ぬいぐるみとの約束

misa

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初めての村

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木々を抜けて歩き続けると、森の空気が少しずつ開けていった。
陽の光が強さを増し、石造りの家々の屋根が並び、あたたかな気配が胸に広がっていった。
ノアが足を止めて、指をさした。

「シエル、あそこが村だよ」

胸がどきりと高鳴る。
新しい場所、人との出会い。
わたしの心は、不安と期待でいっぱいになった。

小道の先に見えたのは、こぢんまりとした石造りの家々。
屋根の並びは素朴で、どこかあたたかな空気が漂っている。
畑には風にそよぐ麦の穂が広がり、洗濯物が太陽の光を受けてやわらかに揺れていた。
ノアが足を止めて、にこやかに言った。

「ここで一息つこっか、シエル。どんな人たちと会えるか楽しみだね!」

知らない人と会うのは、やっぱり少しこわい。
けれど、その奥にある“はじめて”の出会いがどこか楽しみで、
緊張でぎこちない足取りのなかに、ほんの少しだけ力がこもった。

村の入り口が近づくにつれ、子どもたちの笑い声や、かすかなパンの香りが風に混ざって届いてきた。
体の中がふわっとして、思わずノアの手をちょんとつかんだ。

そのとき。
背後から落ち着いた声がした。

「おい、そこの子」

はっとして振り返ると、背に弓を背負った男が小道を歩いてきていた。
肩には狩りで仕留めたらしい獲物を提げ、日に焼けた顔は少し厳しげだが、目元はやさしい。

シエルは思わずびくりと体をすくめ、ノアの背に隠れる。

「大丈夫だよ、シエル」
ノアがそっと肩に触れて安心させてくれる。

男は足を止め、少し眉をひそめて言った。
「……君、ひとりか? こんな小さな子が旅をしてるなんて……危ないだろう」

シエルは喉がきゅっと締まって声が出ない。
おずおずとノアを見上げると、ノアがにこっと笑ってうなずいた。

勇気をふりしぼり、シエルは小さく口を開いた。
「……ひとりじゃないよ。ノアがいるから」

男の視線がノアに移り、一瞬驚いたように目を見開いた。

「……動く、ぬいぐるみ……? いや、そんなはず……」
それでもすぐに、シエルに寄り添うノアを見て、安堵するようにわずかに表情をゆるめた。。
 
「そうか……頼もしい相棒がいるなら、安心だな」
男は少し肩の力を抜き、シエルをじっと見つめた。

その瞳の奥に、ほんのわずかな戸惑いが揺れる。
まだ幼い子どもが旅をしていることに、理由があるのではと感じたのだ。

「けれど、この辺りは魔物も出る。危険な場所だ」
言葉を探すようにして、男は続けた。
「よかったら、俺の村まで来ないか。小さな村だが、休める場所くらいはある」

シエルは目を瞬かせてノアを見上げる。
ノアは金色の瞳をやわらかく細めて、そっと頷いた。

不思議と怖さがやわらいで、心がすこし軽くなる。
「……わたし、行ってみたい」
 シエルは小さな声ながらも、まっすぐにそう告げた。

男は微笑み、手で道を示した。
「こっちだ。安心してついてきな」

三人は小道を村の方へと歩き出す。
やわらかな風が背中を押すように吹き、どこか新しい予感が胸に広がっていった。
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