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第二章 秋
第一六話 予備
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「……シモン……シモン……」
俺を呼ぶ声が聞こえて意識が定まった。
放心してしまっていたらしい。
目の前には左腕で胸を隠しつつ右手で俺を揺するホーリーの姿が有る。
少し視線を周りに向ければ俺の部屋。
斜面から落下した時に動転して訳が判らなくなっていたようだ。
「やあ、ホーリー」
声を掛けなければと思いつつも、特には何も言うことも無いのですっとぼけたことになってしまった。
すると案の定。
「『やあ』じゃない! ぼんやりしたままだから心配したのだぞ!?」
怒られた。
しかしそんな眦を吊り上げてプリプリと怒るホーリーもまた可愛く、不謹慎だが頬が緩む。
「何を笑っているのか!」
「ご、ごめん」
「しかしそんなことより、早く魔法を使うのだ! いつまで吾輩にこんな格好をさせておくつもりなのだ!」
俺が意識を取り戻した今、ホーリーは顔を赤らめつつ必死に身体を隠そうともじもじしている。
「服を着たらいいんじゃないか?」
「馬鹿者! シモンの魔法で直ぐまたこの格好に逆戻りだと言ったのはシモン自身ではないか!」
「そうだったな……」
「解ったら早くしろ!」
「おう」
言われるままに召喚を行うと、ホーリーは一目散に部屋から出て行った。
俺も着替えだ。
しかしここで問題が発生した。
箪笥の中にはズボンが一着だけ。
持っていた三着の内の二着をダンジョンに取り残した状況なのだ。
これを穿いたらもう換えが無い。
シャツはもう二枚残されているが、足りなくて深刻なのはやはりズボンである。
「そのことでございましたら、不躾とは存じますがシモン様のお召し物を一着ご用意してございます」
居間に集まった際に着替えが無いことを話すと、ペッテが自身で仕立てたと言うズボンを持って来た。
「ありがとうございます!」
何て出来たメイドなのだろうか。
箪笥の中を検分されたのではとの疑念は有るものの、今から仕立てたのでは二、三日は掛かるので有り難い。
「シモン、用意が悪いぞ」
ホーリーが探索する時には常に資材の確認が必要だと、至極尤もなことを言った。
ところが、ペッテが昨日のミニスカートを取り出して言う。
「お嬢様。
お嬢様の予備のお召し物もこれだけでございます」
「どうしてそれだけなのだ!?」
寝耳に水と言った風情でホーリーが叫んだ。
確認不足なのはホーリーも一緒じゃないか。
そんなことも思ったが、ホーリーにとっては着替えが数えるだけしかない状況の方が異常だろう。
「お嬢様、この度は任務を負っての旅先でございます。
携えましたお召し物も最小限でございます」
「むぅ……」
不満げに頬を膨らませるホーリーだが、反論もできないらしい。
ただ俺には最小限の中にミニスカートが有るのが疑問だ。
何となくペッテの趣味のような気がして仕方ない。
「ではシモン。
まずは温泉宿から衣類を持って帰るぞ」
「そうだな。
でもその前に剣も無いんだ」
俺は既に鉈を代用したのだから、残るのは戦闘には不向きなナイフと包丁くらいなのだ。
ホーリーがハッとしたようにペッテを見ると、ペッテは小さく首を横に振る。
「剣はございません」
ホーリーの予備の剣はもう一本有るのみで、俺に貸す分までは無いと言うことだった。
これを受けてホーリーが一人で戦うと言い、その通りにホーリー一人だけで軽くあしらえるのが判っていても、自分が戦えない状況は落ち着かない。
とにかく剣を調達しなければ温泉宿までが心許なくて困る。
だから先にドグを頼る。
「ドグ、ちょっと相談があるんだけど」
「何じゃシモン、ナイフも取りに来んでどこをほっつき歩いておった?」
「あ……」
すっかり忘れていた。
ナイフを頼んだあの後、直ぐにホーリーに再会してそれどころではなくなったのだ。
それでも少々バツが悪くて頭を掻いて応える。
「さては後ろの娘っ子にかまけておったのか。
いっぱしに色気付きおって」
「それは……」
ホーリーにかまけていたのは事実。
可愛いと思うのも事実。
ただニュアンスに違いがあってもどかしい。
そうなんだけどそうじゃないのだ。
ホーリーの事情を話してしまえるなら誤解も解けるだろうが、どこまで話して良いか判断に困る。
説明をホーリーに任せてしまうのも考えもので、不用意に話してペッテに叱られるのがオチだ。
「それはそれとして、使い古しでいいから剣を貸してくれ」
「あっさり話を逸らしおって」
ドグがやれやれと軽く首を左右に揺らしながら溜め息を吐く。
「まあ、色恋とはガキの時分には恥ずかしいもんじゃからな」
「ぐぬぬ……」
大人の狡い言い方だ。
反論したいがここで反論したら益々子供っぽいので我慢せざるを得ないではないか。
「わっはっは。
悔しかったら顔を出した最初に『彼女を連れて来た』くらい言ってみぃ」
「ぐぬぬ……」
できるものなら俺だってそう紹介したいんだって言葉は呑み込んだ。
俺が決められることではないのだ。
そんな俺の煩悶を読み取ったのかドグが口を歪めて頭を掻く。
「剣じゃったな。
ほれ、そこに有るのを何本でも好きに持って行け」
ドグが指し示した所には十数本の剣を挿した木箱が置かれている。
ドグに言わせれば失敗作だが、売り物には違いない。
ドグが気に入らない客や、時間や代金をケチる客向けの品物なのだ。
「いいの?」
「構わん。
最近は不心得者も少なくなったからの。
そんなにいらんのじゃ」
「ありがとう。
それじゃ遠慮無く。
ホーリーも一本貰っておいて」
俺はドグに礼を言い、ホーリーに声を掛けた。
先に選ばせる。
手に馴染む柄でなければ俺にとってはどれも大差ないのだ。
「うむ。
鍛冶師殿、かたじけない」
ホーリーは俺に向けて軽く頷き、ドグに向けて礼を言うと、剣の吟味し始めた。
一振りの剣を手にして鞘から抜く。
そこで動きが止まった。
「こ、これは……」
一言呟いてからまた動き出し、別の剣を手にして鞘から抜く。
「これも……」「おお……」「ん? これは……」と、時折呟きや感嘆の声を交えながら次々に剣の刃を吟味して行く。
そして一通り吟味し終わったところで一振りの剣を手に取り、横に向けた剣を持った右手をぐぐっとドグへと突き出した。
飾り気の殆ど無い小振りな剣だ。
「鍛冶師殿。
お譲り頂けるならばこの剣を所望したい」
「ほぉ。
それに目を付けるとは目が高いのぅ」
「ドグ、それは?」
「お嬢さんが手にした剣は失敗作ではないのじゃ」
ドグは一人一人に合わせて剣を打つので、注文しても受け取れるのが一年後になったりする。
そうなると稀に受け取りに来ない客も居るのだ。
流儀として刀身を他の客に流用することの無いドグは、そんな宙に浮いた剣を失敗作として処分する。
ホーリーが手にしたのはそうした剣だと言う。
「これがかの名工と名高いドグ殿の剣か……」
ホーリーは剣を矯めつ眇めつ眺めては一人悦に入っている。
「名工? ドグってそんなに有名だったの?」
「わしは知らんぞ」
俺はドグと顔を見合わせた。
ドグにも何のことだか解らないらしい。
そんな俺達の会話をホーリーが耳敏く聞き咎めた。
「そんな筈はない。
この刃に浮かぶ紋様がその証拠だ」
ホーリーが半分だけ剣を抜いて刀身を見せる。
そこには波紋のようにうねった紋様や、所により渦のような紋様が浮いている。
「ドグ殿の打った剣以外にこの紋様を見たことも聞いたこともないのだ」
「わしも聞いたことが無いがのぅ……」
ドグが困惑気味に頭を掻く。
「のぅシモン、このお嬢さんは何もんじゃ?」
「それは……」
結局説明しなければならないようだ。
だったら……。
「ホーリー、ドグに自己紹介してくれないか?」
「おお! そうであった。
名乗らねばドグ殿に失礼と言うもの」
ホーリーは姿勢を正し、胸に拳を添える。
敬礼らしい。
「吾輩はホーリー・シュリーマー、騎士を拝命している。
ドグ殿のお名前は騎士仲間から聞き及んでいる」
「騎士!?」
ドグが目を丸くして俺とホーリーを見比べる。
防具を着けていないホーリーは姿勢こそピシッとしているものの、一見するだけでは輝かんばかりの美少女にしか見えない。
びっくりもしよう。
俺は小さく頷いた。
確かめてもなければ確かめようもないが、ホーリーやペッテが悪意の有る嘘を言わないのは信じられる。
「その騎士様がどうしてシモンなんぞと連れだっておるのじゃ……」
『なんぞ』……。
「今はシモンの家で暮らしているのだ」
ホーリーはきっぱりと言い切った。
動揺したのがドグである。
俺の胸ぐらを掴んで詰め寄ってくる。
「シモン! お前、家に連れ込んだのか!?」
「違う! 人聞きが悪いぞ!」
「うむ。
吾輩が押し掛けたのだ」
「押し掛けた!? シモンのどこに惹かれる部分が有ると言うのじゃ!?」
おい、ドグ。
失敬じゃないか。
「確かにシモンは頼りないし、吾輩の身体を嫌らしい目で見たりといいところは無いのだが、事情が有るのだ」
ぐはっ。
ホーリーの言葉がぐさぐさと俺の胸を抉る。
本当のことだけに居たたまれない。
「事情? まさかシモンがお嬢さんの身体目当てに弱みを握って……」
俺ってどこまで信用が無いんだ……。
「弱みを握られるか……」
ホーリーが腕組みして考え込む。
何故だ。
「その通りやも知れぬな」
一転、快活に笑う。
しかし笑えないのは俺。
眦を吊り上げるのはドグだ。
「シモン! お前と言う奴は! そんな奴に育てた覚えは無いぞ!」
「育てられた覚えも無いよ!」
二人とも酷い。
このままじゃとんだ大悪党にされてしまう。
「いいから、俺の話を聞け!」
俺の必死の叫びはどうにかドグの耳に届いたようだった。
結局、ドグには殆ど全てを話すことになってしまった。
ドグが微妙な顔をしたのは言うまでもない。
そして案の定、ペッテに叱られた。
ホーリーがペッテにドグとのやり取りをつぶさに語って聞かせたためだ。
こんな調子で俺と初めて会った時のことも語ったのだろうと納得もした。
でもどうして俺も一緒に叱られなければならなかったのだろうか。
俺を呼ぶ声が聞こえて意識が定まった。
放心してしまっていたらしい。
目の前には左腕で胸を隠しつつ右手で俺を揺するホーリーの姿が有る。
少し視線を周りに向ければ俺の部屋。
斜面から落下した時に動転して訳が判らなくなっていたようだ。
「やあ、ホーリー」
声を掛けなければと思いつつも、特には何も言うことも無いのですっとぼけたことになってしまった。
すると案の定。
「『やあ』じゃない! ぼんやりしたままだから心配したのだぞ!?」
怒られた。
しかしそんな眦を吊り上げてプリプリと怒るホーリーもまた可愛く、不謹慎だが頬が緩む。
「何を笑っているのか!」
「ご、ごめん」
「しかしそんなことより、早く魔法を使うのだ! いつまで吾輩にこんな格好をさせておくつもりなのだ!」
俺が意識を取り戻した今、ホーリーは顔を赤らめつつ必死に身体を隠そうともじもじしている。
「服を着たらいいんじゃないか?」
「馬鹿者! シモンの魔法で直ぐまたこの格好に逆戻りだと言ったのはシモン自身ではないか!」
「そうだったな……」
「解ったら早くしろ!」
「おう」
言われるままに召喚を行うと、ホーリーは一目散に部屋から出て行った。
俺も着替えだ。
しかしここで問題が発生した。
箪笥の中にはズボンが一着だけ。
持っていた三着の内の二着をダンジョンに取り残した状況なのだ。
これを穿いたらもう換えが無い。
シャツはもう二枚残されているが、足りなくて深刻なのはやはりズボンである。
「そのことでございましたら、不躾とは存じますがシモン様のお召し物を一着ご用意してございます」
居間に集まった際に着替えが無いことを話すと、ペッテが自身で仕立てたと言うズボンを持って来た。
「ありがとうございます!」
何て出来たメイドなのだろうか。
箪笥の中を検分されたのではとの疑念は有るものの、今から仕立てたのでは二、三日は掛かるので有り難い。
「シモン、用意が悪いぞ」
ホーリーが探索する時には常に資材の確認が必要だと、至極尤もなことを言った。
ところが、ペッテが昨日のミニスカートを取り出して言う。
「お嬢様。
お嬢様の予備のお召し物もこれだけでございます」
「どうしてそれだけなのだ!?」
寝耳に水と言った風情でホーリーが叫んだ。
確認不足なのはホーリーも一緒じゃないか。
そんなことも思ったが、ホーリーにとっては着替えが数えるだけしかない状況の方が異常だろう。
「お嬢様、この度は任務を負っての旅先でございます。
携えましたお召し物も最小限でございます」
「むぅ……」
不満げに頬を膨らませるホーリーだが、反論もできないらしい。
ただ俺には最小限の中にミニスカートが有るのが疑問だ。
何となくペッテの趣味のような気がして仕方ない。
「ではシモン。
まずは温泉宿から衣類を持って帰るぞ」
「そうだな。
でもその前に剣も無いんだ」
俺は既に鉈を代用したのだから、残るのは戦闘には不向きなナイフと包丁くらいなのだ。
ホーリーがハッとしたようにペッテを見ると、ペッテは小さく首を横に振る。
「剣はございません」
ホーリーの予備の剣はもう一本有るのみで、俺に貸す分までは無いと言うことだった。
これを受けてホーリーが一人で戦うと言い、その通りにホーリー一人だけで軽くあしらえるのが判っていても、自分が戦えない状況は落ち着かない。
とにかく剣を調達しなければ温泉宿までが心許なくて困る。
だから先にドグを頼る。
「ドグ、ちょっと相談があるんだけど」
「何じゃシモン、ナイフも取りに来んでどこをほっつき歩いておった?」
「あ……」
すっかり忘れていた。
ナイフを頼んだあの後、直ぐにホーリーに再会してそれどころではなくなったのだ。
それでも少々バツが悪くて頭を掻いて応える。
「さては後ろの娘っ子にかまけておったのか。
いっぱしに色気付きおって」
「それは……」
ホーリーにかまけていたのは事実。
可愛いと思うのも事実。
ただニュアンスに違いがあってもどかしい。
そうなんだけどそうじゃないのだ。
ホーリーの事情を話してしまえるなら誤解も解けるだろうが、どこまで話して良いか判断に困る。
説明をホーリーに任せてしまうのも考えもので、不用意に話してペッテに叱られるのがオチだ。
「それはそれとして、使い古しでいいから剣を貸してくれ」
「あっさり話を逸らしおって」
ドグがやれやれと軽く首を左右に揺らしながら溜め息を吐く。
「まあ、色恋とはガキの時分には恥ずかしいもんじゃからな」
「ぐぬぬ……」
大人の狡い言い方だ。
反論したいがここで反論したら益々子供っぽいので我慢せざるを得ないではないか。
「わっはっは。
悔しかったら顔を出した最初に『彼女を連れて来た』くらい言ってみぃ」
「ぐぬぬ……」
できるものなら俺だってそう紹介したいんだって言葉は呑み込んだ。
俺が決められることではないのだ。
そんな俺の煩悶を読み取ったのかドグが口を歪めて頭を掻く。
「剣じゃったな。
ほれ、そこに有るのを何本でも好きに持って行け」
ドグが指し示した所には十数本の剣を挿した木箱が置かれている。
ドグに言わせれば失敗作だが、売り物には違いない。
ドグが気に入らない客や、時間や代金をケチる客向けの品物なのだ。
「いいの?」
「構わん。
最近は不心得者も少なくなったからの。
そんなにいらんのじゃ」
「ありがとう。
それじゃ遠慮無く。
ホーリーも一本貰っておいて」
俺はドグに礼を言い、ホーリーに声を掛けた。
先に選ばせる。
手に馴染む柄でなければ俺にとってはどれも大差ないのだ。
「うむ。
鍛冶師殿、かたじけない」
ホーリーは俺に向けて軽く頷き、ドグに向けて礼を言うと、剣の吟味し始めた。
一振りの剣を手にして鞘から抜く。
そこで動きが止まった。
「こ、これは……」
一言呟いてからまた動き出し、別の剣を手にして鞘から抜く。
「これも……」「おお……」「ん? これは……」と、時折呟きや感嘆の声を交えながら次々に剣の刃を吟味して行く。
そして一通り吟味し終わったところで一振りの剣を手に取り、横に向けた剣を持った右手をぐぐっとドグへと突き出した。
飾り気の殆ど無い小振りな剣だ。
「鍛冶師殿。
お譲り頂けるならばこの剣を所望したい」
「ほぉ。
それに目を付けるとは目が高いのぅ」
「ドグ、それは?」
「お嬢さんが手にした剣は失敗作ではないのじゃ」
ドグは一人一人に合わせて剣を打つので、注文しても受け取れるのが一年後になったりする。
そうなると稀に受け取りに来ない客も居るのだ。
流儀として刀身を他の客に流用することの無いドグは、そんな宙に浮いた剣を失敗作として処分する。
ホーリーが手にしたのはそうした剣だと言う。
「これがかの名工と名高いドグ殿の剣か……」
ホーリーは剣を矯めつ眇めつ眺めては一人悦に入っている。
「名工? ドグってそんなに有名だったの?」
「わしは知らんぞ」
俺はドグと顔を見合わせた。
ドグにも何のことだか解らないらしい。
そんな俺達の会話をホーリーが耳敏く聞き咎めた。
「そんな筈はない。
この刃に浮かぶ紋様がその証拠だ」
ホーリーが半分だけ剣を抜いて刀身を見せる。
そこには波紋のようにうねった紋様や、所により渦のような紋様が浮いている。
「ドグ殿の打った剣以外にこの紋様を見たことも聞いたこともないのだ」
「わしも聞いたことが無いがのぅ……」
ドグが困惑気味に頭を掻く。
「のぅシモン、このお嬢さんは何もんじゃ?」
「それは……」
結局説明しなければならないようだ。
だったら……。
「ホーリー、ドグに自己紹介してくれないか?」
「おお! そうであった。
名乗らねばドグ殿に失礼と言うもの」
ホーリーは姿勢を正し、胸に拳を添える。
敬礼らしい。
「吾輩はホーリー・シュリーマー、騎士を拝命している。
ドグ殿のお名前は騎士仲間から聞き及んでいる」
「騎士!?」
ドグが目を丸くして俺とホーリーを見比べる。
防具を着けていないホーリーは姿勢こそピシッとしているものの、一見するだけでは輝かんばかりの美少女にしか見えない。
びっくりもしよう。
俺は小さく頷いた。
確かめてもなければ確かめようもないが、ホーリーやペッテが悪意の有る嘘を言わないのは信じられる。
「その騎士様がどうしてシモンなんぞと連れだっておるのじゃ……」
『なんぞ』……。
「今はシモンの家で暮らしているのだ」
ホーリーはきっぱりと言い切った。
動揺したのがドグである。
俺の胸ぐらを掴んで詰め寄ってくる。
「シモン! お前、家に連れ込んだのか!?」
「違う! 人聞きが悪いぞ!」
「うむ。
吾輩が押し掛けたのだ」
「押し掛けた!? シモンのどこに惹かれる部分が有ると言うのじゃ!?」
おい、ドグ。
失敬じゃないか。
「確かにシモンは頼りないし、吾輩の身体を嫌らしい目で見たりといいところは無いのだが、事情が有るのだ」
ぐはっ。
ホーリーの言葉がぐさぐさと俺の胸を抉る。
本当のことだけに居たたまれない。
「事情? まさかシモンがお嬢さんの身体目当てに弱みを握って……」
俺ってどこまで信用が無いんだ……。
「弱みを握られるか……」
ホーリーが腕組みして考え込む。
何故だ。
「その通りやも知れぬな」
一転、快活に笑う。
しかし笑えないのは俺。
眦を吊り上げるのはドグだ。
「シモン! お前と言う奴は! そんな奴に育てた覚えは無いぞ!」
「育てられた覚えも無いよ!」
二人とも酷い。
このままじゃとんだ大悪党にされてしまう。
「いいから、俺の話を聞け!」
俺の必死の叫びはどうにかドグの耳に届いたようだった。
結局、ドグには殆ど全てを話すことになってしまった。
ドグが微妙な顔をしたのは言うまでもない。
そして案の定、ペッテに叱られた。
ホーリーがペッテにドグとのやり取りをつぶさに語って聞かせたためだ。
こんな調子で俺と初めて会った時のことも語ったのだろうと納得もした。
でもどうして俺も一緒に叱られなければならなかったのだろうか。
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