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番外編置き場
侯爵家の朗らかな1日
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ロートネル侯爵家の利き毒クイズ
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そよ風に揺れる木々の隙間から陽の光が洩れ出すうららかな春の日の午後。
ロートネル侯爵家の庭園では、とあるお茶会の準備が進められていた。
「サラ、今日は何人参加するの?」
数ヶ月前に12歳の誕生日を迎えたばかりの侯爵家の長女ヴァイオレットは、廊下を歩きながら後ろに控える侍女にそう問いかける。
「はい、お嬢様。本日はメイド、執事、料理人がそれぞれ10名と、庭師から2名となっております」
「庭師?今回は庭師も来るの?」
「ええ。最近、毒草の栽培と研究を始めたようです。そして3回目の開催となる今回は、執事、料理人チームの2勝目とメイドチームの初勝利がかかっていますので、各陣営気合が入っています……!」
「いつからチーム対抗戦になってたの?!」
そんなヴァイオレットの言葉に、サラはきょとんと首を傾げる。「最初からですよ?」と告げれば、ヴァイオレットは諦めた目をして頷くしかない。
(どこの家でもやっているのよね、きっと)
産まれてこの方、ロートネル侯爵家で育っているのだ。他家のことはよく分からない。
前世の乙女ゲームを思い出したことにより距離を置いていなければ、今頃リシャール公爵家のテオフィルあたりに確認出来たのだろうが、生憎ヴァイオレットにその機会は訪れなかった。
ヴァイオレットが父であるブライアムに婚約者のことで相談した結果、淑女教育に力を入れるという方針になり、王宮での座学やマナー教育などに加え、侯爵家ではダンスレッスンやこれまた座学……本当にゆっくりする暇がないほどのスケジュールとなった。
そして、毎週行なっているのが実習形式の様々な危機管理講習だ。
本日のテーマは『毒』。
他には監禁された時の鍵開けや、手を縛られた時の縄抜け、ハイヒールとドレスのフル装備からのダッシュなど講習の項目は多岐に渡る。
(貴族令嬢って、実は大変だったんだ……知らなかった)
もちろんこれは一般的な淑女教育ではないが、そのことをヴァイオレットが知ることはない。
毒講習の時には、これまでもちょこちょこと色んな種類の毒物や薬を紅茶やお菓子に混ぜて訓練をして来た。使用人一丸となって。
それをこうして大規模なお茶会スタイルで開催するのは今回で3回目。最初は使用人の誰かが提案した、『本当のお茶会の雰囲気でやってみませんか?』というひと言がきっかけだったと思うが、今では四半期ごとに開催される侯爵家のイベントのひとつになっている。
日々の訓練の成果を発揮するまたとない機会なのだ。
ヴァイオレットが花が咲き乱れる庭園に到着したときには、普段のお茶会さながらにセッティングされたガーデンテーブルの周囲に、メイド、執事、料理人、そして庭師がずらりと並んでその到着を待ちわびていた。
見るからにメラメラと背後に熱い炎が燃えたぎる使用人たちを見てヴァイオレットは一瞬怯みそうになるが、すぐに気を取り直した。
「皆さん、今日は忙しい中に集まってくれてありがとう。実りある講習にしましょうね」
「はい、ヴァイオレット様。この戦いに勝利して、私たちの忠誠心をお見せします」
紺色のお仕着せのスカートを翻しながら、深く礼をするのはメイドたちだ。
「ふふ、2勝目を手にするのは、我ら執事です。お嬢様、見ていてくださいね」
執事たちは胸に右手をあて、ぴしりとした礼を見せる。
「腹に入るものについては、俺たちがプロだ!お嬢様、料理人魂を見ていてくださいよっ」
被っていたコック帽を脱ぎ、料理人たちもヴァイオレットに向けて礼をした。
「わしらが育てた毒じゃ、見ておれ若造ども!」
今回初参加となるベテラン庭師とその弟子も気合い十分である。
「……ねえ、サラ。この講習はこんなに熱いものだったかな……?」
「ええ、お嬢様。私と侍女見習いのアンナ、そしてお嬢様で組織されるこの"お嬢様チーム"も今回初参加です!優勝目指して頑張りましょうね!」
「うん……ってサラ、あなた来月には出産でしょう?参加しないでよ。アンナとふたりで頑張るから」
「サラさん、私に任せてください!」
ガッツポーズをつくるアンナを見て、サラは大きくなったお腹をさすりながら微笑む。
その様子にヴァイオレットはほっと息をついた。
本当はもうサラには仕事自体休んで欲しいのだけど、ギリギリまで働きたいという本人の意向を尊重して、ヴァイオレットの話し相手兼アンナの教育係ということで落ち着いた。
料理人チームにいる旦那様のキースも心配そうにサラをちらちらと見つめている。
朗らかな春の日。
注がれた紅茶に盛られた毒が何なのかを当てる利き毒クイズは今回も大盛況だ。
各陣営が凌ぎを削る火花ばちばちの争いとなったが、最後はみんなで解毒用の特製プリンを食べてにこやかに解散となった。
ちなみに、この第3回大会(?)に関しては大会初参加の侍女見習いアンナが意外な才能を発揮し、全問正解という好成績を叩き出して見事お嬢様チームを優勝に導いた。
(ホントに、どこの貴族令嬢もこれやってるんだよね……?)
ヴァイオレットの胸に沸き起こるその漠然とした疑問に答えが出るのは、およそ1年後のこととなる。
そして、各陣営は夏に開催される予定の第4回利き毒ティーパーティーに向け、闘志を燃やすのであった。
おしまい
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そよ風に揺れる木々の隙間から陽の光が洩れ出すうららかな春の日の午後。
ロートネル侯爵家の庭園では、とあるお茶会の準備が進められていた。
「サラ、今日は何人参加するの?」
数ヶ月前に12歳の誕生日を迎えたばかりの侯爵家の長女ヴァイオレットは、廊下を歩きながら後ろに控える侍女にそう問いかける。
「はい、お嬢様。本日はメイド、執事、料理人がそれぞれ10名と、庭師から2名となっております」
「庭師?今回は庭師も来るの?」
「ええ。最近、毒草の栽培と研究を始めたようです。そして3回目の開催となる今回は、執事、料理人チームの2勝目とメイドチームの初勝利がかかっていますので、各陣営気合が入っています……!」
「いつからチーム対抗戦になってたの?!」
そんなヴァイオレットの言葉に、サラはきょとんと首を傾げる。「最初からですよ?」と告げれば、ヴァイオレットは諦めた目をして頷くしかない。
(どこの家でもやっているのよね、きっと)
産まれてこの方、ロートネル侯爵家で育っているのだ。他家のことはよく分からない。
前世の乙女ゲームを思い出したことにより距離を置いていなければ、今頃リシャール公爵家のテオフィルあたりに確認出来たのだろうが、生憎ヴァイオレットにその機会は訪れなかった。
ヴァイオレットが父であるブライアムに婚約者のことで相談した結果、淑女教育に力を入れるという方針になり、王宮での座学やマナー教育などに加え、侯爵家ではダンスレッスンやこれまた座学……本当にゆっくりする暇がないほどのスケジュールとなった。
そして、毎週行なっているのが実習形式の様々な危機管理講習だ。
本日のテーマは『毒』。
他には監禁された時の鍵開けや、手を縛られた時の縄抜け、ハイヒールとドレスのフル装備からのダッシュなど講習の項目は多岐に渡る。
(貴族令嬢って、実は大変だったんだ……知らなかった)
もちろんこれは一般的な淑女教育ではないが、そのことをヴァイオレットが知ることはない。
毒講習の時には、これまでもちょこちょこと色んな種類の毒物や薬を紅茶やお菓子に混ぜて訓練をして来た。使用人一丸となって。
それをこうして大規模なお茶会スタイルで開催するのは今回で3回目。最初は使用人の誰かが提案した、『本当のお茶会の雰囲気でやってみませんか?』というひと言がきっかけだったと思うが、今では四半期ごとに開催される侯爵家のイベントのひとつになっている。
日々の訓練の成果を発揮するまたとない機会なのだ。
ヴァイオレットが花が咲き乱れる庭園に到着したときには、普段のお茶会さながらにセッティングされたガーデンテーブルの周囲に、メイド、執事、料理人、そして庭師がずらりと並んでその到着を待ちわびていた。
見るからにメラメラと背後に熱い炎が燃えたぎる使用人たちを見てヴァイオレットは一瞬怯みそうになるが、すぐに気を取り直した。
「皆さん、今日は忙しい中に集まってくれてありがとう。実りある講習にしましょうね」
「はい、ヴァイオレット様。この戦いに勝利して、私たちの忠誠心をお見せします」
紺色のお仕着せのスカートを翻しながら、深く礼をするのはメイドたちだ。
「ふふ、2勝目を手にするのは、我ら執事です。お嬢様、見ていてくださいね」
執事たちは胸に右手をあて、ぴしりとした礼を見せる。
「腹に入るものについては、俺たちがプロだ!お嬢様、料理人魂を見ていてくださいよっ」
被っていたコック帽を脱ぎ、料理人たちもヴァイオレットに向けて礼をした。
「わしらが育てた毒じゃ、見ておれ若造ども!」
今回初参加となるベテラン庭師とその弟子も気合い十分である。
「……ねえ、サラ。この講習はこんなに熱いものだったかな……?」
「ええ、お嬢様。私と侍女見習いのアンナ、そしてお嬢様で組織されるこの"お嬢様チーム"も今回初参加です!優勝目指して頑張りましょうね!」
「うん……ってサラ、あなた来月には出産でしょう?参加しないでよ。アンナとふたりで頑張るから」
「サラさん、私に任せてください!」
ガッツポーズをつくるアンナを見て、サラは大きくなったお腹をさすりながら微笑む。
その様子にヴァイオレットはほっと息をついた。
本当はもうサラには仕事自体休んで欲しいのだけど、ギリギリまで働きたいという本人の意向を尊重して、ヴァイオレットの話し相手兼アンナの教育係ということで落ち着いた。
料理人チームにいる旦那様のキースも心配そうにサラをちらちらと見つめている。
朗らかな春の日。
注がれた紅茶に盛られた毒が何なのかを当てる利き毒クイズは今回も大盛況だ。
各陣営が凌ぎを削る火花ばちばちの争いとなったが、最後はみんなで解毒用の特製プリンを食べてにこやかに解散となった。
ちなみに、この第3回大会(?)に関しては大会初参加の侍女見習いアンナが意外な才能を発揮し、全問正解という好成績を叩き出して見事お嬢様チームを優勝に導いた。
(ホントに、どこの貴族令嬢もこれやってるんだよね……?)
ヴァイオレットの胸に沸き起こるその漠然とした疑問に答えが出るのは、およそ1年後のこととなる。
そして、各陣営は夏に開催される予定の第4回利き毒ティーパーティーに向け、闘志を燃やすのであった。
おしまい
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