恋に眩む

秋空夕子

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ロラン視点

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 ロランは自室から外を眺めていた。
 日も暮れ、町が暗闇に覆われている。あちこちの窓に光が灯っているが、彼が見つめるのはそのうちの一つだけ。
「……ソフィア」
 ぽつりと呟かれた言葉は、ただの同級生の名を呼ぶにしては熱が籠っていた。



 ハミュッシュ家の当主、つまりロランの父は人格者として巷では知られている。商才に恵まれているだけではなく、それで得た利益を他者にも惜しみなく施す篤志な人物であると。
 だが、ロランに言わせればそれは間違いである。
 本当にそんな素晴らしい人物であるならば、自分の妻を軟禁状態にしないはずだ。
 ロランの母は病弱であり、養生の為に人里離れた屋敷で生活しているということになっているが、それは表向きの理由。実際は母が不特定多数の人間と接するのを嫌がった父が、周囲から隔離しているのだ。
 実の子供であるロランでさえ会えるのは月に一回程度。幸いなのは、母がそれを嫌がりもせず受け入れていることだろうか。
 聞くところによると、祖父も同じようなことをしていたらしい。つまりハミュッシュ家は代々、男が一人の女に向けた異様な執着によってここまで大きくなったのだ。
 ロランはそれを異常なことだと、正確に判断していた。
 父の母に向けた異質な愛。
 それを幼い頃から目の当たりにして来た彼にとって、愛なんてものは人を狂わせる恐ろしい存在としか思えなかった。
 自分は父のようにはならないし、恋もしない。もし結婚するにしても、見た目や性格はそこそこの女と適当に所帯を持つのだろうと、そう思っていた。
 しかし恋というものは、するものではなく、落ちるものなのだと彼は思い知ることになる。
 入学してクラスに足を踏み入れた瞬間、一人の少女から目が離せなくなった。
 顔を俯かせ、どこか居心地が悪そうに席に座っている眼鏡をかけている少女。俯いて顔を上げないその姿勢は周囲を拒絶しているように見えるのに、眼鏡のレンズからのぞく眼差しは寂しげで、まるで誰かの助けを求めているように見えた。
 欲しい、と思った。
 どんなことをしてでも、彼女を手に入れたい、否、してみせる。そう決意した。
 それから彼は準備を始めた。
 まず、彼女の身辺調査。
 家族や交友関係、性格や趣味などいろいろと調べつくし、どうすれば彼女が自分のものにできるか考えた。
 まず、友人はおらず、家族関係もうまくいってない。であれば、一度自分の傍に置けるようにすれあ後は誰にも邪魔されることはないだろう。
 そう判断して、今住んでいる下宿から出ていかなくてはいけなくなるよう策を練った。
 そして同時に、彼女が新しく住む場所も用意する。
 ここまで準備してようやく彼女と接触できた。
 初めて彼女に触れ、言葉を交わしたあの日。本当ならそのまま彼女を連れて行きたかった。
 けれど、まだその時ではないとぐっと我慢した。
 ことを強引に進めれば彼女はきっと怖がり、逃げようとするだろう。勿論、だからといって逃がすつもりは毛頭ないが、しかし、愛する彼女に愛されたままでいたい。
 彼女が自分を特別に想ってくれていることには、気づいていた。
 自分の捨てたものを後生大事に持ち帰ったり、自分と親密な関係になる妄想を夢見たり、初めて知った時は喜びのあまり気が狂うかと思った。
 しかし、だからこそ、ここまで耐えられたのだ。
 今はまだ一緒に暮らせないが、もうすでに彼女と暮らすための屋敷を作らせている。いずれはソフィアをそこに押し込めて、他の男と口を利くことも目を合わせることもなく、自分のことだけを想って暮らすのだ。
 なんて素敵なんだろう。
 その日を夢見て、彼はうっそりと微笑んだ。




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