、私はとても緊張している。
「大丈夫よミラ。叔母さまも、ヴァイオレット様もとてもお優しいのだから」
「俺も叔母上とお会いするのは久しぶりだが、朗らかな方だから大丈夫だ」
私の両隣からレオと義姉のアナベル様がそう励ましてくれるけれど、緊張するものは仕方がない。
これまでも公爵令嬢と王子と、王族と関わってばかりだった上に、自分自身も公爵令嬢となった身ではあるが、今日は特別なのだ。
「バーベナも来るのよ、楽しみだわ」
見るからに嬉々としているアナベル様を尻目に、ど緊張している私。
今日は、公爵領に隣国の王妃様と公爵夫人とそのご令嬢のバーベナ様が遊びに来るのだという。
隣国の王妃様は、国王陛下と公爵さまの妹なので元はこの国の出身だ。貴族令嬢の仲間入りをすることになった私が、この方々にお会いするのは初めてだ。
今さらながら、小さな町の宿屋の娘だった私が公爵家のお茶会の席についていることが不相応な気がしてそわそわする。
キッチンで忙しなくお菓子を作る係をしていた方がずっと楽だ。
それに彼女たちは私にとって特別な存在でもある。
「――さあ、いらしたわ」
今日のホストである公爵夫人のアンナ様も、いつもはきりりと引き締まっている表情を緩めて、とても嬉しそうだ。
案内人である侍女に連れられて、ガーデンテーブルが設置された庭園に現れたのは、桃色と紫色の髪のふたりの女性と、赤い髪の少女だった。
◇
「この子が、噂のミラちゃん?」
紫の髪のご夫人――隣国のリシャール公爵家のヴァイオレット様にそう話しかけられて、私は小さな声で返事をした。
波打つ菫色の髪と、琥珀の瞳。
1度も会ったことのないその人の姿に、私は既視感があった。だって彼女は、私が前世で初めて読んだ乙女ゲームもの小説の登場人物なのだから。
乙女ゲームの世界では、悪役令嬢の母親として裏で悪事を働き、最後は娘と共に断罪されるヴァイオレット=リシャール。その人の娘時代が書かれたノベライズ版では、これまた家の権力を大いに使ってやりたい放題だった。
だが、目の前にいるこの人は、とてもそのような人に見えない。王妃であるリリー様とも関係は良好そうだし、公爵夫人のアンナ様ともとても親しそうだ。
何より、乙女ゲームでは悪役令嬢とヒロインの関係でもあるバーベナ様とアナベル様も、とても仲が良さそうなのだ。
そもそもノベライズ版では、ヴァイオレットとアンナは1人の男性を巡って本妻と愛人の関係になるはずだったが、それも違っている。スピカの話だと乙女ゲームで病弱独身のはずの公爵様が愛妻家に転じているのも、もしかしたらもうその辺りからストーリーに異変が起きていたのかもしれない。
「話は聞いているわ。あなた、お菓子作りがとても上手なのでしょう? 楽しみにしてきたのよ」
「お兄様の養女ということは、私の姪にもなるのね。よろしくね、ミラ」
「は、はい。よろしくお願いします……」
ヴァイオレット様とリリー王妃にたおやかに微笑まれて、なんとか返事を返した。
リリー王妃はこの国で緑茶やうどんを考案した方。公爵さまに尋ねたら、実は全てリリー王妃の発案だったと教えてくれた。流石に私も味噌や醤油の作り方は分からないから、それを再現できるなんて凄いことだ。
もしかして転生者なのでは、という予想も頭に浮かんで、でも確かめようもない。
ある意味私にとって非常に思い入れのある存在のおふたりがここにいるのだ。緊張してしまっても仕方がない、と思う。
「叔母上、ヴァイオレット様。ひとまずお菓子をいただきませんか? 私はこのレモンパイがおすすめです」
「バーベナ、アップルパイを食べてみて。ミラのパイは本当に美味しいんだから!」
レオとアナベル様のおかげで話題がお菓子に移り、客人はどれから食べようかと思案している。恐らく緊張している私を気遣ってくれてのことなのだと思う。
今日はアナベル様の大好きなアップルパイと、以前レオが褒めてくれたレモンパイ、それにマドレーヌやタルトなどとりあえず好みが分からなかったので色々と作ってみた。
貴族風の歓待はまだうまく出来ないけれど、お菓子の準備ならばと申し出たのだ。
「これを全部ミラちゃんが? すごいのね、本当に。何から食べようかしら……でもやっぱりわたしは最初はこれ!」
数あるお菓子の中からヴァイオレット様が選んだのは、マドレーヌだった。アンナ様が用意してくださっていたシェル型を用いたマドレーヌは、何回か練習して前世とあまり遜色のない仕上がりになったと自負している。
だが、この並べられたお菓子の中から、飾り気のない素朴な見た目の焼き菓子が選ばれたことが意外だった。
「レティ様は本当にマドレーヌがお好きですよね」
アンナ様がその様子に懐かしそうに目を細めるところを見ると、本当に大好きなお菓子のようだ。
「ええ。そうなの。この貝殻の形が、ザ・マドレーヌ!って感じで、このでこぼこ模様を見ると癒されるのよ」
ヴァイオレット様は少女のように柔らかく微笑む。
その発言ーー特に、貝殻の形のでこぼこに癒される、という言葉は、どこか耳馴染みがある。
彼女は嬉しそうにマドレーヌを手に取り、はくりと口に運ぶ。数度咀嚼した後、にこにことしていた彼女から、すとんと表情が抜け落ちた。
「……よっちゃんと同じ……」
「!」
手に持つマドレーヌを、不思議そうに見つめた彼女が小さく溢した言葉は私の耳に届いた。
周囲の景色は動いていて、歓談している様子は目に映る。だが、私とヴァイオレット様だけ、時が止まったような静寂に包まれている感覚に陥った。
「これ、ミラちゃんが作ったのよね」
ヴァイオレット様の琥珀の瞳は、揺れながら私へと向けられる。
姿形や年齢は全く違うけど、もしかして、私がそうだったように、彼女もそう、なのだろうか。
「はい。私が……」
すう、と息を吸う。何を言っているんだと言われるかもしれないが、確認するなら今しかない。
「前世、"よっちゃん"と呼ばれていたことがあります。……すーちゃん、ですか……?」
「! ほんとにっ⁉︎」
私がおそるおそる口にした問いに反応した彼女が、がたん、と音を立てて立ち上がる。
全然異なる姿形をしているのに、前世の親友の姿が重なって見える。
よっちゃん!と声を上げて突然私に抱きついてきた彼女と、抱きしめられながら涙が止まらない私。
視界の端では、レオが困ったようにおろおろとしているのがうっすらと見える。
「よっちゃん、よっちゃん、ごめんね、わたし、約束守れなくて……っ」
「私こそ……疲れてる時に育児の話ばっかりで、すーちゃんの話を、聞いてなくて」
「ううん、赤ちゃん可愛かったし、よっちゃんから聞いた妊婦さんの話、この世界ですごく役に立ったもの……!」
「でも、私……」
「ごめんね、よっちゃん。でも、こうして会えるなんて、夢みたい」
今は母娘ほど歳が離れている私たちだけど、中身はあの頃のままだ。吐き出すようにあの時の気持ちを外に出すと、彼女が受け止めてくれてどんどんと昇華していく。
まさか彼女に、もう一度会えて元気な姿を見られるだなんて思わなかった。
それに今の彼女は子供もいて、とても幸せそうにしている。それだけでもう胸がいっぱいだ。
「お母さま、どうしたの……?」
「バーベナ、えーっとね、ミラちゃんは私にとって、とても大切な人だったの。このマドレーヌ、とても美味しいわよ」
「! 本当だわ……うちのより、美味しい……!」
不思議そうに首を傾げるバーベナ様に、私から離れたヴァイオレット様は優しくそう告げる。
「ミラ、大丈夫か?」
「うん。ありがとう……レオ。とっても嬉しいことがあったの」
「だったらいいんだけど……ほら」
私の目元に優しく触れたのは、肌触りのいいハンカチだった。心配そうに私を覗き込む青紫の瞳に、どこか安心してしまう。
この世界で前世の大切な人にまた会えた。
それに、お互いにまた、大切な人が出来ている。
それがとても嬉しい。
「ふふ、お兄様。今回は正解だったみたいね」
リリー様のその呟きは、誰の耳にも入ることなく、爽やかな青空にとけこんでいく。
お茶会後、リリー様の部屋に呼ばれた私は、そこで彼女も前世の記憶がある事を聞かされ、大いに驚きながらもやっぱりそうかと納得したのだった。
ーーーーーーーー
おかあさま読者じゃないと意味が分からないこともあったかと思いますので一応補足を。
私の覚書も兼ねてます。分かる方は読み飛ばして問題ありません。次は誰の番外編にしようかなー(๑˃̵ᴗ˂̵)
【乙女ゲームの発売時系列】
作品名、ヒロイン名、悪役令嬢名
①乙女ゲーム第1弾『花冠』アナベル、バーベナ
②ノベライズ版『花冠』アンナ、ヴァイオレット
③乙女ゲーム第2弾『星の指輪』スピカ、ベラトリクス
お話の中での実際の時系列は、②①③の順。
・リリー=ロラン
国王と公爵の妹。隣国に嫁いで王妃となった。
前世の記憶(②まで)があり、当初は悪役のヴァイオレットを兄と共に警戒していた。
うどんや味噌、醤油を作り上げた第一人者
•ヴァイオレット=リシャール
隣国の公爵夫人。前世の記憶(①まで)があり、悪役令嬢の母に転生したことに気付いて回避を画策。
前世の親友よっちゃんの作るマドレーヌが大好き。
•バーベナ=リシャール
隣国の公爵令嬢。ヴァイオレットの娘。乙女ゲームでは悪役令嬢だが、まっすぐスクスク育ち、婚約者の王子様に溺愛されている。
・アナベル=バートリッジ
公爵令嬢。アンナとジークの娘。乙女ゲーム第1弾のヒロイン。バーベナとは姉妹のように育ち、全く揉めていない。
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