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番外編置き場

推しは誰?

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○ミラ、スピカ、ベラトリクスの女子会
○アークツルス視点
○時系列は卒業パーティー後、ミラとスピカは2年生のある日の週末
○深夜のテンションで書いたのでわちゃわちゃしてますが、折角なのであげておきます……_φ(・_・

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『――ねえねえベラさん、実際のところ、推しキャラって誰だったんですか?』
『そういうスピカは誰が好みだったの?』

 ここはロットナー侯爵家の1室。
 中から聞こえて来た会話に、スピカを迎えに来たアークツルスはぴたりと足を止めた。

 ここまで自らを案内してくれたメイドは下がらせ、ひとまず扉の前で深呼吸をする。

 "推し"という意味は全く分からないが、"好み"の意味は分かる。

『わたしですかぁー』と呑気な声が部屋から聞こえてくる。それは確かに愛する婚約者のものだ。アークツルスはその先が気になって仕方がない。
 突然迎えに来て驚かせようと思ったが、反対に驚かされているこの現状――とりあえず彼はこのまま息を潜めることにした。

『全員攻略しましたけど、一番萌えたのはベイド先生のシチュエーションですね。禁断の教師もの……最高でした! というか色気がすごかったです』
『そうなのね』
「っ!」

 思わず扉をぎゅうと握りしめてしまったアークツルスは、声にならない声をあげて、スピカの回答に驚いた。婚約者は教師のベイドが好みだったらしい。
 扉を1枚隔てた向こう側では、きゃいきゃいと楽しそうな声が上がっているのに、とても遠い世界のように感じる。

 確か今日はスピカと共にミラもいるはずだ。気の置けない仲とも言えるこの3人組は、あけすけとこんな話をするようになっていたようだ。

「アーク、何をしているんだ、というか、どうしてここに……」

 アークツルスが入室を躊躇っているところに、声がかかる。
 怪訝そうな顔をした親友のアルデバランがそこに立っていて、彼の右手には赤い薔薇のミニブーケが握られている。

 彼もまた、婚約者を驚かせようと来たらしい。

「……アラン、静かに……!」

 口の前で人差し指を立て、ジェスチャーをしながら小声でそう伝えると、アルデバランは素直にそれに従い、アークツルスの隣へとやって来た。

『それでそれで、ベラさんの好みは? やっぱり歳上ですか? もしかしてイケオジ枠のジーク様⁉︎』

 この話はまだ続くらしく、スピカは楽しそうにベラトリクスに話を振っている。
 彼女たちは、まさかこうして男2人が扉の前で盗み聞きをしているとは夢にも思わないだろう。

 アークツルスは、アルデバランが硬直したのを一瞥すると、さらに耳をそばだてた。

『わたくしは……わんこ枠のメラクがお気に入りだったわ』
『ええっ、ベラさままさかの歳下好きなんですか!』
『意外ですね……! あ、でも言われてみればお似合いのような』
『ふふ、わたくし、可愛いものが好きなのよねぇ』

 ベラトリクス嬢は可愛い物好き、という情報を無意識にインプットしてしまう自身の癖に辟易しながらもアークツルスがアルデバランを見遣ると、彼はくるりと踵を返そうとしていた。

 ショックだったらしい。

『それで、ミラはどうなの?』

 ベラトリクスは今度はミラに話を振っている。
 なんだか嫌な予感がしてアークツルスは後ろを振り返る。

「兄上、どちらに行かれるんですか?」

 ――やはり、レグルスもこの場に現れたようだった。

 彼は虚な目でこの場を去ろうとする兄を引き留め、不思議そうな顔でアークツルスの近くへとやって来る。

『私ですか……私は乙女ゲームはやったことがないので……』
『そういえばそうだったわね。ほらでも、好みってあるじゃない』
『ミラは唯一既婚者なんだしねぇ』

「!?」

 "既婚者"という単語に驚いたのはアークツルスだけではない。もちろんレグルスもしっかりと固まってしまっている。彼女はもちろん未婚だ。なのに何故既婚者という単語が飛び出してくるのだろう。

 そろそろ突撃しなくては、こちらの心臓が持たないかもしれない。


『――あ。同い年の幼馴染……でしたね』
『なるほど~! 幼馴染、確かにミラにぴったり!』
『そういうことね。……さっきからなんだか廊下が騒がしい気がするわ。わたくし少し見てくるわね』

 想像がつかない会話の応酬に耐えかねたアークツルスがそう思った矢先に、がちゃりと扉が開いてしまった。


「――あらまあ、皆さまお揃いで……」
 ベラトリクスの手によって扉が開けられた時、なんとなく横並びに整列していた彼らは三者三様の様相でそれぞれの婚約者を眺める。

「べ、ベラ……君はその、やっぱり他に好きな男が」
「アラン。やっぱり、とはどういうことですの? 先ほどの会話を聞いていらしたのね」

 慌てた様子のアルデバランは婚約者のベラトリクスに詰め寄るように迫っているが、逆に迫られているように見えるのはどうしてだろう。

「あ、レオ! 来てくれたの。ありがとう!」
「う……うん。さっきのは……いや、いいか」
「?」

 ミラが笑顔でレグルスに駆け寄ったため、彼はもう聞くことをやめたらしい。既婚者という言葉はかなり衝撃的で、ある意味キャパオーバーしたのではないだろうか。
 

「アーク様、もしかして聞いてた……?」
「ーーううん。何も聞いてないよ」

 恐る恐るといった顔で自分を見上げるスピカに、そういつもの笑顔で答えてしまうアークツルスは、初めて自分の二面性が疎ましく思えてしまったのだった。






「……ええっと、アークツルス君。君はもう卒業したよね……?」
「ええ。ですが、先生から学びたいことがありまして」

 ーー数日後の学園では、既に卒業したはずのアークツルスが教師のベイドを訪ねていたという。
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