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306 移動しましょ
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リュミアとダン老人とで回廊から頭を突き出しているシーサーペントを屠り、メイナーダが周囲のクロコダイルやメガフロッグを焼き尽くす。
周辺の安全が約束されたところでルキアスは『傘』を地面近くまで下ろし、メイナーダにユアを渡す。それからザネクと二人『傘』から降り、メイナーダに向けて頭を下げた。
「ごめんなさい!」
「すいませんした!」
ユアを抱えたメイナーダは一瞬キョトンとしたものの、直ぐに微笑ましげに相好を崩す。
「いいのよ。こうしてユアと一緒に居てくれたんだから。ユアも楽しかったわよね?」
「ん!」
メイナーダが最後にユアに尋ねれば、ユアは大きく頷いて応えた。
「え? でもクロコダイルに……」
「もう。そんな話より早くここから移動しましょ。落ち着ける場所を探さなきゃ」
「はい……」
ルキアスは落ち着かない気持ちになったが、メイナーダが不問にしようとしているものに拘るのもどうかと思って口を噤む。
それにこのままじっとしていても落ち着かないのも本当だ。周囲の魔物を一掃したからって終わりではない。殲滅範囲から外れた魔物がじわじわと寄せて来る。
皆で近場の魔石をざっと拾い集めた後、下の階層を目指す。
先頭はメイナーダ。彼女が魔物を屠りつつ先へと進み、その後を残された魔石を回収しながら他のメンバーが続く。魔物の大発生に対応してもそれそのものには報酬は出ないので、魔石でも回収しなければ全くのただ働きになって切ない限りとなってしまう。
その巨体自体が脅威のシーサーペントもメイナーダに係れば瞬殺だ。灰になるのもあっと言う間。また直ぐに後続のシーサーペント、時折クラーケンが突出するが、それらも程なく同じ運命を辿る。
ルキアスはその凄まじさに言葉も無い。ところがユアはメイナーダの魔法が起こす音が子守歌にでもなるのか、単に夜の時間だからか、いつの間にか眠っている。多少のことでは起きそうにない。
メイナーダはユアの様子を確かめた後、ルキアスを傍に呼んだ。
「ルキアスちゃん」
「はい」
メイナーダの表情が少し硬いため、ルキアスは無意識に神妙になった。
「ルキアスちゃんが気にしているようだから話しておくわね」
メイナーダがユアの服に空いた穴を指で指す。
「ユアならこの程度は大丈夫。クロコダイル程度じゃこの子の天職を破れないから」
ルキアスは一瞬言葉を無くした。
「……ユアの天職ってそんなに凄いんですか? 怪我が無かったのはその天職のお陰?」
「そう。この子は父親から暴力を受けてたのは話したわね?」
「はい」
「きっとそのせいでこの子に天職が生えたのよ。『堅固』『頑強』なんかがね……」
『堅固』『頑強』はいずれも常時発動の天職で、壊れにくさや粘り強さと言った防御力を高める効果がある。
そして天職の獲得には環境が大きく影響すると言われる。
つまりユアには防御力を高める必然があった。メイナーダの見ていない場所でのことだ。このことがユアをいつも傍に置いておこうとするメイナーダの今に繋がっている。
ルキアスはユアが置かれていただろう好ましくない状況を改めて想像して苦いものを感じた。メイナーダがユアに聞かせたくなくてユアが眠るのを待ったことも察して切なくもなった。
しかしそれ以上に、メイナーダにそれほど信頼されておらず、自分がその通りでしかなかったことに絶望的な思いを抱いた。
周辺の安全が約束されたところでルキアスは『傘』を地面近くまで下ろし、メイナーダにユアを渡す。それからザネクと二人『傘』から降り、メイナーダに向けて頭を下げた。
「ごめんなさい!」
「すいませんした!」
ユアを抱えたメイナーダは一瞬キョトンとしたものの、直ぐに微笑ましげに相好を崩す。
「いいのよ。こうしてユアと一緒に居てくれたんだから。ユアも楽しかったわよね?」
「ん!」
メイナーダが最後にユアに尋ねれば、ユアは大きく頷いて応えた。
「え? でもクロコダイルに……」
「もう。そんな話より早くここから移動しましょ。落ち着ける場所を探さなきゃ」
「はい……」
ルキアスは落ち着かない気持ちになったが、メイナーダが不問にしようとしているものに拘るのもどうかと思って口を噤む。
それにこのままじっとしていても落ち着かないのも本当だ。周囲の魔物を一掃したからって終わりではない。殲滅範囲から外れた魔物がじわじわと寄せて来る。
皆で近場の魔石をざっと拾い集めた後、下の階層を目指す。
先頭はメイナーダ。彼女が魔物を屠りつつ先へと進み、その後を残された魔石を回収しながら他のメンバーが続く。魔物の大発生に対応してもそれそのものには報酬は出ないので、魔石でも回収しなければ全くのただ働きになって切ない限りとなってしまう。
その巨体自体が脅威のシーサーペントもメイナーダに係れば瞬殺だ。灰になるのもあっと言う間。また直ぐに後続のシーサーペント、時折クラーケンが突出するが、それらも程なく同じ運命を辿る。
ルキアスはその凄まじさに言葉も無い。ところがユアはメイナーダの魔法が起こす音が子守歌にでもなるのか、単に夜の時間だからか、いつの間にか眠っている。多少のことでは起きそうにない。
メイナーダはユアの様子を確かめた後、ルキアスを傍に呼んだ。
「ルキアスちゃん」
「はい」
メイナーダの表情が少し硬いため、ルキアスは無意識に神妙になった。
「ルキアスちゃんが気にしているようだから話しておくわね」
メイナーダがユアの服に空いた穴を指で指す。
「ユアならこの程度は大丈夫。クロコダイル程度じゃこの子の天職を破れないから」
ルキアスは一瞬言葉を無くした。
「……ユアの天職ってそんなに凄いんですか? 怪我が無かったのはその天職のお陰?」
「そう。この子は父親から暴力を受けてたのは話したわね?」
「はい」
「きっとそのせいでこの子に天職が生えたのよ。『堅固』『頑強』なんかがね……」
『堅固』『頑強』はいずれも常時発動の天職で、壊れにくさや粘り強さと言った防御力を高める効果がある。
そして天職の獲得には環境が大きく影響すると言われる。
つまりユアには防御力を高める必然があった。メイナーダの見ていない場所でのことだ。このことがユアをいつも傍に置いておこうとするメイナーダの今に繋がっている。
ルキアスはユアが置かれていただろう好ましくない状況を改めて想像して苦いものを感じた。メイナーダがユアに聞かせたくなくてユアが眠るのを待ったことも察して切なくもなった。
しかしそれ以上に、メイナーダにそれほど信頼されておらず、自分がその通りでしかなかったことに絶望的な思いを抱いた。
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