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第四八話 大きな冷蔵庫
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朝食後の事である。
「累造君、お願いが有るんですけれど」
「どうしたんですか? かしこまって」
チーナが姿勢を正し、累造を真剣に見詰める。
「冷蔵庫の事ですが、もっと大きなものが欲しいんです。作ってください」
「はい!?」
冷蔵庫と言うものは、考え無しに使っていると、あれもこれもと入れるようになってしまう。そうなればどんどん容量を食ってしまい、直ぐに入れる場所が無くなってしまう。すると、大きな冷蔵庫を欲するようになり、欲望に負けて買い換えてしまうと更にあれもこれも入れるようになる。そしていつしか、何が入っているかさえ判らなくなって腐海と化すのだ。
チーナがそう言い出すのは累造の予想の範疇ではあったが、早過ぎである。冷蔵庫の試作品は外形で幅六〇センチメートル程度で高さと奥行きは五〇センチメートル程度有り、庫内の容量だけで言えば一〇〇リットルを超えている。
「一体、何をそんなに沢山入れてるんですか?」
「お肉やお野菜、余ったお料理を入れているだけですよ」
「ほんの数日で一杯になるとは思えないんですが」
冷蔵庫前提で纏め買いをするようになれば容易に満杯になってしまうのだが、腐らせないように必要な食材だけを買い求める習慣がほんの数日で抜けるとは思えなかった。
「だけど、お料理を入れようとすると、お料理が引っ繰り返らないように、野菜を寄せないといけないじゃないですか。見た目より入れられる量が少ないんです」
チーナは少々不満げだ。冷蔵庫の試作品は横開きではなく上開きなため、棚を作るのにも限界が有り、余った料理を入れるには不便なのだ。
「ああ、なるほど、判りました。ちょっと考えてみます」
「お願いします」
願いが通じたチーナはにこやかに仕事へと戻った。
冷蔵庫は横開きでなければ不便だ。それならいっそ現代日本の電気冷蔵庫に近いものを作ってしまおうと、累造は設計を始めた。
横開きの問題は何より扉を閉める事である。十分な強さの磁石が無いため、扉はレバーを回すと爪が引っ掛かって固定されるような形にせざるを得ない。
更に、気密性の向上も必要だ。ゴムは普及していないために手に入り辛く、ゴムパッキンにするのは今後の課題である。
冷蔵の魔法陣の配置も問題である。
それらを検討した結果、魔法陣は上側にスライドさせて填め込む事にし、当面は鉛筆書きで使って問題が無ければ追々彫る方向にする。
扉は爪を引っ掛ける部分を庫内に作る事にする。そのため、庫内の爪が引っ掛かる部分に作る棚は固定する。
レバーは、扉の変形が少なくなるよう真ん中付近である。つまり、庫内は真ん中付近で上下に分かれる事になる。
そして、幾つかの棚受けを設けて、移動可能な棚を設ける。少し庫内が狭くなるが、ドアポケットも設ける。
断熱の魔法陣を記述する関係で、冷凍庫と冷蔵庫は別々にする。
それらを図面にしたためると、後はテンダーに依頼するだけだ。
「なんだ? これは」
図面を見たテンダーが訝しむ。物入れには違いないのだが、色々面倒な部分が多い。
「説明は難しいので、完成した後でお見せします」
累造としてはあまり大っぴらにしたくはなかったが、テンダーに隠し事をすると碌な事にはならないだろうと言う直感がした。
「おー、判った。後の楽しみに取っとくぜ」
「いつ頃できそうですか?」
「そうだな、五日程度みといてくれや」
「判りました」
忙しいのだろう。テンダーにしては長い見積もりだ。
それでも確認しておきたい事もある。
「ところで、石臼の方はどうなっていますか?」
「あー、あれか。他の仕事が忙しくてやる暇が無くてな、歯車がまだ揃ってねーんだ」
「やっぱりそうですか」
今のままでは開発が進みそうにない。場合によっては開発費を出して発注した形にした方が良さそうである。
雑貨店に帰った累造は、一つめの冷蔵庫の試作品に断熱の魔法陣を描き加えることで間に合わせのものを作った。チーナにはこれで暫く我慢して貰う。
「そうですか」
出てきたのが大きさも形も変わらない品物だったためか、チーナががっかりした表情を見せる。
「そりゃ、そうですよね。いくら累造君でも、何でもぽんぽん作れる訳じゃないんですものね」
「はい」
累造はチーナの中で自分がどう映っているのか不安になった。過大評価されても困るのだ。
「だけど、出来上がったものを見て貰えば、きっと納得して貰えると思いますよ」
「はい、それに期待しましょう」
チーナは穏やかに微笑んだ。
◆
夜になり、累造は一息入れた。
この二ヶ月近く、ばたばたとした時間を過ごしていた。だが、その甲斐もあって生活も安定してきている。今はもう急いで何かをする必要も無い。
それを一通り思い巡らせると、一つの魔法陣の作成に取り掛かった。
世界の境界を越える、遠見の魔法陣である。
「累造君、お願いが有るんですけれど」
「どうしたんですか? かしこまって」
チーナが姿勢を正し、累造を真剣に見詰める。
「冷蔵庫の事ですが、もっと大きなものが欲しいんです。作ってください」
「はい!?」
冷蔵庫と言うものは、考え無しに使っていると、あれもこれもと入れるようになってしまう。そうなればどんどん容量を食ってしまい、直ぐに入れる場所が無くなってしまう。すると、大きな冷蔵庫を欲するようになり、欲望に負けて買い換えてしまうと更にあれもこれも入れるようになる。そしていつしか、何が入っているかさえ判らなくなって腐海と化すのだ。
チーナがそう言い出すのは累造の予想の範疇ではあったが、早過ぎである。冷蔵庫の試作品は外形で幅六〇センチメートル程度で高さと奥行きは五〇センチメートル程度有り、庫内の容量だけで言えば一〇〇リットルを超えている。
「一体、何をそんなに沢山入れてるんですか?」
「お肉やお野菜、余ったお料理を入れているだけですよ」
「ほんの数日で一杯になるとは思えないんですが」
冷蔵庫前提で纏め買いをするようになれば容易に満杯になってしまうのだが、腐らせないように必要な食材だけを買い求める習慣がほんの数日で抜けるとは思えなかった。
「だけど、お料理を入れようとすると、お料理が引っ繰り返らないように、野菜を寄せないといけないじゃないですか。見た目より入れられる量が少ないんです」
チーナは少々不満げだ。冷蔵庫の試作品は横開きではなく上開きなため、棚を作るのにも限界が有り、余った料理を入れるには不便なのだ。
「ああ、なるほど、判りました。ちょっと考えてみます」
「お願いします」
願いが通じたチーナはにこやかに仕事へと戻った。
冷蔵庫は横開きでなければ不便だ。それならいっそ現代日本の電気冷蔵庫に近いものを作ってしまおうと、累造は設計を始めた。
横開きの問題は何より扉を閉める事である。十分な強さの磁石が無いため、扉はレバーを回すと爪が引っ掛かって固定されるような形にせざるを得ない。
更に、気密性の向上も必要だ。ゴムは普及していないために手に入り辛く、ゴムパッキンにするのは今後の課題である。
冷蔵の魔法陣の配置も問題である。
それらを検討した結果、魔法陣は上側にスライドさせて填め込む事にし、当面は鉛筆書きで使って問題が無ければ追々彫る方向にする。
扉は爪を引っ掛ける部分を庫内に作る事にする。そのため、庫内の爪が引っ掛かる部分に作る棚は固定する。
レバーは、扉の変形が少なくなるよう真ん中付近である。つまり、庫内は真ん中付近で上下に分かれる事になる。
そして、幾つかの棚受けを設けて、移動可能な棚を設ける。少し庫内が狭くなるが、ドアポケットも設ける。
断熱の魔法陣を記述する関係で、冷凍庫と冷蔵庫は別々にする。
それらを図面にしたためると、後はテンダーに依頼するだけだ。
「なんだ? これは」
図面を見たテンダーが訝しむ。物入れには違いないのだが、色々面倒な部分が多い。
「説明は難しいので、完成した後でお見せします」
累造としてはあまり大っぴらにしたくはなかったが、テンダーに隠し事をすると碌な事にはならないだろうと言う直感がした。
「おー、判った。後の楽しみに取っとくぜ」
「いつ頃できそうですか?」
「そうだな、五日程度みといてくれや」
「判りました」
忙しいのだろう。テンダーにしては長い見積もりだ。
それでも確認しておきたい事もある。
「ところで、石臼の方はどうなっていますか?」
「あー、あれか。他の仕事が忙しくてやる暇が無くてな、歯車がまだ揃ってねーんだ」
「やっぱりそうですか」
今のままでは開発が進みそうにない。場合によっては開発費を出して発注した形にした方が良さそうである。
雑貨店に帰った累造は、一つめの冷蔵庫の試作品に断熱の魔法陣を描き加えることで間に合わせのものを作った。チーナにはこれで暫く我慢して貰う。
「そうですか」
出てきたのが大きさも形も変わらない品物だったためか、チーナががっかりした表情を見せる。
「そりゃ、そうですよね。いくら累造君でも、何でもぽんぽん作れる訳じゃないんですものね」
「はい」
累造はチーナの中で自分がどう映っているのか不安になった。過大評価されても困るのだ。
「だけど、出来上がったものを見て貰えば、きっと納得して貰えると思いますよ」
「はい、それに期待しましょう」
チーナは穏やかに微笑んだ。
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