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浜柔

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59 講師

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「講習に呼ばれて来てみれば、ザネクじゃないか!」

 ルキアスと一緒に椅子に座ってひたすら待って、待ち草臥れた頃になってザネクは声を掛けられた。声のした方を振り向けば一組の男女が立っている。男の方は胴回りと二の腕と脛を革の鎧で覆い、剣を佩いている。女の方はゆったりめのローブ姿でありながら、その豊満な肉体を隠し切れていない。
 その二人を見た途端、ザネクの瞳が驚愕に染まる。

「兄ちゃん!? リュミア姉ちゃんまで!」
「そうだ。ガノス兄ちゃんだぞー」
「あら、憶えていてくれた……の?」

 ガノスは戯けたようにニヒヒと笑い、リュミアは口角だけを僅かに上げて微笑んだ。

「そりゃ憶えてるさ!」

 ザネクは心外だとばかりに返事をした。しかしその隙に近付いたガノスがザネクの頭を掻い繰るようになで始める。

「おー、偉いぞー」
「やー、めー、ろー!」

 ザネクはガノスの手を振り払おうと奮闘する。暫しの格闘の末、ザネクは息を切らしながらもどうにか抜け出した。
 一方、ここまでルキアスは完全に置いてけぼりだ。会ってからここまでで一番子供っぽく見えるザネクを生暖かく見守るしかできていない。しかし旧交を温め続けられても埒が明かない。最初に聞こえた「講習」の言葉も気になっている。

「あのー、『講習』と言うのは?」
「おっと、すまない、すまない。俺たちは初心者講習の講師で呼ばれたんだ。お前達が生徒でいいんだな?」

 ガノスはルキアスの言葉で本分に立ち返り、ここに来た目的を告げた。
 ルキアスは素直に頷くが、嫌そうにするのがザネクだ。

「えー」

 不満が顔にありありと出る。知り合いと言うのもやりにくいのだろう。ルキアスもこれがもし自分の姉だったらと思えば判らない感情でもない。
 しかしそんな不満を向けられるガノスは面白く無さそうに鼻を鳴らす。

「なんだ、なんだ? 随分嫌そうじゃないか。兄ちゃんは哀しいぞー」

 またザネクの頭を撫で始めた。

「やー、めー、ろー!」
「ガノス、そんな事してるとまた嫌われるわ……よ?」
「おっと、そいつは勘弁だぜ」

 リュミアが一言発した瞬間にガノスは両手を挙げてザネクから離れた。

「ったく、これだからもう……」

 ルキアスはこのやりとりでガノスがザネクを構い過ぎて距離を置かれているのだと察した。しかし二人の関係までは判らない。

「えーと、この人はザネクとどう言う関係なの?」
「あー、直ぐ上の兄ちゃんなんだよ。リュミア姉ちゃんは近所に住んでただけだけど」
「あら『だけ』とは哀しいこと言うわ……ね? 昔はあんなに『リュミア姉ちゃ~ん』って後を追い掛けてくれたの……に」
「ぎゃーっ!」

 いよいよザネクは悲鳴を上げた。
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