ぬいぐるみとの約束

misa

文字の大きさ
4 / 19

新しい光とともに

しおりを挟む
白きつねは静かに身を起こし、淡い紫の瞳でシエルを見つめた。
その表情はもう苦しげではなく、どこか穏やかでやさしい。

「もう、大丈夫みたい……」
シエルが小さくつぶやくと、白きつねは尾を揺らし、まるで「ありがとう」と言うように鼻先を近づけた。

思わずくすぐったそうに笑い、シエルはそっとその頭を撫でる。
温かな毛並みの感触に、胸の奥まであたたかさが広がった。

ノアが隣で微笑む。
「君の気持ちが、ちゃんと届いたんだね」

シエルは深呼吸をひとつしてそっと立ち上がった。
白きつねもゆっくりと立ち上がり、淡い紫の瞳がシエルを静かに見つめると、そのまわりの空気がやわらかく揺らぎ始めた。

光の粒がひとつ、またひとつと生まれ、風に舞いながら集まっていく。
やがてそれらは重なり合い、シエルの手のひらの上で涙の形をした宝玉へと姿を変えた。
宝玉はやさしく輝き、まるで心臓の鼓動に合わせるようにかすかに震えていた。

「……これ、わたしに?」
シエルが問いかけると、白きつねはいったん小さく首を振った。
でもすぐに、こくんと頷いた。
まるで「違うけど、君に託したいんだ」と言ってるようだった。
そのやさしい瞳に、シエルの心はふわりとほどけていく。

ノアが微笑み、やさしく囁く。
「光の雫のペンダント……女神さまの加護を宿す宝玉だ。
きっと、シエルの優しい想いに応えたんだね」

ノアの手を借りて首にかけると、宝玉が胸に触れた。
その瞬間、やわらかな温もりが全身に広がり、心の奥まで光に包まれる。
まるで女神さまに抱きしめられているみたいだった。

「……すごい。あったかい……」
シエルは胸の前でペンダントをぎゅっと握りしめた。
「ありがとう……大切にする」

すると、宝玉がふわりと光を強めた。
まるで「よろしくね」と応えてくれたようで、シエルは思わず笑みをこぼす。

白きつねは静かに尾を揺らし、淡い光をまとわせて鼻先でシエルの頬にそっと触れた。
その瞬間、尾の先から小さな光の花びらがふわりと舞い上がり、風に乗って空へ溶けていく。
まるで「また会えるよ」と告げているみたいだった。

シエルはその姿が見えなくなるまでじっと見送り、小さな声で呟いた。
「また……会えるかな」
答えはなかったけれど、風がやさしく頬を撫でてくれた。

ノアが金色の瞳をやさしく細める。
「シエル、この光はきっと君を守ってくれる。
だけど……守るだけじゃなく、シエル自身を強くするはずだよ」

シエルはうなずき、笑顔を見せた。
「うん。わたしも……この光を守る」

木々の間から差し込む光が強くなり、やがて視界が開けていく。
広い草原が果てしなく続き、その向こうに小さな村の屋根が見えた。
胸が高鳴り、シエルは思わず一歩を踏み出す。

「あそこに行けば……きっと、たくさんの笑顔に会える」

新しい光を胸に抱きしめながら、二人の冒険は静かに、そして確かに始まっていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界リメイク日和〜おじいさん村で第二の人生はじめます〜

天音蝶子(あまねちょうこ)
ファンタジー
壊れた椅子も、傷ついた心も。 手を動かせば、もう一度やり直せる。 ——おじいさん村で始まる、“優しさ”を紡ぐ異世界スローライフ。 不器用な鍛冶師と転生ヒロインが、手仕事で未来をリメイクしていく癒しの日々。 今日も風の吹く丘で、桜は“ここで生きていく”。

【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました

きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

義妹に苛められているらしいのですが・・・

天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。 その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。 彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。 それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。 儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。 そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

魔女の祝福

あきづきみなと
恋愛
王子は婚約式に臨んで高揚していた。 長く婚約を結んでいた、鼻持ちならない公爵令嬢を婚約破棄で追い出して迎えた、可憐で愛らしい新しい婚約者を披露する、その喜びに満ち、輝ける将来を確信して。 予約投稿で5/12完結します

答えられません、国家機密ですから

ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。

転生令嬢と王子の恋人

ねーさん
恋愛
 ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件  って、どこのラノベのタイトルなの!?  第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。  麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?  もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?

処理中です...