モブなのに巻き込まれています ~王子の胃袋を掴んだらしい~

ミズメ

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番外編置き場

裏庭のシャウラ

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 ○シャウラがアルデバランたちに全てを打ち明けてから卒業パーティー後まで


 ーーーーーーーーーーーーー



 ある晴れた日の学園で、シャウラは今日も畑を耕していた。

「ええっと。殿下。女性と話している時に、別の女性の話をするのはタブーだと思います」
「女性といっても、従姉妹だ。親族だろう」
「それでも、気にするものですよ。村の女性たちもそう言っていました。デリカシーのない男たちだわ!って」

 シャウラの言葉に、アルデバランは「そうか……」と相槌を打ったまま黙り込む。
 それを尻目に、シャウラは畑作業を再開する。
 種まきをして芽吹いたもののうち、あまり密にくっついているものは間引きをするのだ。

 ――あの日、アルデバランとアークツルスに全てを打ち明けてから、彼らは日を開けずに代わる代わるこの裏庭菜園に現れて、シャウラと話をしていく。
 そしてそれはその2人だけではなく、カストルやメラク、教師のベイドまでもが含まれたローテーション形式となっている。
 なんでも、シャウラと皆の親密性を周囲に示すための作戦だという。

 そしてなぜか、アルデバランの日になると、こうしてちょこちょこと恋愛相談を聞く羽目になった。
 シャウラは、村の若い女性からベテラン主婦まで、井戸端会議に混じって聞きかじった話を彼に伝えるのだ。
 きゃっきゃうふふのロマンス小説と比べて、村の人々の話は現実味があって、そちらのアドバイスのほうが真実のように思える。

「……アナベル様って、あの可愛い方ですよね。その方を目の前で褒められたら、比較されたように感じると思います」

 一度だけ、公爵令嬢の姿を見たことがある。
 ストロベリーブロンドの髪は、同じピンク系である自分のものと比べて遥かに色艶がよく、さらさらと流れていたし、透明感のある大きな空色の瞳はとても綺麗だった。
 そんな彼女の話を目の前でされたら、誰だって嫌だろう。
 ――たとえ、ベラトリクス様であっても。

「そうか。今後は気をつける」

 神妙な顔でそう頷くアルデバランの姿に、シャウラの胸はちくりと痛む。
 彼がこうして悩んでいるのは、全て婚約者のためだというのに。彼女に好かれるために、どうしたらいいか考えているだけだというのに。
 一体全体どうして、こんな不毛なことになってしまったのだろう。

 皆の前ではにこやかな彼が、自分の前だとこうして素直に話を聞いてくれるのが嬉しいから?
 農業に勤しむ自分を、蔑まないから?

 ぐるぐると考えたって、結果は同じだ。
 シャウラは、間引かれて端によけられた眼前の野菜の苗に視線を落とす。
 育つ前に土から抜かれたそれらは、間もなく萎れていくだろう。
 その苗の様子にどことなく自分の気持ちを投影しながら、シャウラはアルデバランと話をしつつ、作業を続けた。




 ◇



 さくり、と芝を踏む音にシャウラは俯いていた顔をあげる。
 もう学園の裏庭には畑はないというのに、以前の習慣のとおりにこうして足を運んでしまい、物思いに耽っていたのだ。

「――やはり、ここにいたのか」

 そこに立っていたのは、青髪の騎士であるカストルだった。
 例の作戦中、何度か放課後を共に過ごしたが、わりかし寡黙な彼との時間は、農作業を続けるシャウラにとって心地が良かった。

 だけどもう、卒業パーティーも終わって進級した今となっては、ここに集まることはないとシャウラは思っていたのだ。

「はい。ここは落ち着くので。……もう野菜はないですけどね」

 予想外の人物の登場に驚きながらも、シャウラは悪戯っぽく笑顔を作る。
 菜園にしていた花壇には、元の目的どおりに色とりどりの花が咲いている。

 男爵家の財政はなんとか持ち直した。
 あの時、アルデバランたちに協力したことで、先に侯爵家の手先になっていたことは帳消しとなり、家の没落は免れた。
 そもそもの借金の原因も、侯爵たち一派が逮捕されたことで詐欺紛いであった事が判明した。
 裕福とまではいかないが、学園でまで自給自足の生活をする必要はなくなったのだ。

「そうか……俺もだ」

 言いながら、カストルは木陰へと座り込む。
 そういえば、彼がよくあの木陰で居眠りをしていたことを思い出して、シャウラはくすりと笑った。

 今日はクラスに転入生が来た。
 それはシャウラもよく知る人物で、あの卒業パーティーで周囲を騒然とさせた女の子だった。

 平民として過ごしながら、実は貴族の血筋で、現在は公爵令嬢となり、第2王子の婚約者として大々的に発表された彼女――ミラ=バートリッジはこの春から同級生となる。

 そしてそんな彼女の傍で、昨年までの1年間、教室で笑みのひとつも見せた事がなかった第2王子その人が終始楽しそうにしていたのはシャウラにも他のクラスメイトにも衝撃だった。

 "あの人"も、婚約者の前ではそうなのだろうか。
 ……きっと、そうなのだろう。

 学園ではアルデバランとベラトリクスが一緒に過ごすところを見たことがなかったシャウラだったが、卒業パーティーの日に並び立つふたりの姿を見て愕然としたことを思い出したのだ。


「……今日は、レグルス殿下の豹変ぶりに驚きましたね」
「……ああ」
「眠いですか? わたしいない方がいいです?」
「いや、そんな事はない。……そこにいてくれ」
「わかりました。お互いぼーっとしておきましょう」

 シャウラとカストルの間には心地よい風と、沈黙が流れる。

 お互いの胸中にそれぞれの遂げられない想いを抱きながら、2人はこの穏やかな時間を共有したのだった。
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