魔☆かるちゃ~魔王はこたつで茶をすする~

浜柔

文字の大きさ
22 / 1,641

154~160

しおりを挟む
【154.ノートパソコン】
「お前もそろそろ寝るがいい」
「うん」

 うつらとし掛けていたオリエに魔王が言うと、オリエは素直に部屋へと戻って行った。

「さて、始めるか」

 オリエを見送った魔王は異世界から新品のノートパソコンとプリンタをコピーする。翻訳したすごろくのマスの文言を、この世界の文字で印刷して貼り付ければ良いのではと考えたのだ。
 そして電源オン。パソコンは起動する。しかし幾らか動かしたところで手が止まる。

「ぐぬぬ……。こやつ、インターネット接続を求めすぎだ……」

 魔王はパタンとこたつに突っ伏した。



【155.古いパソコン】
「やはりネット接続できなきゃならないか……」

 散々試行錯誤してから、魔王は頭を抱えた。これまで異世界のものをこの世界にコピーしても、逆は電波たりともしていない。異世界にどんな影響を及ぼすか判ったものではないからだ。しかしインターネットに繋ぐには少なくとも電波を送り出す必要がある。

「追々だな……」

 今は諦めて、少々古い時代のパソコン一式をコピーする。
 そしてセットアップ。

「これはこれで結構時間が掛かる」

 手作業多めなのだった。



【156.親戚のような】
「おはよう、魔王」

 オリエの起床であった。

「む……、もうそんな時間か……」

 魔王は睡眠を特には必要としない。意識を保ったまま数秒間目を瞑って気を休めるだけで疲れが取れる。だから作業を夜通ししていたのだが、思うようには進んでいなかった。ポチポチとラスタフォントのドットを打っていたのだから印刷以前なのだ。

「魔王、それは?」

 恐らく、オリエでなくてもこたつの上に鎮座する物体が気になっただろう。

「これはパソコンだ」
「パソコン?」
「テレビゲームの親戚のようなものだ」
「ふーん」

 オリエは頭に疑問符を浮かべるばかりで理解からは程遠そうだ。
 そりゃそうである。魔王とて説明できる気がしないのであった。



【157.簡単に】
 魔王はパソコンをこたつから退けた。
 オリエがその様子を目で追いながら尋ねる。

「魔王は何をしていたの?」
「これだ」

 魔王はすごろくを広げて見せた。そしてゲームの内容を簡単に説明する。

「これの文字を貼り替えられないかと思ってな」
「ふーん」

 オリエが顎に手を当てて考える。

「1枚だけなら手書きしたらいいのに」
「う……む……」

 色々応用を利かせたかったからフォント作りに勤しんだ魔王ではあったが、全く反論できなかった。



【158.一緒に】
「魔王、一晩の宿を感謝する」

 5人パーティーが連れ立って魔王の許に現れた。既に帰り支度も万全だ。

「うむ。一晩だけでいいのか?」
「一晩だけでとは……?」

 剣士は首を傾げた。5人パーティーにとっては一晩の宿だけでも格別の厚意だと受け取っている。これ以上は端から考えもしていない。それに、ここまで何泊もしながらやって来たのだから、帰り道でもそう変わらない時間が掛かる見込みだ。あまりのんびりしてもいられない。
 当然ながらこれは彼ら自力で入り口まで戻るつもりだからである。魔王が一瞬で送ってくれるとは想像すらしていない。

「泊まりたければ好きなだけ泊まって行くがいい。帰りは入り口まで送ってやろう」
「え……?」
「そうだよ! 帰る時は魔王に頼んで、それで空く時間で一緒に遊ぼう!」
「〃「ええっ!?」〃」

 オリエの提案に混乱するばかりの5人である。



【159.テレビゲーム】
「あ、あの、遊ぶとは……、オリエさんはここで普段は何をなさっておいでなのですか?」

 ヒーラーが意を決したように尋ねた。他の4人の視線もオリエに集中する。

「テレビゲームかな」
「テレ? 何ですか?」
「テレビゲーム。ゲームだよ」
「は、はあ……」

 ヒーラーが上目遣いに首を傾げ、他の4人も疑問符を浮かべるばかりだ。

「やってみた方が早いだろう」
「魔王の言う通り! だから一緒に遊ぼう!」

 何が「だから」なのかがさっぱりな5人である。



【160.慌てなくて】
「そうしたいのは山々なのですが、稼がないと生活できませんので……」

 ヒーラーが冷や汗混じりに言うと、オリエが困ったように魔王を見る。

「お前達は誰かを養っているのか?」
「いえ、それはありませんが……」
「それなら慌てなくていいだろう。飯もタダで食わせてやろう」

 魔王は言いながら、朝食を準備中のシェフを顧みた。

「5人くらいなら余裕ダ」

 シェフの答えに魔王は頷いた。

「で、どうする? もう暫く泊まって行くか?」

 5人はお互いに顔を見合わせる。思い浮かべるのは昨夜の食事だ。

「〃「是非に!」〃」

 5人の声が揃った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

処理中です...