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第三章 冬
第二三話 延期
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「王都に帰るのが延期になった?」
ナイチアビーナを宿屋に送り届けて戻って来たホーリーの言葉に、俺は鸚鵡返しで問い返した。
「うむ。
ガンツ殿とウルスラ殿が風邪を引かれたのだ」
「あー」
極めて納得できる話についついペッテを見るのだが、ペッテは小揺るぎもしない。
「情けない方々でございますね」
「寒い中でびしょ濡れにされれば風邪も引くんじゃないかな……」
とは言うものの、おっさんには同情しない。
とばっちりを受けた形のウルスラには同情するが。
「あの方々の行いの悪さ故でございます。
取り分け、あの愚か者は先触れも無しに庶民を訪ねていながら、その庶民に宮中の真似事を強いようとするなど言語道断でございます」
ペッテが荒ぶっておられる。
その分だけ俺は逆に冷静だ。
「あはは……。
ペッテはあのおっさんが嫌いなの?」
「そ・の・と・お・りっ、でございます。
私も幾度となく絡まれたものでございます。
その都度叩きのめしたのでございますが」
「そうなんだ……」
「相手が誰であっても人の話を聞かず、身分を笠に着た行いを数々しでかしたことで閑職に追いやられたにも拘わらず、その質の悪さが治らないのでございます」
急な用兵にも対応できる閑職だからこそ、今回のナイチアビーナの護衛にも抜擢されたのだとか。
「そう言えば、あの時殿下が止めようとしていたのに聞かなかったな」
「殿下は見識をお持ちでございますが、あのような者をお使いになられたのはお立場の弱さ故でございましょう」
「殿下もそんなことを言ってたけど、どうして?」
「表向きは弱い回復魔法しかお持ちでないことになっているのでございます」
「表向き? あ、もっと強いんだったよね」
ホーリーが瀕死の怪我をさせた相手を治したのがナイチアビーナの魔法なのだから、実際には国一、もしかすると世界一の回復魔法の使い手だ。
「左様でございます。
弱い魔法しかお持ちでない第三王女となられますと、厚遇しようにもできないのでございます」
ナイチアビーナさえ望めば聖女と讃えられることも可能だと言う。
その代わりに国中、それだけでなく他国からも求められるままに回復魔法を使い続けなければならなくなる。
「聖女様、慈悲をお恵みください」と懇願されるならマシで、「聖女なんだから治療の義務を果たせ」と強要される。
それには先例が有り、ナイチアビーナの叔母、現国王の姉がそれが原因で心を病んだ挙げ句に自害したと言う。
それを踏まえ、ナイチアビーナの魔法は多くの人々が事実を知っていながら公然の秘密にされているらしい。
そしてその魔法は彼女の叔母に勝るものであり、それを鑑みれば下手に外国に嫁がせたり降嫁させたりもできないため、宙ぶらりんなままにされているとも言う。
逆にそのお陰で気ままに過ごせているのだから、彼女自身にとっては悪いばかりでもないのだとか。
「酷い話も有ったものだ……」
「シモン様は他人事ではございませんよ?」
「そ、そうだね……」
少し肝の冷える思いだった。
ガンツとウルスラの風邪が治るまでの間に、ここまで来たついでとしてナイチアビーナは二泊の予定で温泉宿へと赴いた。
護衛としてホーリーが、そしてペッテも温泉に未だ楽しんでいないからと言うことで同行している。
そんな訳で俺は独りである。
当然食事も用意されないので、久しく行っていなかった行き付けの食堂に足を運ぶ。
「随分久しいじゃないか。
どこかでくたばったのかと思ったよ」
食堂の女将さんがそんなことを言う。
「この通りピンピンしてますよ。
それより日替わり定食をお願い」
「あいよ」
全部で二〇席ほどの食堂の席は半分余りが埋まり、連れ立って来たらしい数組のがやがやとした話し声も聞こえる。
傭兵や狩人、近所の人に加えて旅商人らしき姿も有って雑多だ。
おかしなことに、この光景に少し懐かしさを感じる。
ふわふわとした世界から帰って来たような心持ちだ。
「お待たせ」
奇妙な感慨に耽っている間に料理が運ばれて来た。
代金と引き替えに受け取る。
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
料理を見て懐かしさを覚え、食べてまた覚える。
それ以上の感動がこの料理から消えている。
以前であれば一日頑張れたお祝いのご馳走みたいなものだったのだが、今はどこか味気無い。
季節一つと少しの間でペッテの料理に慣らされてしまったようだ。
そのペッテの料理も数日中には食べられなくなってこの店の料理がまた俺のご馳走になるのだが、この調子では慣れるのに暫く掛かりそうだ。
ホーリーの雇い主がナイチアビーナ、正しくは国である以上、ホーリーは王都に帰らなければならないのだし、ホーリーの在る所にペッテ在りだ。
こんなことを考えると俺はペッテの料理に恋しているようだが、その面も多少は否めない。
しかし一番はホーリーとペッテの料理の組み合わせだ。
ホーリーの食べる様子はとても微笑ましく、ペッテの口角が上がるのも頷ける。
まかり間違っても食えれば良いだけの俺の手料理なんて食べさせられない。
顰めっ面をさせるだけだ。
……それはそれで可愛いかも知れないが。
ナイチアビーナを宿屋に送り届けて戻って来たホーリーの言葉に、俺は鸚鵡返しで問い返した。
「うむ。
ガンツ殿とウルスラ殿が風邪を引かれたのだ」
「あー」
極めて納得できる話についついペッテを見るのだが、ペッテは小揺るぎもしない。
「情けない方々でございますね」
「寒い中でびしょ濡れにされれば風邪も引くんじゃないかな……」
とは言うものの、おっさんには同情しない。
とばっちりを受けた形のウルスラには同情するが。
「あの方々の行いの悪さ故でございます。
取り分け、あの愚か者は先触れも無しに庶民を訪ねていながら、その庶民に宮中の真似事を強いようとするなど言語道断でございます」
ペッテが荒ぶっておられる。
その分だけ俺は逆に冷静だ。
「あはは……。
ペッテはあのおっさんが嫌いなの?」
「そ・の・と・お・りっ、でございます。
私も幾度となく絡まれたものでございます。
その都度叩きのめしたのでございますが」
「そうなんだ……」
「相手が誰であっても人の話を聞かず、身分を笠に着た行いを数々しでかしたことで閑職に追いやられたにも拘わらず、その質の悪さが治らないのでございます」
急な用兵にも対応できる閑職だからこそ、今回のナイチアビーナの護衛にも抜擢されたのだとか。
「そう言えば、あの時殿下が止めようとしていたのに聞かなかったな」
「殿下は見識をお持ちでございますが、あのような者をお使いになられたのはお立場の弱さ故でございましょう」
「殿下もそんなことを言ってたけど、どうして?」
「表向きは弱い回復魔法しかお持ちでないことになっているのでございます」
「表向き? あ、もっと強いんだったよね」
ホーリーが瀕死の怪我をさせた相手を治したのがナイチアビーナの魔法なのだから、実際には国一、もしかすると世界一の回復魔法の使い手だ。
「左様でございます。
弱い魔法しかお持ちでない第三王女となられますと、厚遇しようにもできないのでございます」
ナイチアビーナさえ望めば聖女と讃えられることも可能だと言う。
その代わりに国中、それだけでなく他国からも求められるままに回復魔法を使い続けなければならなくなる。
「聖女様、慈悲をお恵みください」と懇願されるならマシで、「聖女なんだから治療の義務を果たせ」と強要される。
それには先例が有り、ナイチアビーナの叔母、現国王の姉がそれが原因で心を病んだ挙げ句に自害したと言う。
それを踏まえ、ナイチアビーナの魔法は多くの人々が事実を知っていながら公然の秘密にされているらしい。
そしてその魔法は彼女の叔母に勝るものであり、それを鑑みれば下手に外国に嫁がせたり降嫁させたりもできないため、宙ぶらりんなままにされているとも言う。
逆にそのお陰で気ままに過ごせているのだから、彼女自身にとっては悪いばかりでもないのだとか。
「酷い話も有ったものだ……」
「シモン様は他人事ではございませんよ?」
「そ、そうだね……」
少し肝の冷える思いだった。
ガンツとウルスラの風邪が治るまでの間に、ここまで来たついでとしてナイチアビーナは二泊の予定で温泉宿へと赴いた。
護衛としてホーリーが、そしてペッテも温泉に未だ楽しんでいないからと言うことで同行している。
そんな訳で俺は独りである。
当然食事も用意されないので、久しく行っていなかった行き付けの食堂に足を運ぶ。
「随分久しいじゃないか。
どこかでくたばったのかと思ったよ」
食堂の女将さんがそんなことを言う。
「この通りピンピンしてますよ。
それより日替わり定食をお願い」
「あいよ」
全部で二〇席ほどの食堂の席は半分余りが埋まり、連れ立って来たらしい数組のがやがやとした話し声も聞こえる。
傭兵や狩人、近所の人に加えて旅商人らしき姿も有って雑多だ。
おかしなことに、この光景に少し懐かしさを感じる。
ふわふわとした世界から帰って来たような心持ちだ。
「お待たせ」
奇妙な感慨に耽っている間に料理が運ばれて来た。
代金と引き替えに受け取る。
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
料理を見て懐かしさを覚え、食べてまた覚える。
それ以上の感動がこの料理から消えている。
以前であれば一日頑張れたお祝いのご馳走みたいなものだったのだが、今はどこか味気無い。
季節一つと少しの間でペッテの料理に慣らされてしまったようだ。
そのペッテの料理も数日中には食べられなくなってこの店の料理がまた俺のご馳走になるのだが、この調子では慣れるのに暫く掛かりそうだ。
ホーリーの雇い主がナイチアビーナ、正しくは国である以上、ホーリーは王都に帰らなければならないのだし、ホーリーの在る所にペッテ在りだ。
こんなことを考えると俺はペッテの料理に恋しているようだが、その面も多少は否めない。
しかし一番はホーリーとペッテの料理の組み合わせだ。
ホーリーの食べる様子はとても微笑ましく、ペッテの口角が上がるのも頷ける。
まかり間違っても食えれば良いだけの俺の手料理なんて食べさせられない。
顰めっ面をさせるだけだ。
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