魔☆かるちゃ~魔王はこたつで茶をすする~

浜柔

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147~153

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【147.座って】
 皆が食べ終わると、魔王はバーベキューの焼き台などを魔力に還元し、こたつを大きめのこたつをもう一台コピーして設置した。

「ささ、座って座って」

 オリエが軽く床を叩きながら促すと、5人パーティーは素直に従った。そこにすかさずシェフがお茶とお茶請けを配る。

「ありがとうございます」

 ヒーラーが代表するように礼を言った。

 ズズズ……。

「お茶が美味い」

 5人の様子にお構いなく、魔王はお茶を啜っていた。



【148.やっぱり】
 ズズズ……。

 5人パーティーも見よう見まねでお茶を啜る。

「え……」
「変な味」
「ちょっとこれは……」
「美味い!」
「ふぅむ」

 槍士、魔法使い、ヒーラーの口には合わず、剣士の口には合ったらしい。
 ハンターは考え込んだ。そしてもう一度茶を啜る。

 ズズズ……。

「これは慣れれれば美味いんじゃないか?」

 そう言うと、少し冷めたところで大きく一口、ごっくんと飲む。

「やっぱりな!」
「「「ええ……」」」

 剣士が頷く一方、口に合わなかった三人は声に出しながら引くのであった。



【149.薄め】
「ほんとだって。飲んでれば美味く感じるようになるから」
「そうかなぁ」

 ハンターは主張するが、魔法使いは半信半疑だ。するとハンターが暫し考えた。

「濃すぎるのかもな。薄めて飲んでみな」
「待っていロ」

 話を聞いていたシェフが薄めに煎れたお茶を出す。

「あ……」
「これなら美味しい」
「まあ、飲めなくはないな」

 ヒーラーと魔法使いが納得する一方、剣士の好みにはやっぱり合わなかったらしい。



【150.戦々恐々】
 ズズズ……。

 魔王が茶を啜った。その音で魔王の存在を思い出したように、ヒーラーが剣士の腕を軽く叩いて、小さな声で窘める。

「ゾッケン!」
「お、おう……」

 剣士も魔王から出して貰ったお茶だと思い出したらしい。僅かながら居住まいを正した。

「お前達は……」
「は、ひっ!」

 直後だったがため、5人はビクッとした。魔王の声に一番反応したのはやはり剣士だ。今度は硬直するように居住まいを正す。お茶に、ひいては持てなしにケチを付けた格好なのだ。咎められてもおかしくない。どんな罰が与えられるのか、戦々恐々と身構える。

「泊まって行くか?」
「はい?」

 魔王は剣士の言葉なんて全く気にしていなかった。お茶が全員の口に合うとは、元より考えていないのだ。
 そして剣士は魔王の今の言葉を理解していない。



【151.追い付かない】
「部屋は用意している」
「はい?」

 剣士は疑問符を浮かべるばかりで、まだ理解が追い付いていない。
 しかし魔王は気にしない。他の4人が理解すれば良いだけのことだ。

「あの奥に部屋を5つ用意している。好きに使え」

 剣士を除く4人は魔王が指差す方へと視線を向けた。

「ありがとうございます! それでは早速使わせていただきます!」

 4人が立ち上がり、槍士が剣士の腕を引いて立ち上がらせる。

「え?」

 剣士はまだ理解が追い付かないまま、引き摺られて行った。



【152.人聞き】
「びっくりしたぁ」
「心臓が止まるかと思った」
「何でもなくて助かった」
「え?」
「魔王はゾッケンの態度を何も咎めなかったのですよ」

 ヒーラーが判ってなさそうな剣士に、諭すように言った。
 剣士は目を瞬かせる。漸く理解が追い付いたらしい。

「おおっ! そうか!」
「〃「おいおい」〃」

 4人は硬直が解けたようにリラックスする剣士に白い目を向けた。

「いや、ほら、生きた心地しなかっただろ」
「まあ……な……」
「「「……」」」

 4人は本当に大丈夫なのか疑いの目を向けた。しかし、自分が剣士の立場にあったとしたら、果たして冷静でいられたか自信が持てないのも事実なので黙ってしまった。

 人聞きが悪いな……。

 魔王はこたつで茶を啜りながら聞いた5人の会話に軽く突っ込みを入れた。



【153.瘤のようなもの】
 5人パーティーは先に部屋割りを決めた。魔王の居室に近い方から槍士、ヒーラー、剣士、魔法使い、ハンターである。
 そして5人は真ん中の剣士の部屋に集まった。

「魔王って、聞いていたのと全然違うな」
「初めて見た時は死ぬかと思ったけわね」
「見た目が怖い人を1万倍くらい怖くした感じなだけでしたね」
「そうそう」
「世界を滅ぼそうとしているようには見えなかったな」

 ズズズ……。

 魔王は5人の話を聞きながら茶を啜った。
 ダンジョンは世界に出来た瘤のようなものだから、一見すると災厄にしか見えないのは事実だ。しかし魔王にとっても産まれ育ったこの世界は拠り所なのである。滅ぼすつもりは毛頭無い。ダンジョンを瘤のようにしているのも世界を侵食しないためなのだ。

「……」

 魔王は何か好感度を上げる対策が必要かと考え、止めた。

 藪蛇なだけだしな……。
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