召喚するのは俺、召喚されるのも俺

浜柔

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第二章 秋

第一七話 ミニスカート

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 翌朝、ダンジョンへ出発する直前のこと。

「くれぐれも衣類を引き取るだけになさいますよう。
 さもなければこれでございます」

 逆にそうして欲しいのではと疑いたくなるくらいくどく念を押しつつ、ペッテがホーリーのミニスカートを目の前で広げた。

「わ、解っているからそれを広げるな!」

 ホーリーが真っ赤になって恥ずかしがる。
 下着じゃないのにどうしてそこまでと思ったら、穿いた時の感覚を思い出して恥ずかしくなるらしい。

「これは失礼いたしました」

 ペッテがミニスカートを畳む。

 この時、ペッテが俺に目配せしたような気がしたのだが、糸目なので真偽が判らない。




 足りなくなったのはランプもで、買い求めてからダンジョンに向かう。
 道中は問題も無く、温泉宿に着いたのは昼にまだまだ間のある時間だった。

 呼び出しの紐を引くと、パタパタとした足音と共にメーアが現れる。

「お客さん!?」

 かなり驚いた様子。
 きっと俺達が死んだと思っていたのだろう。

「すまない、女将。
 吾輩らの持ち物が届いているようなら引き取りたいのだが」

「は、はい。
 お泊まりになっていた部屋まで持って行くので待っていて欲しいのです」

「うむ。
 かたじけない」

 メーアがパタパタと駆けて行くのを見ながら俺達は部屋へと向かった。




 昨日の今日で宿泊客も少ないからか、部屋は俺達が泊まった時のままだった。
 寝室に持ち込んでいた物なども有るので、部屋を一通り確かめて全ての持ち物を居間に集める。

 それが終わる頃にはもうメーアからの荷物も届いていた。

 集めた持ち物の中でも目を惹くのは血塗れの俺の服だ。
 送還されても血が消えていないのは、そう言うものと考えよう。

 できれば一緒に消えて欲しかった。
 主に生々しさによる精神的ダメージと、普段使いにできなくて買い換えが必要そうなふところ的ダメージによる。
 尤も、穴が空いた服は血が消えたとしても普段使いにはできないので、懐的ダメージは深刻だ。
 この調子で服を駄目にしてしまっては破産する。

「戻るのがここであれば手間が掛からないのだがな」

「そうだな……」

 ホーリーの呟きに反応した俺はきっと魔が差したのだ。

「それじゃ、ここで召喚し直そう」

「え? 待つのだ、シモン!」

 ホーリーの制止を右耳から左耳へと聞き流したまま俺は呪文を唱えた。




「あ……」

 周囲のよく知る景色に俺は冷や汗を垂らす。

 ホーリーの額には青筋が浮かぶ。

「シモン……。
 待てと言っただろう!?」

「ご、ごめん……」

「この、愚か者ーっ!」

 ホーリーがまなじりを吊り上げて左右の拳を交互に振り下ろしてポカポカと俺を叩く。
 冷静で居られないらしい。
 それでも傍目には女の子がじゃれているとしか見えないだろう勢いでしかないのは、理性的、あるいは本能的な手加減か。

 とは言え、地味に痛い。
 鋼のようにカッチカチの拳は軽く当たっただけでもかなりの衝撃だ。

 それを俺は腕で頭を隠しつつ甘んじて受ける。
 ホーリーの怒りも尤ものため、平謝りするしかない。

 しかしその一方でよこしまな劣情も鎌首をもたげる。
 ひとえに目の前でぷるんぷるんと揺れるけしからんものにる。
 ホーリーが剥き出しのけしからんものを隠すよりも俺に制裁を加える方に熱心なために、けしからんものがぷるんぷるんと揺れるに任されてぷるんぷるん。
 眼福だ。

 そしてまた、そんな劣情と痛みとの間でいけないものに目覚めてしまいそうで怖い。

「何をはしゃいでいらっしゃるのですか」

 俺の部屋に入って来たペッテが呆れたように言った。




 荷物の引き取りに出直しである。

 町中を歩けばホーリーに視線が集まるのはいつものことながら、今回は一際注目を集めている。
 特に男達の血走った視線をだ。

 ホーリーは「これしかございません」とペッテが差し出したミニスカートを穿いている。
 どうにも恥ずかしいらしく、その裾を引っ張って必死に脚を隠そうとするのだが、当然ながら隠せない。
 恥ずかしげに身をよじるばかりなのだ。

 そしてその姿が色っぽい。
 「見るな」と言う方が無理だろう。

 あまりに視線を注がれるためか、ホーリーは人と擦れ違う度に縮こまって俺の陰に隠れようとする。

 何、この可愛い生き物。

 俺の目まで血走りそうだ。
 しかし後ろが少々気になってそこまでは至らない。

 ホーリーがそんな風だから後ろを付いて来ようとする輩も居るのだ。
 しかしもっと気になるのは足下から湧き出てそんな輩の足止めをする水である。

 理由が容易に想像できるので探してみると、居た。
 ペッテが鼻血を垂らしつつ付いて来ている。
 俺が気付いたのを察してか、俺に向かって親指まで立てる始末だ。

 わざとか。
 わざとなのか。

 心中そう突っ込まずにいられない。
 この様子ではミニスカートしか着替えがないと言うのも疑わしい。
 いや、わざと用意しなかったと見るべきか。
 こうして恥ずかしがるホーリーを見たかったに違いない。

 ペッテ、恐るべし。

 そのペッテも俺達がセバルスの町を抜けると引き返したようだった。
 町の外まで追い掛けてくるような輩もそう居るものではないからだろう。




 メーアに怪訝な顔をされつつ温泉宿で荷物を引き取り、俺の家に帰り着いたのは、日が沈んだ後であった。


  ◆


 ここからはダンジョンの探索を二回試みては荷物を持ち帰る繰り返しである。

 何もしない一日が挟まる分も含め、探索は遅遅として進まない。




 俺が落下した斜面は落とし穴と同じようにロープを使うことで降りられたのだが、そこから幾らも進まない内に水が落ちて来た。
 真上から途切れることなく落ちてくる大量の水に俺達はあっさり巻かれて、気付いた時には自宅だった。




 真上からの水の直撃を避けるため、斜面を降りてすかさず走った。
 結果、直撃こそ避けられたものの、後ろから押し寄せて来る怒濤のような水にあっさりと呑み込まれ、ランプも掻き消されて真っ暗な中を流された。
 そして上下も判然としない中を藻掻くだけに終わった。




 水に呑み込まれないようにと浮き輪を作って身体からだに巻くことにした。
 作製作業で頼りになるのはやはりペッテで、殆どペッテが作ったと言っても過言ではない。
 俺とホーリーは些細な作業を手伝ったくらいのものである。

 その浮き輪は、さすがペッテと言うべきか、十二分に機能を発揮した。
 しかし、水流に抗えるものではないために翻弄されるばかりだ。
 そして流れ着いた先で、どこかに落下して終わった。




 床に杭を打ち込み、流されないようにロープで身体からだを固定した。

 息が続かなかった。




 息継ぎをできるように浮き袋にもなる空気袋を作り、水が止まるのを待った。

 空気袋を幾ら大きくしても息が続く間に水が止まることは無かった。




 何度も溺れる内、温泉宿に泊まっても温泉に浸かろうとは思わなくなってしまった。

 水、怖い……。

 そして難物だ。
 罠に挑んで失敗し、対策を立てて準備をしたらまた挑むの繰り返し。
 対策と準備に数日掛かることもある。
 しかしいくら対策しても何もかも押し流されて糸口も見つけられない。
 そんな中で挑み続けるのは雲を掴むようなものだ。

 特に悩ましいのが、水に呑まれた後がほぼ暗闇になるところだ。
 ランプは当然使えず、火魔法も地上や水上ならともかく、水中で使えば水が煮えたぎるか爆発的に蒸発するだけである。
 水中で灯りを灯せるのは光魔法か魔光石で、光魔法を使えない俺達は魔光石だけとなるが、水に巻かれながら使うのはホーリーとて難しいらしい。

 水の罠に挑み始めて三〇日が過ぎた頃には、送還されてしまった・・・・・・・後のホーリーの目が死んだようになっていて、恥ずかしがる気力も無いのか、身体を隠そうともしなくなった。
 機械的に召喚し直しを促すだけ。

 多分俺も同じようなもので、ホーリーのけしからんものが揺れても心が殆ど動かなくなっていた。
 命を磨り減らすことが無くても精神はゴリゴリと削られ続けているのである。

 三人での議論も繰り返した。

 水を相手にすることから、ペッテが同行したなら突破できるかも知れない。
 しかしホーリーに加えてペッテまでは召喚できないのだ。
 同行させて万が一が有ったら元も子もない。

 ならばホーリーではなくペッテを召喚したならどうかと言うと、俺とペッテの二人で挑むことになってホーリーはお留守番となる。
 使命感の強いホーリーが温和しく待ち続けられるとは思えない。
 それにエリクサーが見つからなかったとしても、ホーリー自身の目で確認しなければ納得できないことだろう。

「それでは攻略のヒントを得るところまでシモン様と私とで参るのはいかがでしょう?」

 ペッテの提案にホーリーは当然の如く難色を示したが、行き詰まっている現状を理解できない子供ではない。
 渋々ながらも同意した。

 ホーリーは我慢できるなのである。
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