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第一章 夏
第五話 エリクサー
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「そうだった。
それを申さねば渋られるのも道理」
ホーリーは跪座になって姿勢を正した。
「吾輩は、我がレジオラ王国の第三王女ナイチアビーナ・デ・ランダルシア殿下直々の命により、この町近郊のダンジョンに眠ると言うエリクサーを獲得しなければならない」
どっと冷や汗が出た。
腹立ち紛れとホーリーの態度でうっかりしていたが、彼女の言葉が真実なら彼女は騎士なのだ。
それも王女と直接繋がりが持てるような高い地位。
どこかの誰かが不敬罪で処刑されたなんて噂も有るので戦々恐々としてしまう。
でも今更だった。
ダンジョンは寄生型の魔物である。
地下に発生し、幼生時代は草木の根に寄生して成長する。
成体になると体内から地上に繋がる穴を空け、動物を誘い込んで飼育、あるいは捕食を始める。
捕食と言っても噛み付いたり消化液を掛けたりはしない。
体内に召喚した魔物で殺し、朽ちるのを待つのだ。
更に成長して飼育や捕食が間に合わず、飢餓に陥ってしまえば、召喚した魔物を使って外部で狩りをする。
それすらも間に合わなくなった時には餓死によってその生涯を終える。
これが人の介入によって少し変質した。
人の町の近くに生まれるダンジョンは宝石などを生み出して人を誘引する。
そしてそれらを求めて侵入した人へと召喚した魔物を嗾けて足止めし、長時間に渡って内部に留め置くことで飼育と同じ効果を生み出すのだ。
魔物が強くて人が死んでも捕食と同じになるだけである。
人は人でこれを利用して産業にしている。
ただ、どのダンジョンもいずれは魔物を溢れ出させるのは同じであるため、三〇〇年と言われるダンジョンの寿命の半分が過ぎた頃に人はダンジョンを討伐する。
成長しすぎては討伐が困難となるからだ。
そして、セバルス北西の山中には約三〇年前に発生したダンジョンが存在している。
今更な部分は脇に置き、ダンジョンに思考を巡らせても首を捻るばかり。
そもそもの話が見えない。
「エリクサーって何だ?」
エリクサーなるものを今まで聞いたことが無い。
この町に住んでいて知らないものを王女様が知っていると言うのも不思議だ。
そもそもこの近くのダンジョンは若く、採れる宝石は安物ばかりである。
特徴的なのは温泉が湧いていることくらいなのだ。
ただ、浴びれば美肌効果が、飲めば整腸作用が、加えて僅かながら回復効果も有ると言われる温泉のお湯は、割りと人気なこの町の特産品になっている。
話によると、温泉の湧き出る周囲は魔物の出ない安全地帯らしい。
更にはこれを利用した温泉宿も有るらしい。
俺は行ったことが無いので伝聞だ。
それと言うのも途中の通路に魔物が出る。
その前に迷宮まで片道三時間は掛かるので、とてもじゃないが独りで日帰りはできない。
それなら泊まりがけならどうか。
独りで野宿は危険。
ダンジョンの近くに宿屋が有るには有るが、お高い。
護衛を雇えば更にお高い。
とどのつまり金銭的に難しい。
金銭が障害にならない貴族や大店の一族は護衛を雇って入浴しに行くとも聞く。
それはそれとして。
「エリクサーは万病に効く霊薬だ。
不治の病でもたちどころに治すと言う」
ホーリーはそう答えた。
いよいよ判らない。
温泉の効果が変に伝わったのだろうか。
「温泉を勘違いしてないか?」
「それは無い。
ナイチアビーナ殿下がそのような間違いをなさる筈がないのだ」
「そうなのか? それでそのエリクサーとやらは何に使うんだ?」
「他言無用を確約できるか?」
「うん」
「ならば助力を求める相手に隠し事はすまい。
ナイチアビーナ殿下がお使いになられるのだ」
「重病なのか?」
臥せっているのだろうか。
そんな状態でエリクサーとやらのことを知れるものなのか尚更疑問だが、そうとしか聞こえなかった。
「吾輩にはよく判らぬが、殿下ご自身のことは殿下が一番ご存じの筈だ。
殿下はこうなされ……」
身振りを真似たのだろう。
ホーリーが澄まし顔で顎を上げる。
そしてズビシッと俺を指差して言う。
「『妾は不治の病に罹っておるのじゃ。
ホーリー、お主が直々に出向いてエリクサーを手に入れて参れ!』と元気一杯に仰った」
ちょっと待て。
「王女様はどんな様子で命令したって?」
「元気一杯にだ」
少し頭痛がしてきた。
「王女様の食欲は?」
「感心するほど旺盛でいらっしゃる」
「あまり眠れないとかは?」
「寝付きも寝起きもすこぶる早くていらっしゃる」
「今まで熱を出して寝込んだりは?」
「吾輩の知る限り、一度も無い」
「元気溌剌?」
「うむ。
毎日よく笑い、よく怒っていらっしゃるのだ」
ホーリーは腕を組み、しみじみとした様子でゆっくり何度も頷いた。
これは駄目なやつだ。
この美少女はポンコツだ。
どうして「不治の病」に疑問を抱かない。
有って、恋の病の可能性が微かにだろう。
ひょっとしてこのポンコツぶりに呆れられるか何かで体のいい厄介払いをされたか。
だとしたら少々憐れだ。
それでもまだ疑問は尽きない。
「ダンジョンにエリクサーとやらを探しに行くのは判った。
だが、俺が生きている理由を知ることにどう繋がるんだ?」
「うむ。
ダンジョンの奥深くには致死性のトラップが有るらしい。
吾輩はそれを避ける術を持っておらぬので身に付ける必要があるのだ」
「いや、そこは誰かを雇えよ……」
ホーリーはぽかんと口を開けて瞠目した。
「それは気付かなかった!」
気付けよ。
内心で突っ込んでいると、ホーリーが身を乗り出して来た。
「では貴様、雇われてはくれぬか?」
前の床に両手を突いて軽く身体をくねらせる様は猫のように艶やかだ。
けしからん峡谷の自己主張も激しい。
音の速さで頷きそうになって、寸前で思い止まった。
「せ……、専門家を雇った方がいいぞ?」
「いや、事情を言いふらすような真似はできない。
ここは既に話した貴様でなければならないのだ」
こんなところでポンコツじゃなかった。
いや、素人を雇おうと言うのだからやっぱりポンコツか?
「報酬は弾む」
ぐらっと来た。
俺の喫緊の課題が如何に稼ぐかなのだ。
だからついつい「お幾らほど?」と声が漏れる。
これに対するホーリーの答えを聞いた俺はにやけて開いた口が閉じなくなった。
一日当たりに直せば生活費の一〇倍。
一時的にでも貯蓄ができる。
「条件を詰めようか」
前向きに協議した結果、ダンジョンへの遠征時の経費もホーリー持ちとなった。
俺の生活費は他の世帯に比べて高い部類に入る。
水も燃料も買うか、手間を掛けて汲んだり拾ったりしてこなければならないからだ。
その一〇倍をポンと支払うホーリーの給金は更にこの二〇倍以上らしい。
さすが騎士様と言うべきか、違う世界の存在だ。
床に座り込んでの話し合いも如何なものかと思い、居間に場所を換えてテーブルで向かい合って契約を交わした。
「これから宜しく頼む」
腰を浮かせて差し出されたホーリーのほっそりとした小ぶりな右手を右手で握る。
「こちらこそ」
うん、硬い。
見た目は小さく繊細に見えても触ると硬い。
騎士と言う職業柄、鍛えていて当然であった。
この分なら腕、脚、腹筋、大胸筋、背筋、首もカッチカチに違いない。
……殆ど全部だ。
つまり観賞専用美少女だったのだ。
勿論、柔らかかったとしても普通には観賞するだけに変わりない。
兼用していても精々が粉をかける程度だ。
それ以上となったら縁と幸運が必要だろう。
ともあれ、握り返された手が結構痛かった。
満足げに立ち上がったホーリーが腕を組んで天井を見回す。
そして直ぐに口をへの字に曲げる。
「ここには貴様一人で住んでいるのだったな」
契約を結ぶ途中に俺の現況を話していたので、その確認だろう。
素直に肯定する。
「して、空き部屋は有るか?」
「有るけど、それが何か?」
二階には居間、俺の寝室、両親が使っていた寝室の他、空き部屋が一つ有る。
真剣な面持ちとなったホーリーが俺の方を向いた。
「それならば、ここに宿を取らせて貰いたい」
思わず「はあ?」と変な声が出た。
ここセバルスが交通の要衝たる宿場町だけのことはあって、町中には一軒だけだが貴族でも泊まれる宿屋が有る。
普通の宿屋でもここよりは便利な筈だ。
「何故に?」
「同じ場所で寝起きした方が段取りが取りやすいのだ」
そしてホーリーは不敵に笑う。
「庶民の家に寝泊まりするのも一興なのだ」
娯楽らしい。
しかし住むのは娯楽で済まないのだ。
「飯は外に食いに行かなきゃならないし、身体を洗うのも面倒だぞ?」
火魔法と水魔法のどちらも持っていなければ、自炊するより大衆食堂で食べた方が安いくらいなのだ。
味についても食堂の方が美味いので当然のように俺は食堂で食べている。
身体を洗うにしても水も遠くから汲んでくるか、それなりの金銭を出して買って来なければならない。
お湯にしようと思ったら薪もだ。
「む……」
ホーリーが口をへの字に曲げた。
「由々しき問題ではあるな」
眉根を寄せて天井を見上げる。
ところがその顔が次第に緩くなって笑みまで浮かべる。
暫くして顔を正面に向けた。
「いや、やはりここに宿を取らせて貰いたいのだ」
「だから……」
如何に断るか考えを巡らせる。
しかし。
「宿代として報酬を二割り増しにしよう」
「幾らでも泊まってくれ」
俺は刹那で了承した。
それを申さねば渋られるのも道理」
ホーリーは跪座になって姿勢を正した。
「吾輩は、我がレジオラ王国の第三王女ナイチアビーナ・デ・ランダルシア殿下直々の命により、この町近郊のダンジョンに眠ると言うエリクサーを獲得しなければならない」
どっと冷や汗が出た。
腹立ち紛れとホーリーの態度でうっかりしていたが、彼女の言葉が真実なら彼女は騎士なのだ。
それも王女と直接繋がりが持てるような高い地位。
どこかの誰かが不敬罪で処刑されたなんて噂も有るので戦々恐々としてしまう。
でも今更だった。
ダンジョンは寄生型の魔物である。
地下に発生し、幼生時代は草木の根に寄生して成長する。
成体になると体内から地上に繋がる穴を空け、動物を誘い込んで飼育、あるいは捕食を始める。
捕食と言っても噛み付いたり消化液を掛けたりはしない。
体内に召喚した魔物で殺し、朽ちるのを待つのだ。
更に成長して飼育や捕食が間に合わず、飢餓に陥ってしまえば、召喚した魔物を使って外部で狩りをする。
それすらも間に合わなくなった時には餓死によってその生涯を終える。
これが人の介入によって少し変質した。
人の町の近くに生まれるダンジョンは宝石などを生み出して人を誘引する。
そしてそれらを求めて侵入した人へと召喚した魔物を嗾けて足止めし、長時間に渡って内部に留め置くことで飼育と同じ効果を生み出すのだ。
魔物が強くて人が死んでも捕食と同じになるだけである。
人は人でこれを利用して産業にしている。
ただ、どのダンジョンもいずれは魔物を溢れ出させるのは同じであるため、三〇〇年と言われるダンジョンの寿命の半分が過ぎた頃に人はダンジョンを討伐する。
成長しすぎては討伐が困難となるからだ。
そして、セバルス北西の山中には約三〇年前に発生したダンジョンが存在している。
今更な部分は脇に置き、ダンジョンに思考を巡らせても首を捻るばかり。
そもそもの話が見えない。
「エリクサーって何だ?」
エリクサーなるものを今まで聞いたことが無い。
この町に住んでいて知らないものを王女様が知っていると言うのも不思議だ。
そもそもこの近くのダンジョンは若く、採れる宝石は安物ばかりである。
特徴的なのは温泉が湧いていることくらいなのだ。
ただ、浴びれば美肌効果が、飲めば整腸作用が、加えて僅かながら回復効果も有ると言われる温泉のお湯は、割りと人気なこの町の特産品になっている。
話によると、温泉の湧き出る周囲は魔物の出ない安全地帯らしい。
更にはこれを利用した温泉宿も有るらしい。
俺は行ったことが無いので伝聞だ。
それと言うのも途中の通路に魔物が出る。
その前に迷宮まで片道三時間は掛かるので、とてもじゃないが独りで日帰りはできない。
それなら泊まりがけならどうか。
独りで野宿は危険。
ダンジョンの近くに宿屋が有るには有るが、お高い。
護衛を雇えば更にお高い。
とどのつまり金銭的に難しい。
金銭が障害にならない貴族や大店の一族は護衛を雇って入浴しに行くとも聞く。
それはそれとして。
「エリクサーは万病に効く霊薬だ。
不治の病でもたちどころに治すと言う」
ホーリーはそう答えた。
いよいよ判らない。
温泉の効果が変に伝わったのだろうか。
「温泉を勘違いしてないか?」
「それは無い。
ナイチアビーナ殿下がそのような間違いをなさる筈がないのだ」
「そうなのか? それでそのエリクサーとやらは何に使うんだ?」
「他言無用を確約できるか?」
「うん」
「ならば助力を求める相手に隠し事はすまい。
ナイチアビーナ殿下がお使いになられるのだ」
「重病なのか?」
臥せっているのだろうか。
そんな状態でエリクサーとやらのことを知れるものなのか尚更疑問だが、そうとしか聞こえなかった。
「吾輩にはよく判らぬが、殿下ご自身のことは殿下が一番ご存じの筈だ。
殿下はこうなされ……」
身振りを真似たのだろう。
ホーリーが澄まし顔で顎を上げる。
そしてズビシッと俺を指差して言う。
「『妾は不治の病に罹っておるのじゃ。
ホーリー、お主が直々に出向いてエリクサーを手に入れて参れ!』と元気一杯に仰った」
ちょっと待て。
「王女様はどんな様子で命令したって?」
「元気一杯にだ」
少し頭痛がしてきた。
「王女様の食欲は?」
「感心するほど旺盛でいらっしゃる」
「あまり眠れないとかは?」
「寝付きも寝起きもすこぶる早くていらっしゃる」
「今まで熱を出して寝込んだりは?」
「吾輩の知る限り、一度も無い」
「元気溌剌?」
「うむ。
毎日よく笑い、よく怒っていらっしゃるのだ」
ホーリーは腕を組み、しみじみとした様子でゆっくり何度も頷いた。
これは駄目なやつだ。
この美少女はポンコツだ。
どうして「不治の病」に疑問を抱かない。
有って、恋の病の可能性が微かにだろう。
ひょっとしてこのポンコツぶりに呆れられるか何かで体のいい厄介払いをされたか。
だとしたら少々憐れだ。
それでもまだ疑問は尽きない。
「ダンジョンにエリクサーとやらを探しに行くのは判った。
だが、俺が生きている理由を知ることにどう繋がるんだ?」
「うむ。
ダンジョンの奥深くには致死性のトラップが有るらしい。
吾輩はそれを避ける術を持っておらぬので身に付ける必要があるのだ」
「いや、そこは誰かを雇えよ……」
ホーリーはぽかんと口を開けて瞠目した。
「それは気付かなかった!」
気付けよ。
内心で突っ込んでいると、ホーリーが身を乗り出して来た。
「では貴様、雇われてはくれぬか?」
前の床に両手を突いて軽く身体をくねらせる様は猫のように艶やかだ。
けしからん峡谷の自己主張も激しい。
音の速さで頷きそうになって、寸前で思い止まった。
「せ……、専門家を雇った方がいいぞ?」
「いや、事情を言いふらすような真似はできない。
ここは既に話した貴様でなければならないのだ」
こんなところでポンコツじゃなかった。
いや、素人を雇おうと言うのだからやっぱりポンコツか?
「報酬は弾む」
ぐらっと来た。
俺の喫緊の課題が如何に稼ぐかなのだ。
だからついつい「お幾らほど?」と声が漏れる。
これに対するホーリーの答えを聞いた俺はにやけて開いた口が閉じなくなった。
一日当たりに直せば生活費の一〇倍。
一時的にでも貯蓄ができる。
「条件を詰めようか」
前向きに協議した結果、ダンジョンへの遠征時の経費もホーリー持ちとなった。
俺の生活費は他の世帯に比べて高い部類に入る。
水も燃料も買うか、手間を掛けて汲んだり拾ったりしてこなければならないからだ。
その一〇倍をポンと支払うホーリーの給金は更にこの二〇倍以上らしい。
さすが騎士様と言うべきか、違う世界の存在だ。
床に座り込んでの話し合いも如何なものかと思い、居間に場所を換えてテーブルで向かい合って契約を交わした。
「これから宜しく頼む」
腰を浮かせて差し出されたホーリーのほっそりとした小ぶりな右手を右手で握る。
「こちらこそ」
うん、硬い。
見た目は小さく繊細に見えても触ると硬い。
騎士と言う職業柄、鍛えていて当然であった。
この分なら腕、脚、腹筋、大胸筋、背筋、首もカッチカチに違いない。
……殆ど全部だ。
つまり観賞専用美少女だったのだ。
勿論、柔らかかったとしても普通には観賞するだけに変わりない。
兼用していても精々が粉をかける程度だ。
それ以上となったら縁と幸運が必要だろう。
ともあれ、握り返された手が結構痛かった。
満足げに立ち上がったホーリーが腕を組んで天井を見回す。
そして直ぐに口をへの字に曲げる。
「ここには貴様一人で住んでいるのだったな」
契約を結ぶ途中に俺の現況を話していたので、その確認だろう。
素直に肯定する。
「して、空き部屋は有るか?」
「有るけど、それが何か?」
二階には居間、俺の寝室、両親が使っていた寝室の他、空き部屋が一つ有る。
真剣な面持ちとなったホーリーが俺の方を向いた。
「それならば、ここに宿を取らせて貰いたい」
思わず「はあ?」と変な声が出た。
ここセバルスが交通の要衝たる宿場町だけのことはあって、町中には一軒だけだが貴族でも泊まれる宿屋が有る。
普通の宿屋でもここよりは便利な筈だ。
「何故に?」
「同じ場所で寝起きした方が段取りが取りやすいのだ」
そしてホーリーは不敵に笑う。
「庶民の家に寝泊まりするのも一興なのだ」
娯楽らしい。
しかし住むのは娯楽で済まないのだ。
「飯は外に食いに行かなきゃならないし、身体を洗うのも面倒だぞ?」
火魔法と水魔法のどちらも持っていなければ、自炊するより大衆食堂で食べた方が安いくらいなのだ。
味についても食堂の方が美味いので当然のように俺は食堂で食べている。
身体を洗うにしても水も遠くから汲んでくるか、それなりの金銭を出して買って来なければならない。
お湯にしようと思ったら薪もだ。
「む……」
ホーリーが口をへの字に曲げた。
「由々しき問題ではあるな」
眉根を寄せて天井を見上げる。
ところがその顔が次第に緩くなって笑みまで浮かべる。
暫くして顔を正面に向けた。
「いや、やはりここに宿を取らせて貰いたいのだ」
「だから……」
如何に断るか考えを巡らせる。
しかし。
「宿代として報酬を二割り増しにしよう」
「幾らでも泊まってくれ」
俺は刹那で了承した。
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