ぬいぐるみとの約束

misa

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そよかぜにのせて

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涙を抑えるために深く息を吸いこむと、胸の奥がじんわりとあたたかくなる。
前の世界では、こんなにも澄んだ空気を吸ったことがなかった。

「ここは……どこなの?」
もう一度問いかけると、ノアが金色の瞳を細めて答えた。

「ここは《ルミナリア》。女神さまが作って見守ってる、魔法と剣の世界だよ」

「ルミナリア……」
その名前を口にすると、不思議と胸が落ち着いていく。

ノアは空を見上げながら、やさしく続けた。
「この世界にはね、人間だけじゃなく、獣人やエルフ、妖精たちも暮らしている。
みんな種族は違っても、自然と女神の加護に守られて、一緒に生きているんだ」

「……おとぎ話みたい」
わたしは目を丸くしてつぶやいた。

ノアはくすっと笑い、手のひらを開いた。
すると、そこに小さな風が生まれ、草原の花をそっと揺らす。

「魔法はね、力じゃなくて想いがカギなんだ。
君が“風と一緒にいたい”って思えば、風はそっと寄り添ってくれるよ。」

胸が高鳴り、わたしは思わずノアの袖をちょんと掴んだ。
「……わたしも、できるかな?」

ノアは金色の瞳をニコっと細めた。
「もちろん。シエルならきっとできる」

その言葉に背中を押され、わたしは両手を胸の前でぎゅっと重ねた。
深く息を吸い込み、心の中でそっと願う。

(風さん、集まって)

その瞬間、手のひらのあいだから、ふわりとやさしい風が生まれた。
風はわたしの髪をそっとなで、ノアの毛をやさしく揺らして通り抜けていく。
若葉がさらさらと音を立て、小さな花がふるえるようにゆれていた。

「……!」
ノアの金色の瞳が驚きに見開かれる。

「……で、できた……!」
思わず声が震える。

その瞬間、どこからか一羽の小鳥が舞い降りてきた。
羽ばたく音がやさしく響き、わたしの肩にちょこんととまる。
羽毛のふわりとした感触がくすぐったくて、思わず小さく笑ってしまった。
まるで「はじめまして」と挨拶しているみたいに。

「すごいな、シエル!」
ノアが褒めてくれる。
「君の心に応えて、風も小鳥も駆けつけたんだ」

胸の奥が熱くなり、頬が自然にほころぶ。
わたし、ほんとうにこの世界にいるんだ。

小鳥は羽をふるわせ、澄んだ声でさえずった。
その音色が胸に響いて、わたしはそっと目を閉じる。

ここでなら、きっと。

「ねぇ、ノア」
肩にとまった小鳥を見つめながら、ぽつりと口を開いた。
「わたし……この世界で、たくさん笑いたい。前の世界では病気ばかりで、できなかったことがいっぱいあるから……」

ノアは黙って耳を傾けていた。
風がやさしく髪を揺らす。

「いろんな場所に行って、たくさんの人と会って、"生きてる"って感じたいの」

言葉にした瞬間、胸の奥が熱くなり、涙があふれそうになる。
けれど、今度は泣かずに笑った。

ノアはにこっと微笑んで、金色の瞳を細める。
「いい願いだね、シエル。
じゃあ僕も、その旅に付き合うよ。
さあ、笑う準備はできてる?」

肩の小鳥が、まるで賛同するように一声さえずった。
わたしはぎゅっとノアの手を握りしめた。
やわらかなそよかぜが、未来への道しるべのように頬を撫でていく。
 
ここから、わたしの新しい冒険がはじまるんだ。
今度こそ、わたしは自由に笑える、ノアといっしょに。

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