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番外編置き場
あの子が変だ -テオフィル視点-
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◇10歳、サラの結婚式のあと
ーーーーーーーーーーーーーー
ヴァイオレットが変だ。
ロートネル侯爵家で執り行われた使用人の結婚式以降、彼女の様子がおかしい。
彼女が急によそよそしくなった理由が分からなくて、リシャール公爵家の嫡男、テオフィルは頭を抱えた。
◇
母フリージアが懇意にしているロートネル侯爵家の1人娘であるヴァイオレットとは、7歳の時に出会った。
「今日はロートネル侯爵家のお嬢さんもご招待したのよ~テオのひとつ歳下で、とっても利発なお嬢様らしいわ。あの宰相が溺愛してるらしいの」
お茶会の日の朝、朝食を終えたテオフィルに、フリージアは楽しそうに話しかける。
一方のテオフィルは、お茶会に乗り気ではなかった。
それは、自分の立場を思ってのことだ。
7歳と言えど、公爵家の嫡男であることは理解している。
いずれ公爵家を継ぐ者として家庭教師も複数ついているし、いつも大人の目が向いていることは幼い頭でも理解できる。
だから今日のお茶会で、招待されたご令嬢たちの相手をしなければならないであろうのことも分かっていた。
それがとても苦手だ。
もっと小さい頃から色々な場に連れ出されていたテオフィルは、勉強していたほうがマシだとさえ思う。
「……そうですか」
「テオフィルにお願いがあるのよ~。わたくしローズとふたりでお茶がしたいから、その間にローズの娘ちゃんと薔薇園を散策してくれないかしら?」
テオフィルは正直面倒だと思ったが、そんな回答は眼前の母から許されそうもない。
提案をしているようでいて、テオフィルがそのご令嬢を案内することはもはや決定事項なのだろう。
「はい、母様。分かりました」
「頼むわね~!その間は他のお嬢さんたちの相手はしなくてもいいからね。ふふ、今日はみんな気合い入っていると思うわぁ~だって、殿下もいらっしゃるんですものね」
何という交換条件だろう。
確かに今日はこの国の王子のアルベールも参加することになっていた。
同世代の貴族子息たちの顔合わせも兼ねているお茶会なのだ。
この中から、将来の婚約者候補や側近候補が選ばれる可能性は高い。
だからこそ、招待された者たちは自分やアルベールの周りに集まるだろう。
それならば、たくさんの令嬢の相手をするより、そのご令嬢1人の相手をしていた方が楽そうだ。
そんな思惑もあり、テオフィルは母の言にこくりと頷いた。
「はじめまして。ロートネル侯爵家の長女、ヴァイオレットと申します」
薔薇園で引き合わされたヴァイオレットは、テオフィルの目を真っ直ぐに見て自己紹介した。
頭を下げたので、菫色の髪がふわりと風にそよぐ。
テオフィルは彼女をじっと見つめてみたが、向こうも向こうで自身を眺めている。
他のご令嬢のように、浮き足立つようでも、値踏みするようでもない、単純な好奇心のような視線。
琥珀の瞳と目を合わせているのが気恥ずかしくなったテオフィルは、彼女からさっと目を逸らし、母との約束どおり庭園を案内することにした。
そしてやはり彼女が、他のご令嬢たちとは違う存在であるのとを再確認したのだった。
◇
「レティ、なんか最近変だよね」
そう言いながら公爵家のサロンで紅茶を飲むのは、友人でもある第1王子のアルベールだ。
考え事をしていたテオフィルは、その言葉に現実に引き戻される。
3人でよく会っていたから、彼も彼女の変化に気付いたのだろう。
いつもなら、今日だって3人でお茶会でもやって良さそうなのに、ヴァイオレットには用事があるからと誘いを断わられた。
なんでも、家庭教師がまた増えて、あまり自由な時間がないという。
「そうだな。あの結婚式の時に体調不良で屋敷に引っ込んでから、おかしい」
「僕が侯爵家に着いた時にはもうレティはいなかったからねぇ。会いたかったな」
「………」
「テオが何か言って怒らせたんじゃない?いっつも不機嫌そうにしてるじゃないか」
アルベールは冗談めかして言っているが、本心が透けて見える気がする。
そして、何となく思い当たる節があるような気がするテオフィルは、反論出来ないのだ。
アルベールに内緒で、ヴァイオレットに贈り物をした。
それが原因だとは思いたくないが、テオフィルがいつもと違う行動をとったことと言えば、そのことしか思い浮かばない。
あの行動が原因でヴァイオレットに嫌われたのだろうか。
でもあの時、喜んでくれていたよな?
「……僕たちもこれから忙しくなるから、今のうちに自由に会っておきたかったね」
「ああ、そうだな」
アルベールは次期王として、様々なことを学ばねばならない。
それは、いずれ公爵となるテオフィルも同じで、領地経営のことなど学ぶことは山積みだ。
13歳になれば2年間学園にも通わなければならない。
そうしたら、ひとつ歳下のヴァイオレットが入学するまでの1年はますます会えなくなるだろう。
アルベールの話に適当に相槌を打ちながら、テオフィルはますます頭を悩ませるのだった。
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ヴァイオレットが変だ。
ロートネル侯爵家で執り行われた使用人の結婚式以降、彼女の様子がおかしい。
彼女が急によそよそしくなった理由が分からなくて、リシャール公爵家の嫡男、テオフィルは頭を抱えた。
◇
母フリージアが懇意にしているロートネル侯爵家の1人娘であるヴァイオレットとは、7歳の時に出会った。
「今日はロートネル侯爵家のお嬢さんもご招待したのよ~テオのひとつ歳下で、とっても利発なお嬢様らしいわ。あの宰相が溺愛してるらしいの」
お茶会の日の朝、朝食を終えたテオフィルに、フリージアは楽しそうに話しかける。
一方のテオフィルは、お茶会に乗り気ではなかった。
それは、自分の立場を思ってのことだ。
7歳と言えど、公爵家の嫡男であることは理解している。
いずれ公爵家を継ぐ者として家庭教師も複数ついているし、いつも大人の目が向いていることは幼い頭でも理解できる。
だから今日のお茶会で、招待されたご令嬢たちの相手をしなければならないであろうのことも分かっていた。
それがとても苦手だ。
もっと小さい頃から色々な場に連れ出されていたテオフィルは、勉強していたほうがマシだとさえ思う。
「……そうですか」
「テオフィルにお願いがあるのよ~。わたくしローズとふたりでお茶がしたいから、その間にローズの娘ちゃんと薔薇園を散策してくれないかしら?」
テオフィルは正直面倒だと思ったが、そんな回答は眼前の母から許されそうもない。
提案をしているようでいて、テオフィルがそのご令嬢を案内することはもはや決定事項なのだろう。
「はい、母様。分かりました」
「頼むわね~!その間は他のお嬢さんたちの相手はしなくてもいいからね。ふふ、今日はみんな気合い入っていると思うわぁ~だって、殿下もいらっしゃるんですものね」
何という交換条件だろう。
確かに今日はこの国の王子のアルベールも参加することになっていた。
同世代の貴族子息たちの顔合わせも兼ねているお茶会なのだ。
この中から、将来の婚約者候補や側近候補が選ばれる可能性は高い。
だからこそ、招待された者たちは自分やアルベールの周りに集まるだろう。
それならば、たくさんの令嬢の相手をするより、そのご令嬢1人の相手をしていた方が楽そうだ。
そんな思惑もあり、テオフィルは母の言にこくりと頷いた。
「はじめまして。ロートネル侯爵家の長女、ヴァイオレットと申します」
薔薇園で引き合わされたヴァイオレットは、テオフィルの目を真っ直ぐに見て自己紹介した。
頭を下げたので、菫色の髪がふわりと風にそよぐ。
テオフィルは彼女をじっと見つめてみたが、向こうも向こうで自身を眺めている。
他のご令嬢のように、浮き足立つようでも、値踏みするようでもない、単純な好奇心のような視線。
琥珀の瞳と目を合わせているのが気恥ずかしくなったテオフィルは、彼女からさっと目を逸らし、母との約束どおり庭園を案内することにした。
そしてやはり彼女が、他のご令嬢たちとは違う存在であるのとを再確認したのだった。
◇
「レティ、なんか最近変だよね」
そう言いながら公爵家のサロンで紅茶を飲むのは、友人でもある第1王子のアルベールだ。
考え事をしていたテオフィルは、その言葉に現実に引き戻される。
3人でよく会っていたから、彼も彼女の変化に気付いたのだろう。
いつもなら、今日だって3人でお茶会でもやって良さそうなのに、ヴァイオレットには用事があるからと誘いを断わられた。
なんでも、家庭教師がまた増えて、あまり自由な時間がないという。
「そうだな。あの結婚式の時に体調不良で屋敷に引っ込んでから、おかしい」
「僕が侯爵家に着いた時にはもうレティはいなかったからねぇ。会いたかったな」
「………」
「テオが何か言って怒らせたんじゃない?いっつも不機嫌そうにしてるじゃないか」
アルベールは冗談めかして言っているが、本心が透けて見える気がする。
そして、何となく思い当たる節があるような気がするテオフィルは、反論出来ないのだ。
アルベールに内緒で、ヴァイオレットに贈り物をした。
それが原因だとは思いたくないが、テオフィルがいつもと違う行動をとったことと言えば、そのことしか思い浮かばない。
あの行動が原因でヴァイオレットに嫌われたのだろうか。
でもあの時、喜んでくれていたよな?
「……僕たちもこれから忙しくなるから、今のうちに自由に会っておきたかったね」
「ああ、そうだな」
アルベールは次期王として、様々なことを学ばねばならない。
それは、いずれ公爵となるテオフィルも同じで、領地経営のことなど学ぶことは山積みだ。
13歳になれば2年間学園にも通わなければならない。
そうしたら、ひとつ歳下のヴァイオレットが入学するまでの1年はますます会えなくなるだろう。
アルベールの話に適当に相槌を打ちながら、テオフィルはますます頭を悩ませるのだった。
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