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番外編置き場
はじまりのはなし
しおりを挟む○レオとセイが初めてこの宿屋に立ち寄った日
○小さな町編「流行ったらしい」の裏側
ーーーーーーーーー
「レグルス殿下、もう間もなく到着です」
馬車に揺られてうとうととしていたレグルスは、護衛騎士のシリウスの声に顔を上げた。
将来的に臣籍降下することが決まっている彼は、叔父であるバートリッジ公爵の勧めで視察のために様々な町を回っている。
『せっかくの機会だ。幼い頃から見聞を広めておいで。城にいるだけでは、学ぶことは少ない』
笑顔でそう言っていた叔父の言に従い、山の近くにある鍛冶屋の町での視察を経て、こののどかな小さな町で宿を取るのだ。
「……何もないな」
馬車から降りると、本当に何もない。穏やかな風景が広がるのみだ。
ここで得られるものなど、何かあるのだろうか。城で兄のように勉強する方がいいのではないか。
だがそれは、王とはならない自分には不要だと言うことなのだろうか。ただ1年、たった1歳の差なのに、兄であるアルデバランとレグルスの周囲の様相は全く異なる。
未だに昇華しきれない思いを抱えたレグルスは、叔父から絶対に宿泊するようにと言われた宿屋に向かいながらそう呟くのだった。
◇
「お待たせしました。かけうどん2つです」
シリウスと共に案内された席に座ると、目の前にはうどんが配膳された。運んでいるのは、自身とあまり歳の変わらない少女だ。
「あ、あの、これは何ですか……?」
王都にいる際、叔父に連れられてうどんを食べに行った事はあったレグルスだったが、うどんと共に運ばれて来たのは山盛りの何かと刻まれた何かだ。
シリウスに目を向けると彼も同様に驚いていて、少女にそう問いかけている。
「これは"天かす"というものです。揚げてあるのでサクサクですよ。お好みの量をうどんに入れてくださいね。スープに浸るとぷわぷわになります。そうですね、初めてならまずは軽くスプーン2杯程度入れるといいと思います。香草も様子を見て好みに合わせてくださいね」
「天かす……?」と小さく呟きながら、護衛であるシリウスは少女に言われたとおりにする。
かけうどんのスープに浸ると、天かすはしゅうしゅうとそのスープを吸い込んでいく。
その様子を見て、思わずレグルスはごくりと唾を飲む。
なんだか分からないが、とても美味しそうだ。
「……! 美味しいです! でん……じゃなくて、レオも食べて見てください」
毒見のために先に食べたシリウスは、そのネオンブルーの瞳を大きく見開くと、その器をレグルスの方へと渡す。
"殿下"と呼びそうになっている彼に苦笑しながら、レグルスはその器を受け取った。
「では、失礼しますね」
笑顔の少女が去った後、レグルスはそのうどんへと手を伸ばす。
天かすは彼女が言う通りにサクサクでぷわぷわで、そこに香草の香りがアクセントになり、麺を食べる手が止まらない。
シリウスとレグルスは、無言で麺をすすり、あっという間にうどんを食べ終えた。
ぽかぽかとした温かさに、満たされた気持ちになる。
「うどんがこんなに美味しいと思ったのは初めてだ」
「そう……ですね。とても美味しかったです。気付きませんでしたが、私たちはとてもお腹が空いていたのですね」
シリウスが照れたように微笑むのを見て、レグルスも自然と笑顔になる。
この町についた時のぽっかりとした空虚な気持ちは、今はそれほど感じない。あるのは心地よい満足感だけだ。
「……この町にはどのくらい滞在するんだ?」
「明日の昼にでもと思っていましたが……少しゆっくりされますか?」
「そう……だな。ここで急いだって仕方がない。せっかくの機会だから少し羽を伸ばそう」
「そうですか。とてもいいと思いますよ。私はここの宿の主人とも話をしてみたいと思っていましたので」
部屋に戻ったレグルスがシリウスから話を聞くと、この宿屋の主人は、叔父がまだ第2王子だった頃ーーちょうど今のレグルスと同じ歳の頃に彼の護衛を務めていた騎士であったという。
そして現在の騎士団長の親友でもあったらしい。
そうして旅程を伸ばしたふたりは、"たまごのうどん"に出会い、さらなる衝撃を受ける。
そしてその料理を作った少女の笑顔は、レグルスにとって忘れられないものとなる。
「また、来てくださいね」
旅立つ時に彼女から言われたその言葉を胸に、レグルスは王都に戻ってからも研鑽を積むのだった。
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