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6章 帰郷!エルフの里へ ~2人の婚約者編~

マハト村で過ごそう 〜和解した婚約者達〜

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夕食の時間くらいにエル宛に伝達魔法で連絡のあった宿屋へ向かい、皆で食事をした。
カルステッドさんが手配してくれた宿屋は、やはり村一番の宿の一番豪華な部屋だった。

軽い気持ちで、なぜ一番豪華な部屋になるのかカルステッドさんに聞いてみたら「エリュシオン様は部屋にこだわりはないが、寝具にはこだわりがある方だから、どうしても良い寝具の部屋となると一番豪華な部屋になる」とのこと。
そりゃそうなりますよね、納得です。
確かに家のベッドも野営用のベッドもふかふかでものすごく寝心地が良い。


「カルステッドさんに聞いたんだけど、エルが寝具にこだわりがあるのって固いと落ち着かないとか寝つきが悪いとか、何か理由があるの?」

食事中に興味本位で聞いてみたら、とんでもない回答が返ってきた。

「寝ているときくらいは心地よく眠りたいからな」
「ん?どういうこと?」
「昔は暗殺だの“黒は死ね”だのいろいろ言われて、夜もおちおち眠れなかった」
「へ?」
「魔法で強固な結界を張るようになってからようやく眠れるようになったが、寝具が固いとどうにも昔を思い出して身体も心も休まらぬ」

うわぁ・・・なんか予想外の答えで、軽い気持ちで聞いちゃったのが申し訳なくなってきた。

「だが、今は柔らかい寝具にお前を抱いて寝るのが・・・」
「だぁぁぁぁっ、エル、大変!ミナトちゃんの口にソースが付いてるぅぅ!!」
「う?」
「ん?あぁ、ミナト、お前はもう少し食べ方を綺麗にした方が良いぞ」

ほんっとに“好き”とか“愛してる”とかは照れくさくて言えないくせに、なんでこーゆーことはサラッと当然のように言えるのよっ!!!!
ミナトちゃん、急に矛先向けちゃってごめんね。


「・・・エリュシオン様にも、安心できる居場所ができた、ということなんですか?」

今までこっちに話しかけてこなかったクラリスさんが、突然話しかけてきた。
でも、敵意や害意があるわけじゃなくて、ただ聞いてるだけみたいだ。

「・・・あぁ、そうだ。お前も里長や親父から昔のことはいろいろ聞いてると思うが、俺はガルドニアに渡ってからもいろいろあった。“黒”であることを恨んだ時期もあったが、今は“黒”だからこそこいつらに会えたと思っている」
「“黒”だからこそ・・・ですか?」
「あぁ。そもそも、“黒”で魔力が豊富じゃなければガルドニアまで国外追放されることも、大暴れして森を半壊させてセイルに止められることも、変態マデリーヌの加護をもらって死にかけたサーヤを助けることもできなかっただろうからな」
「・・・」
「あ、あと元々暗殺者だったアルマが仲間になることもなかったでしょうね!」
「はぁ?暗殺者ですって?!」

確かに、今ここに集まっている仲間は、あたしも含めて“黒”だからこそ出会えた人達だ。
“黒”じゃなかったらそもそもエルがガルドニアへ来ることもなく、あたしはアネモネさんの策略により助けられることもなく森で死んでたわけで・・・
うわぁ・・・なんかそう考えるとものすごく恐ろしい・・・

「あの、エル・・・“黒”に生まれてくれて本当にありがとう」
「「「「「?????!!!!!」」」」」

あたしの一言に周りがピタッと固まった。
珍しくリンダやアルマさんまで食べ物よりもあたしの発言にビックリしている。

あれ?あたし、そんなに変なこと言った?自分本位な発言し過ぎた?!

「や、あのっ、ごめん、やっぱり自分勝手な発言で・・・」
「くくくっ・・・はははははははっ、サーヤ、ホントにお前って奴は」
「ぷっ、ふふふ、ホントにね。サーヤの感性がここまでおかしいなんてね☆」
「ははっ、我が主をそこまで笑わせるとは、さすがサーヤだな」
「ホントだよ~、エリュシオン様が笑うなんて数年に1度見れたら良い方だよ!」
「うん、貴重」
「うんうん、さすがはサーヤだ。俺はすごく誇らしい」

ベルナートさんは優しい笑顔であたしの頭を撫で、ミナトちゃんとカイトくんは皆が笑顔なのが嬉しくて一緒に笑っている。
なんか皆にいろいろ言われている意味が良くわからないまま、クラリスさんだけは反応が違った。

「ふふっ、なによ、それ・・・ッグズ、あんたってホントに、なんなの・・・グスッ」

えぇぇぇぇぇぇぇ??!!涙をボロボロ流しながら笑ってる???!!!
ちょっと!それってどういう感情なんですか!!!

「ぁ、あのっ、クラリスさ・・・」
「はぁ~~~~。まったく、ここまで可笑しな人間とは思わなかったわ」
「へ?」

今度は貶された?!ホントに意味が解らないっ!!!
泣きながら笑うという器用なことをしていたクラリスさんは、少し落ち着いてから言葉を続けた。

「さすがに私は、エリュシオン様に「“黒”に生まれてくれて本当にありがとう」なんて言葉は出てこないし、思うこともできないと思うわ。そんな言葉がサラッと出てくるあんたに、エリュシオン様を想う気持ちで敵うわけがない。負けよ、負け。私の完敗。・・・ま、入り込む余地なんて最初からなかったけど」
「クラリスさん・・・」
「なによ、あんたにとって邪魔者だった私が引き下がって、人間であるあんたをエリュシオン様の婚約者だと認めたのよ?ざまぁみろとか、思い知ったかとか私に言いたい言葉があるんじゃなくて?」

クラリスさんは目に涙を残したまま、精いっぱい虚勢を張りつつ本音を言っているのがわかる。
あたしが直接話したわけじゃないけど、以前と違ってクラリスさん自身が見て感じたことを、自分の意見としてちゃんと話してくれているのが凄く嬉しかった。

やだ、喧嘩してたわけじゃないけど分かり合えたみたいで嬉しくてあたしまで泣けてくる。

思わず席を立って、向かい側にいるクラリスさんに後ろから抱きついた。

「クラリスさんっ・・・ッグズ、嬉しぃ、あり、がとうっ・・・ック」
「なっ、ちょっと!なんであんたが泣いて・・・」
「おまえ、サーヤママ、なかした・・・?」
「ひぃぃっ、ちっ、ちがっ、これは・・・」
「ミナトちゃん・・・ッグズ、違うの。これはクラリスさんに対して"ありがとう、大好き“っていうぎゅぅなんだよ」
「は?好き?!」
「そうなの?じゃあ、あたしも、ぎゅ~」

あたしがクラリスさんにぎゅぅしてるところにミナトちゃんも混ざってきて、顔を赤くしたり青くしたり忙しくするクラリスさん。
エルを含めた周りの皆は、それを微笑ましく優しい瞳で見守っていた。

さすがに宿屋の食堂なので、これ以上騒ぐのもまずいから場所を変えることになり、それぞれ部屋に戻ろうとしたのだが・・・

「あたし、まだクラリスさんと一緒にいたい」
「「は?」」
「ねぇ、今夜はクラリスさんと同じ部屋で一緒に寝ても良い?」
「「良いわけあるかっ!このバカ(おバカ)!!」」
「ひどいっ!なんで2人して息ピッタリなの?!エルフだから?」
「「ツッコむのはそこなのか(ですの)??!!」」
「うぅ~・・・」


せっかく和解したんだから、クラリスさんとちゃんと話したかったのに・・・
あわよくば、エルフの里でのエルの話とか聞けるかと思ったのに・・・




結局エルがあたしを肩に担ぎ、手を振るクラリスさんに見送られながら強制的に部屋に戻ることになった。

・・・いつの間に2人は気が合うようになったんですか?
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