大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ

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「アーサー殿下。どういうことでしょうか」

 震える足を叱咤しながら、フェリシアは大好きな婚約者の名を呼んだ。

 悲しいかな、こんなに驚いているというのに、顔色ひとつ変わらない。

(わっ、わたくしに何か落ち度があったのでしょうか……っ。いえもちろん、落ち度ばかりとは分かっていますけれど……!)

 フェリシアの心の中は大変に荒れ狂っているというのに、感情を外に出すことはできない。

 常に凛とすべきとされている王妃教育の賜物で、自分の気持ちを言葉にすることもすっかり苦手になってしまった。

 せめて理由だけでも、と思ったフェリシアが勇気を出して足を一歩前に踏み出すと、離れたところにいるアーサーが、同じように一歩後ろへと下がった。

 フェリシアがもう一歩進めば、彼もまたもう一歩下がる。

「あの……?」


 どういうことだろう。

 一向に二人の距離が縮まらない。

 むしろ彼のほうが足が長く大股である分、その差は開くばかりだ。


「っ、フェリシア。先ほど述べたとおりだ。すまないが、これからしばらく会うことはできない。打ち合わせについては後日に予定を延期させてくれ」

「殿下、どうしてですか? しばらくとはいつまででしょう?」

 フェリシアが言い募ると、アーサーは困ったように眉尻を下げた。

「……それは、分からないんだ。問題がなくなれば、私の方から手紙で連絡する。ああそうだ。このせいで明後日の夜会は欠席することになるだろう。こちらの都合で申し訳ない。侯爵には今日中に私の方から話しておくから」

 いつも楽しくおしゃべりをしていたはずなのに――向こうがどうだったのか、今となっては分からないけれど、少なくともフェリシアはとても楽しかった。

 傍から見れば無表情だったから、つまらなく見えたかもしれないけれど、毎回ドキドキソワソワとしていたのだ。

 だというのに、こうして物理的にもずっと距離を置かれたままなのは堪える。
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